夜…もう美子もすっかり眠って、ぼくもそろそろ寝ようかと思っていた。
でも、女神様はじっと外を見ている。
「女神様、何かあります?」
「ううん、虫の声を聞いていたの」
耳を澄ますといろいろな虫の声が聞こえてきた。
「秋の夜は虫の声がきれいね」
女神様はふわりと笑うとこちらを向いた。
「ちょっと外に出てみようか」境内は真っ暗で、少しひんやりとした。
「涼しくていい気持ちね」
女神様は嬉しそうに言う。
「えぇ、とても」
ぼくは深呼吸をした。
見回すといろいろな虫がいる。
ぼくは狛犬で、女神様は神様だから真っ暗な中でもはっきりと見えるのだ。
草の陰に昆虫が数匹…
「女神様、バッタです」
「コマ、あれはキリギリスよ」
耳を澄ますと鳴いていた。
「美子のために2〜3匹捕まえて…」
「やめなさい、共食いするから」
女神様は言った。
美子に見せるにはちょっとえげつない…
「あれは…コオロギ…かな?」
ぼくは虫には詳しくない。
「そうね、コオロギだね」
女神様が言う。
「美子のために5〜6匹捕まえて…」
「やめなさい、共食いするから」
それはさすがに美子には見せられない。
「あ、あっちのは…大いz…いや、スズムシですね」
「あら、本当、スズムシもいたね」
スズムシは植木鉢の近くにいた。
「スズムシなら捕まえても…」
「やめなさい、共食いするから」
「スズムシもですか?」
「スズムシもなのよ」
昆虫採集は諦めた。
「秋の虫は捕まえなくても、夜に声が聞けたら十分じゃない?」
女神様はしみじみと言った。
「えぇ、そうですね」
ぼくは深く納得した。
「明日は美子も一緒に境内に出ましょうね」
「えぇ、ぜひとも」
ぼくは答える。
ぼくたちの間を涼しい秋風が優しく吹き抜けるのだった。
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