テラーノベル
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※男性妊娠描写
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すうすうと規則正しく可愛らしい寝息をたてる恋人の枕元に腰を下ろし、柔らかいその髪を撫でる。
カーテンの隙間から差し込んだ光が瞼を振るわせる。
「おはよう」
「きんとき…」
唇は乾き、顔は青白い。
なんとか身体を起こしたNakamuは、急に頭を下げ、口元を押さえて
「…また、吐きそう」
と弱々しく呟く。
投げかける言葉を探していると、フラフラと去っていってしまう。
ベットサイドに置いたゴミ箱の横に、薬局で買った妊娠検査薬の箱が無造作に置かれているのを横目に、彼の後を追う。
便器に顔を突っ込んで可哀想な彼の側に同じようにしゃがみ込み、背中をさする。
何もしてあげられなくて、見ているのも辛い。
落ち着いたNakamuが俺の胸元に寄りかかる。
「…きんとき」
「つらいよね…」
俺は目を伏せて、虚構を見つめていた。
「…きんときは優しいね。俺、こんなに弱ってるのに…きんときの子を宿してるって思うと、こんなに幸せで…」
そう囁くと、ぐりぐり強く、でも弱々しく胸に顔を押し付けてくる。
「うん…俺も嬉しいよ」
自然に返せてるようで、声の端に微かな震えが混ざっている。
Nakamuが静かに顔を上げると、目は潤んでいる。
しんどいだろうに。
Nakamuの苦しそうな息遣いだけが水回りにこだましていた。
Nakamuが妊娠を告白してくれてから時間は経ったが、未だに気持ちの整理が付いていない。
最低で、畜生で、下劣で、決してそんなこと思ってしまってはいけない、禁句なのだが…
望んでいない子なのだ。
Nakamuと身体を重ね合う時、俺なりにちゃんと調べて避妊もアフターケアもしていた、つもりだった。
リスクを考えなかったわけではない。
むしろ、いつかは…なんて考えて期待していたくらいだった。
ただ、きちんと計画を立てて、段階を踏んで、そう成るべきだった。
誠意を行動で魅せるべきだった。
Nakamuに負担をかけたくなかった。
なんとかベッドに戻れたNakamuの元に、水の入ったグラスと胃に優しいであろう薄めのおかゆを運ぶ。
もしNakamuが再び寝ているとしたら、と考えて音を立てないよう、丁寧に足裏を擦るようにして歩む。
ドアを開けると恋人は上体を起こして俺を待っていて、目を細めている。
「Nakamu、食べられる?
今は、少しでも栄養を摂らないと…
無理しなくてもいいよ。
ゆっくり、一口ずつでもいいから…」
そっと置いたお盆に顔を伏せ、彼の口元へ運ぶ準備をしながら、そう言葉を紡いでいく。
自分の犯した罪を償うように。
彼の手の中にグラスを押し込むと、
受け取る手が、少し震えている。
「ありがとう…きんときはきっと、素敵なお父さんになるね」
「…」
胸の奥が重い。
逃れられない責任と罪悪感。そして幸せに緩やかに押しつぶされそうだった。
無理矢理な俺の優しさに応えるようにNakamuは口に水を含むと、グラスを自分で置く。
俺の手を取って、自分の下腹部へ引き込む。
「ここ…
ここにきんときの子が、いるんだよ。
毎日、日に日に感じるんだ…
きんときの子が、俺の中で育ってる…」
撫でることをねだるように俺の手を押し付ける。
「そうか…」
触れることが恐ろしく感じた。
彼の手を上から包み込むようにして、這わせた。
「きんとき…
楽しみだね…
俺たちに赤ちゃんができるんだよ…
俺、頑張るから…
可愛くて、きんときに似て優しくて…」
心底幸せそうに微笑む。
「…うん」
今は、含みのある返答しかできない。
嬉しい。
本当は、嬉しい。
でも、俺のせいでNakamuが苦しんでいるんじゃないかという疑問が引っかかって剥がれない。
それでも、Nakamuの重たい前髪持ち上げ、軽くキスを落とす。
俺には、こんなことしかできないから。
Nakamuが悪阻を少しでも楽に乗り越えれるように寄り添うことしかできない。
Nakamuを気遣う仕草ひとつひとつが罰な気がした。
恋人の傍に立ち、その寝顔を見下ろす。早くその目を開いてほしいと思いつつも、一生このまま見つめ続けても、きっと俺は幸せだろうなとも思う。
カーテンから漏れ出た光が、瞼を振るわせるとその目が開かれる。
「おはよう」
「きんとき…」
