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第12話:新しいスケッチ
涼架side
夏祭りから一夜明けた次の日、私は学校近くの公園に来ていた。
昨日の浴衣姿で歩いた駅前の賑わいとは違いここは静かで、木々の緑と夏の陽射しが心地よい。
ベンチに腰を下ろし、私はお気に入りのスケッチブックを広げた。
開いたページには、昨日、私が見つけた若井くんの新しい姿。熱々のたこ焼きを「あーん」され、頬を膨らませて食べる、無邪気な彼の横顔だ。
鉛筆を握る私の指先は、いつもよりずっと滑らかに動いた。
昨日までのスケッチには、クールな『狼』としての若井くんの姿が多かったけど、今日の線はどこか温かく、そして愛おしさに満ちている。
「ふふ…」
スケッチしながら、思わず笑みがこぼれてしまう。あの時の彼の「んむぐ…おいしい…」という声まで、鮮明に思い出せる。
「うわ、涼架!何ニヤニヤしてるのさ!」
突然、背後から声をかけられ、私は飛び上がった。振り返ると、そこには綾華が立っている。
彼女は、私の手に持っているスケッチブックを見て、すぐに察したような顔をした。
「綾華!もう、びっくりさせないでよ!」
「ごめんごめん!でも、そんな幸せそうな顔して、何描いてるのかな〜って思ったら…やっぱり!」
綾華は私の隣に座り、スケッチブックを覗き込んだ。
「これ、若井くんだよね?昨日、元貴くんにたこ焼き食べさせられてた時の!うわー、涼架めっちゃ上手!っていうか、この若井くん、いつもと違って、すごく可愛いね!」
綾華の言葉に、私は深く頷いた。
「そうなの!」
綾華は、スケッチブックをじっと見つめていたが、突然、興奮したように私の肩を揺らした。
「ねぇ、涼架!これ、絶対に、夏休みの課題の絵にしなよ!絶対、面白いよ!」
「え?これを?」
私は、少し戸惑った。夏休みの課題は、公に張り出されるのだ。
しかも、テーマが————で、若井くんの無防備な一面を出すのは、少し恥ずかしい。
「いいじゃん!いいじゃん!ねぇ〜」
「うーん…でも、若井くん、この絵張り出されてるの見たら、きっと恥ずかしがるよ…」
私が心配すると、綾華は逆に楽しそうな顔をした。
「それがいいんじゃない!若井くんが赤面してるの、見たくなーい?それにさ、この絵見たら若井くんは分かるはずだよ。涼架が彼の全部を受け入れたってこと。クールな部分だけじゃなくて、無邪気で、熱いものが苦手な、可愛い若井くんも全部ひっくるめて、涼架は受け入れてるって!」
綾華の言葉は、いつも私の背中を押してくれる。そうだ、私はこの絵で、若井くんへの想いを完成させたい。
「…わかった。私、この絵で課題を出す。若井くんの、この一番愛おしい表情を、みんなにそして彼自身に見てほしい」
私が決意を固めると、綾華は両手を叩いて喜んだ。
「よし!決まり!涼架の渾身の『たこ焼き若井くん』!私も完成が楽しみだよ!」
「うん、ありがとう、綾華」
私は、スケッチブックのたこ焼きを頬張る若井くんの顔をもう一度見つめた。私の夏は、この絵と共に、確実に次のステップに進んでいる。
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[美術室の秘密]
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コメント
1件
めっちゃリアルな若井くんの絵が張ってあるの、ウチが見たら笑っちゃいそうw