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ミーンミンミンミンミンミーーーーーン
うるさいぐらいに、セミの声が響く。
私の名前は紅月アスカ。
怪盗レッドの実行担当役で、ナビ役でいとこの紅月ケイは、行きたいところがあるからって、今日は家にいない。
いつも部屋でパソコンの作業をしているケイが出かけるなんて、よっぽどの事じゃないとありえない。
にしても……
私は壁にかかっているカレンダーにチラッと目をやる。
今日は7月20日……いわゆる、私の誕生日だ。
こんな日にケイは出かけるなんて、ちゃんと今日が何の日か分かった上でやってるのかな。
全く……相変わらずだよ……
私はため息をつく。
そういえば今日は、親友の実咲達が忙しくて、誕生日会が出来ないって言ってたっけ。
毎年毎年、私の誕生日になると、実咲や優月が誕生日会を提案してくれて、プレゼントまで用意してくれる。
こないだは、私のお父さんのレストランでやったんだよね。
可愛い後輩の奏も来てくれて、みんなシュシュを4つぐらいくれたっけ。
……で、帰りに怪盗ファンタジスタの織戸恭也にまでもお祝いされて。
夜道にいると、恭也ってただの怪しい男なんだよね。
いつもサングラスかけてるけど、それが似合いすぎて逆に怪しさを増してる。
ま、そんなことは置いといて。
残念ながら、今年は実咲も優月も水夏も、みんな親の仕事の関係や旅行とかで誕生日会ができないらしくて。
残念だけど、さっき3人と奏にプレゼントもらったし、祝ってくれるだけで嬉しいってことは、伝えておいた。
はぁ……暇だなぁ……
お父さんたちは仕事があって家にいないし。
まあ、暇でもちょっとは動いた方がいいよね。
私は2段ベットの上に寝転んだ体を起こす。
そのままハシゴを使わず、ジャンプをしてほぼ無音で着地して降りると、郵便ポストに向かった。
「ええっと……あったあった」
団地の郵便ポストの自分の部屋番号を開けると、白い綺麗な封筒が入っていた。
そこには、「紅月アスカ」……っと、私の名前が書いてあった。
「私宛の手紙かぁ……」
私はそのまま早足で階段を上ると、部屋に入り、リビングに置いてあったハサミで丁寧に封筒を開ける。
「ええっと、なになに……
『子猫ちゃんへ
誕生日おめでとう、子猫ちゃん
お祝いをしたいから、今日の午後7時、赤いスカイタワーの前で待っていてくれ。
いい日になるといいね、子猫ちゃん
織戸恭也』
……………………………………いやいやいやいやいや、なにこれ」
予想外の手紙の内容に、思わず何度も確認したくなる。
こないだの私の誕生日で、夜道であった恭也に、お得意のマジックでお祝いされたことがある。
まさか今日は、本格的に祝うつもり?
恭也はいつも呑気だけど、一応あれでも怪盗ファンタジスタだ。
豪華客船の時といい、フラワーヴィレッジ城の時といい、彼とは何度か戦ったことがあるし、UFパークの時や、琴音さんを囮にしてタキオンと戦ったりと、共闘したこともある。
まあ、そういう協力関係になったことは何度かあるけど、仲間になったわけでも、友達になったわけでもない。
ってことはやっぱり、タキオン絡みでなんかあったってこと……?
最近の恭也は、盗賊組織ラドロのメッセンジャーとして、私の前に現れることが多い。
それも、国際的犯罪組織タキオンについて。
UFパークの時もそうだったし、あの時は恭也と協力して爆弾を止めた。
恭也は私たちと同じように、2代目怪盗ファンタジスタで、初代はラドロのボスらしい。
だから、お祝いと見せかけて、本当はまた伝言だったり……?