ここ最近の慢性的な体調不良に完全に参ってしまっているようで、その瞳は濁っている。
起き上がって俺の元へ甘えに来ようと手を広げるのだが、いきなり頭を伏せ、口元を押さえだした。
「…また、吐きそう」
か細い声で絞り出すように呟くと、そのまま便所へ半ば這うようにして向かっていく。
俺は、というとベットサイドに置いたゴミ箱の横に薬局で買った妊娠検査薬の箱が、開封すらされずに放り投げられているのを一瞥して、Nakamuの嘔吐きと水音の方へと向かう。
便器に顔を突っ込んだ彼の背後に腰を落とし、背中をさする。
なかなか出るものも出ず、Nakamuの苦痛の声を何度も聴いていた。
やっと落ち着いたNakamuが俺の胸元によりかかる。
「…きんとき」
乾いた唇が、薄く開かれる。
その唇が離れる音すら聴き漏らすことのないように、しっかりと耳を澄ませて聴く。
「つらいよね…」
「…きんときは優しいね。俺、こんなに弱ってるのに…きんときの子を宿してるって思うと、こんなに幸せで…」
その言葉を一つ一つ聴く度に、思わず口角が上がってしまう。
顔の筋肉が痙攣するように、嘘のような悦が張り付いて離れない。
「うん…俺も嬉しいよ」
ガチガチに引き上げられた口からなんとかいつも通り自然で、穏やかな返事を演出する。
Nakamuが押し付けていた顔を上げると、
笑っていた。俺と同じように。
Nakamuが妊娠を告白してくれてからそれなりに時間が経った。
最初は困惑した。
俺なりに、ではあるがちゃんと調べて避妊もアフターケアもしているつもりではあった。
望まぬ子の妊娠に頭を抱えた。
しかし、気づいたのだ。
何度も求められて、何度も何度も何度も。
まるで何かを待っているかのようだった。
ついに彼の中で外れた箍は、俺を繋ぎ止めるための鎖となった。
彼の中で妊娠は確実なものとして譲らない。
それを咎めたり、責め立てたりなんてしない。
それほどまでに歪んだ愛が、自分に向けられていることが嬉しくてたまらない。
俺は歓迎しているのだ。
Nakamuのお腹が俺の子で大きくなることはないが、確実にそこで俺との愛が育まれている。
それはきっと_
どんな既成事実よりも強固で、残酷で
呪縛のように逃れられない。
ベッドへと戻ったNakamuの元に、キッチンから水の入ったグラスと形式的文化的おかゆを運ぶ。
ドアを開けると恋人は上体を起こして俺を待っていて、目を細めている。
「Nakamu、食べられる?
今は、少しでも栄養を摂らないと…
無理しなくてもいいよ。
ゆっくり、一口ずつでもいいから…」
ぽつぽつとどこかで聞いたような言葉を巧みに並べていく。
俺にとっておままごとのようなものだから。
反応を見ながら、彼の欲しがる言葉を模索している。
彼の手の中にグラスを押し込むと、
受け取る手が、少し震えている。
「ありがとう…きんときはきっと、素敵なお父さんになるね」
「…」
満足そうな反応を示しているのを見て、俺も満足している。
台本にそうあるようにNakamuは口に水を含むと、グラスを自分で置く。
次に俺の手を取って、自分の下腹部へ引き込む。
「ここ…
ここにきんときの子が、いるんだよ…♡
毎日、日に日に感じるんだ…
きんときの子が、俺の中で育ってる…」
彼が俺の手を使って撫で付けるのを感じ取ると、上から手を重ね直して優しく撫でる。
「そうか…」
何もないのに。
俺の子を欲しがって身体まで変えてしまうくらい…
俺のことが好きなんだなぁ…
胸が熱くなって、Nakamuの束縛を再認識させられる。
「…きんとき?
楽しみだね…
俺たちに赤ちゃんができるんだよ…♡
俺、頑張るから…
可愛くて、きんときに似て優しくて…」
心底幸せそうに微笑む。
想像上とはいえ、悪阻すら今は甘く感じている。
「うん…俺も、早く会いたいな…」
この歪んだ愛情に溺れ、享受していく。
Nakamuの重たい前髪持ち上げ、軽くキスを落とす。
終わりがあるか分からない介抱の裏には、愛情のお返しとNakamuが俺を愛してくれているという確信から来る喜びが混ざっている。
俺たちが行動を重ねる度に、歪んだ愛が深く強く根を張っていく。想像を本物の愛で包み込んでいく。
幸せと歪みが絡み合って、停滞して、腐敗していく。
コメント
2件
愛が行き過ぎた結果の想像妊娠…最高に歪みまくってて好きです… 傍から見たら2人とも狂ってしまったように見えるけれど、本人達は幸せ(特に🐼はおかしくなった自覚なし)なの良いですね……