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「うぅ……さむ……」
私は、リビングのこたつ布団にくるまって震えていた。
私の名前は紅月アスカ。
怪盗レッドの実行担当役で、ナビ役でいとこの紅月ケイは、部屋でレッドの仕事の準備をしている。
……とは言っても、パソコンの作業だけだけど。
今日は12月10日。
冬の寒さが徐々に強くなり、1月や2月という冬本番の前だ。
そして今日は……怪盗ファンタジスタこと、織戸恭也の誕生日。
え?どうして私が恭也の誕生日を知ってるかって?
そりゃぁ、ちょっと色々あって……ね。
私は5か月前の、私の誕生日のことを思い出す。
あの日はいつもみたいに誕生日会ができなくて暇だったところ、恭也に誘われて一緒に出かけたんだっけ。
で、恭也の奢りでアイスクリームを食べたんだけど……
そのアイスクリームを通して関節キスしてしまい、誕生日プレゼントを渡されてからすぐに帰ってしまった。
ほんと、やりたい放題してんだから……
私はため息をつく。
だいたい関節キスって……
恭也って確か高校生ぐらいじゃなかったっけ。
全然学生って感じしないけど、琴音さんが大学生ぐらいだからなぁ……
花里琴音さんは、恭也の生き別れのお姉さん。
花里グループの一人娘であり、探偵響と仲がいい。
琴音さんはフラワーヴィレッジ城で、怪盗ファンタジスタとしての恭也とあったことがある。
ファンタジスタの正体が恭也だと知らないはずなのに、姉の勘ってやつで、「ファンタジスタと会うと懐かしい感じがする」って言ってたっけ。
恭也自身も、琴音さん自身も、そういう事情で辛いはず。
あの二人が、仲良くする時が来るのだろうか。
そもそも、怪盗ファンタジスタということがバレる時点で一緒に居られない。
もしバレたら、多分恭也は刑務所行きだ。
私もケイも、初代ファンタジスタも辛いけど、何より琴音さんが1番耐えられない。
花里グループの一人娘であり後継者であり、大きな責任を持っている仕事をするのに、生き別れの弟が刑務所行きなんてそんなの耐えられない。
「はあ……」
自然と大きなため息が出る。
恭也が高校生で、私が中学生だから……
まあ、この差で恋愛なら出来ると思うけど、一応敵同士ではあるから、禁断の恋……みたいになっちゃうのかな。
……ってか、なんで恋愛する前提に考えてるんだろ。
とにかく、5か月前のお返しということで、恭也の誕生日にプレゼントを渡すってわけ。
で、もうプレゼントは買ってあるから、後は恭也を呼んで渡すだけってこと。
でもなぁ……
恭也を誘ってプレゼントを渡すって、何となく気が引ける。
それも、こないだの関節キスがなかなか頭から離れてくれない。
だってあれは、私にとってのファーストキスでもある。
恭也はあれでもモテるから、色んな人とキスしてるのかなぁ……
そう考えると、何故か胸が痛くなる。
ダメダメ!こんなこと考えちゃダメだ。
とにかく、恭也を呼ばないと。
私はリビングを出て階段を駆け上がり、部屋のドアを開けて入る。
相変わらず、ケイはパソコンにむかって作業をしている。
私はそんなケイを無視し、自分の机に置いてあるスマホを取る。
UFパークの時、恭也と連絡先を交換してる。
私は恭也に電話をかけた。
プルルルルルル プチッ 「もしもし。何かお困り事かい?」
あれ?案外早く出た。
まあいいや、早く誘っちゃお。
「恭也。今日って恭也の誕生日で合ってるよね?誕生日プレゼント渡したいんだけど。」
そう言うと、電話の向こうの恭也が、すごく嬉しそうになったのがわかる。
「君からプレゼント?嬉しいね。」
「……午後7時に、青いスカイタワーの前で待ってて」
「ありがとう。楽しみにしてるよ。」
そう言って、電話が切れる。
「………………アスカ」
不意に、ケイが私を呼んでくる。
「何?」
「…………織戸恭也に、プレゼント渡すの?」
あっ……まあそうなりますよね……。
ケイにはまだ言ってなかったし、一応恭也は敵でもある。
しかもいつも私は恭也を面倒くさそうな扱いしてるし、その疑問が湧くのは不思議じゃない。
「まあ……ね。」