……ううん、こんなところで考えてても私らしくない。
一応警戒はするけど、やっぱり行って確かめるのが実行担当役だ。
色々考えるのはケイの仕事だし。
そう言って、私は待ち合わせ場所のスカイタワーへ行く準備を始めた。
★★★★★
午後6時50分頃。
私は電車に揺られてスカイタワーの最寄り駅まで着いた。
そのまましばらく歩くこと約10分。
「着いた……」
私は赤いスカイタワーの前に立つ。
確かスカイタワーは、レッドの仕事の時に行ったことがあるっけ。
そう考えていると、「やあ、子猫ちゃん」という呑気な声がした。
「……恭也」
その姿に、私は相変わらずため息をつく。
目立つ綺麗な金髪に整った顔立ち。
そしていつもの如くサングラスをかけている。
「……前から聞きたかったんだけど、そのサングラスなんなの?」
「おれはこれでも有名人だからね。ちゃんと顔を隠さなきゃ」
「………………………………。」
「おっと子猫ちゃん、そんな目で見ないでくれよ」
確かに恭也は世界でも有名なマジシャンをしている。
とはいえ、顔のちょっとしか隠れてないし、どうせそんなこと言うと「この顔を隠せって?それはもったいないじゃないか」っていつも言ってくる。
相変わらずそんなおちゃらけたことを平気な顔で言うし、私からしたら普通に呆れる。
……って言うか、従者のマサキですら呆れてたし。
「……で、今日は何の用なの」
私は呆れながら恭也に聞く。
「手紙にも書いたとおり、子猫ちゃんの誕生日のお祝いだよ」
恭也はニコッと微笑む。
そのまま「ついてきて」と促される。
しばらく歩くと、スカイタワー内のソフトクリーム屋につく。
「今日は子猫ちゃんの誕生日だしね。本当はレストランとかでおれの奢りで好きな物食べさせたかったけど、君が遠慮しちゃうと思って。俺の奢りなのは変わらないけど、ソフトクリーム食べていいよ」
そう言って恭也は、メニューを見ながら「何食べたい?」と聞いてくる。
「え、ちょっと待ってよ。恭也の奢りって……いくら誕生日でも、ちょっとそれは……」
「いいのいいの、おれが好きでやっただけだから。子猫ちゃんの誕生日なんだから、全力で祝いたいしね」
「……じゃあ、ストロベリーで」
私は素っ気なく言う。
恭也の奢りで食べるって、借りを作ってるみたいで何となく気が引けるけど、せっかくのソフトクリームだし。
しばらくして恭也が、ストロベリーバニラのソフトクリームを持ってやってくる。
そのまま席に座る。
「ねえ……なんでこの席にしたの?」
私は今自分が座ってる席を見ながら恭也に聞く。
そこは壁際に置かれた長いすで、私のすぐ隣には恭也が座ってる。
……しかも、ほぼゼロ距離と言えるほど近くに。
「食べてみればわかるよ」
恭也が、何故かからかうように言ってくる。
そんなからかうほどのことなのかな……と思いつつも、私はソフトクリームをひと口食べてみる。
「んんー、おいしい!」
ストロベリーバニラは甘くて、中にお餅が入ってるから、弾力があって歯ごたえがある。
またひと口、またまたひと口。
美味しすぎていくらでも食べられちゃうよ!
と、次のひと口を食べようとした時。
パクッ
横にいる恭也が、私のソフトクリームをひと口食べる。
「ちょ、ちょっと!」
私は慌てて恭也とソフトクリームを遠ざける。
「ごめんごめん、つい」
恭也が笑いながら言ってくる。
まあ確かに、これは恭也が奢ってくれたものだけど!
私を気持ちを切り替えてまたパクッと食べる。
───ん?
私は、ある異変に気づく。
なーんか、違和感があるというか……
「………………あ」
たっぷり間があってから、私は気づく。
「そのソフトクリーム、すごく甘いね。」
恭也が笑みを浮かべながら言ってくる。
かあぁぁぁぁ///
顔に火がついたように熱くなったのが、自分でも分かった。
やばい。今すぐ逃げたい。
だって今のって……
ダメダメ!これ以上考えちゃだめだ!
って言うか、食べてみればわかるって、こういうことだったの……?
ああもう!相変わらず恭也はずるい。
こっちがドギマギするようなことを平気な顔で言ってのける。
「子猫ちゃん。顔、赤いよ?」
恭也が私の顔を覗き込みながら言ってくる。
慌てて目をそらそうとしたけど、その前に恭也に額を触られていた。
「熱でもあるのかなぁ?」
そうからかうように言いながら私の額に触れる恭也の手は、とても温かかった。
「ちょっ……やめて!」
慌てて恭也の手を振り払う。
「あはは、ごめんって。……あとこれ、誕生日プレゼント」
完全に、恭也のペースに振り回されっぱなしなんですけど……
そう思いながらも、私は差し出された紙袋を受け取り、中身を見てみる。
「これは……指輪?」
「子猫ちゃんにあげるよ」
恭也がウインクする。
「じゃ、もうそろそろ行くね。」
そう言って、恭也は立ち上がる。
「え、もう行くの?」
「そんなに、そばにいて欲しいのかい?」
「いや、そう事じゃ……」
「早く帰らないと、マサキが夕飯を作って待ってるからね。一緒に食事するなら、また今度ね。………………誕生日おめでとう、子猫ちゃん。……いや、アスカ」
ドキッ
そう言って、恭也はきびすを返して歩いていく。
私は、その恭也の背中に向かって叫んだ。
「さっきのソフトクリームのこと、忘れないでよね!」
多分今私、顔真っ赤だ。
「……………………忘れるわけないだろ」
ん?今恭也何か言った?
声が小さくてよく聞こえなかった。
そのまま背中が見えなくなるまで見送ると、恭也から貰った指輪をギュッと握った。
「…………………………絶対に、お返しするから」
そう、指輪を握ったまま呟いた。