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第11話:たこ焼きと見つけた君の一面
涼架side
若井くんとの間に流れる穏やかな空気が心地よかった。
その時、向こうから元貴くんと綾華がたこ焼きのパックを手に持って戻ってきた。
「おーい!待たせたな!」
元貴くんが楽しそうな声を上げると、綾華もそれに続いて私たちの元へやってくる。
「若井くん、涼架、お待たせ!たこ焼き買ってきたよー!」
「サンキュー、元貴」
若井くんはそう言って、元貴くんからたこ焼きを受け取ろうとする。しかし、元貴くんはいたずらっぽく手を引っ込めた。
「ちゃった待った!熱いから、ほら、あーんってしてやるよ」
元貴くんの言葉に、若井くんは顔をしかめる。
「はぁ?何言ってんだよ。俺は子どもじゃないんだから、自分で食えるだろ」
「いいからいいから!熱いの火傷するぞ!ほら、口開けろって!」
元貴くんは、熱々のたこ焼きをフーフーと覚ましながら、若井くんの口元に持っていく。
若井くんは、観念したように小さく口を開けた。元貴くんは、そんな若井くんの口に、嬉しそうにたこ焼きを運んでやる。
「んむぐ…おいしい…」
若井くんは、たこ焼きを口いっぱいに頬張りながら、満足そうな表情を浮かべた。
その姿は、いつもクールな『狼』の姿とはかけ離れていて、まるで懐いた子犬のようだった。
「だろ!お前、いっつも『自分で食える』とか言って全然食わないんだから!熱いの苦手だろ、お前は」
元貴くんが楽しそうに笑いながら若井くんの頭をぐしゃぐしゃと撫でる。
若井くんは、されるがままにされていて、少しだけ照れているようにも見えた。
「もうやめろって!子ども扱いするなよ!」
「あーあ、俺のたこ焼きが若井の口の中に…」
二人は、周囲の目を気にすることなく、大きな声でふざけ合っている。
私は、そんな二人の様子をただただ見つめていた。
(若井くんが、こんなにも無邪気に笑うなんて知らなかった…)
いつも見せるクールな表情や、不器用な態度とは違う、心から信頼を寄せている相手の前だけで見せる、無防備で可愛らしい姿。
元貴くんとの間の、あの強固な友情の証だった。彼は、本当に優しい人に囲まれているのだ。
その瞬間、私の胸に、止められないほどの愛おしさがこみ上げてきた。
いつもの「強い狼」であろうと頑張っている彼の、隠された一面。私が描きたかったのは、まさにこの顔だ。
「…可愛い」
私は、思わず心の声を漏らしてしまっていた。
しかし、その声は、祭りの喧騒と二人の笑い声にかき消され、誰にも届くことはなかった。
…はずだった。
「ん?涼架、今なんか言った?」
たこ焼きを頬張り終えた若井くんが、私の方を向いて尋ねる。
彼の口元には、まだソースが少しついている。
「え、あ…なんでもないよ!」
私は、自分の発した言葉が聞こえていたのではないかと焦り、必死に言葉を探す。
顔が熱くなるのを感じた。
「たこ焼き、おいしそうだなって!」
私がそう言うと、若井くんは不思議そうな顔をしながらも、手渡されたたこ焼きパックを私に差し出した。
「そうか。はい、これ、涼架の分」
「あ…ありがとう」
私は、ドキドキしながらたこ焼きを受け取った。若井くんの、今の一瞬の可愛らしい表情が私の脳裏に焼き付いて離れない。
こんなにも無邪気な子犬の一面が隠れていたなんて。それは、私にとって、彼の新しい魅力の発見だった。
私のスケッチブックに、また一つ、新たな若井滉斗の姿が加わった。
「ねぇ、涼架。今、若井くんの子犬モード見れて、最高の絵の題材ゲットしたでしょ?」
綾華が、私の耳元で楽しそうに囁いた。
私は頬を抑えながら、小さく頷いた。
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コメント
3件
あやちゃんには何でもお見通しだね!
たこ焼きに感謝(?)
かわよすぎる 続きが楽しみ!