「……そうか」
ケイは素っ気なく返す。
怪盗ファンタジスタにプレゼント贈ってるようなもんだから……ケイ怒っちゃったかな……
まあとにかく、準備しないと。
私はプレゼントを渡しに行く準備をした。
★★★★★
午後6時50分頃。
前みたいに電車に揺られて、スカイタワーの最寄り駅につく。
それからしばらく歩くと、青いスカイタワーの前に、見るからに1人浮いてる人がいる。
綺麗な金髪に整った顔立ち。
似合いすぎるサングラスが逆に怪しさを増している。
「…………。」
私はその人に近づいて、ジト目で見る。
「おいおい子猫ちゃん、そんな目で見ないでくれよ。せっかく今日は楽しみにしてるのに」
恭也が肩をすくめる。
クリスマス前ということもあって、スカイタワーはクリスマスの飾りがしてあったり、クリスマスのBGMが流れてたりしてる。
「……恭也は、クリスマスの時に生まれたんだね」
私はつぶやくように言う。
「そうだね。」
恭也はそれだけ言って私を見る。
……どうやら、相当プレゼントが待ち遠しいみたい。
「………………………………………………はい、これ」
私は照れを隠すように横を向いて、顔の半分をマフラーで深々と覆いながら、ぶっきらぼうに紙袋を突き出す。
普通なら恭也に誕生日プレゼント渡すとか有り得ないのに……
ま、まぁでも、これはただのお返しだし……
「……お返しだけにしては、気合いが入ってるんじゃない?」
表情に出てたのか、恭也が見透かしたように言う。
それも、恭也の手には指輪があった。
「……………………………………………………………………………………あげる」
たーっぷり、間があってからの言葉。
やっぱ、私って表情に出やすいんだなぁ……
色んな人から、「顔に書いてある」ってよく言われる。
「ありがとう、子猫ちゃん。すごく嬉しいよ。」
恭也がニコニコの笑顔で言う。
───どうして恭也は照れもせずに受け取れるんだろう。
やっぱり、プレゼントなんか色んな女子から貰ってるから、慣れてるのかな。
その度に、今みたいな笑顔で、「ありがとう」って言ってるのかな。
考えただけで、何故か胸が痛くなる。
「……子猫ちゃん?どうしてそんな悲しんだ顔をしているんだい?」
不意に、恭也が私の顔を覗き込んでくる。
私は慌てて笑顔になる。
「え?!あ、いや、全然大丈夫だよ!」
思わず声が裏返る。
「もしかして……こないだのやってくれなくて落ち込んじゃった?」
そう言いながら恭也がゆっくり顔を近づけてくる。
「ちょ、ちょっと待って!やらなくていいし、別にやって欲しくないし、落ち込んでないし……」
「そんな強がらなくてもいいんだよ?」
そう言って恭也が更に顔を近づけてくる。
「待って待って!確かに恭也はイケメンで優しくて面白くて頼りになって運動神経も良くて素晴らしいイリュージョニストだけど!」
そう早口でまくし立てた私は、「しまった!」と、慌てて口を抑える。
「ふーん……なかなか嬉しいこと、言ってくれるじゃん」
恭也は照れるような、からかうような、面白がるような笑みを浮かべる。
「さて、俺はそろそろ帰るよ。ありがとう……アスカ。」
そう笑顔で言って、恭也は歩いて行く。
むぅ……最後の名前呼び、ずるい。
マサキへの贈り物を選ぶ時も、最後に名前呼びされた。
よく照れずにそんなこと言えるなぁ……
それにしても……
何故か私は、ガックリ肩を落とす。
ちょっと、ほんのちょっとだけ期待してた。
でもやってくれるわけないよね……
そう、諦めて歩き出そうとした時。
ギュッ
後ろから温かい体に抱きしめられる。
突然のことに頭が混乱する。
「…………やって欲しいなら、最初から言えばいいのに」
そう言い残して、すぐに消える。
私はすぐに後ろを振り返ったけど、誰もいなかった。
また、彼のお得意のマジックで、すぐに消えたんだろう。
───ん?
私は、自分の足元に1枚のカードが落ちているのに気づく。
私はそのカードを拾って、書いてある文字を見てみる。
『さっきのおれへの褒め言葉、忘れるなよ、アスカ』
……………………。
「………………忘れるわけないじゃん」
そう、私はつぶやいたのだった。