テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
教育の塔の夕暮れ。
子どもたちの声が遠くに響く中、
ひとつの影がひっそりと塔の隅で揺れていた。
光幸(こうこう)と暗不(くらや)。
“元々人間の世界”で生まれた双子の兄弟。
その瞳は、寂しげに塔の下を見つめていた。
エマ、ノーマン、レイ。
そしてギルダ、ドン、フィル。
――人間の世界から来た、“大切な人たち”。
その日から、
シンム先生が、前より笑うようになった。
鬼の子どもたちは喜んだ。
でも、光幸と暗不だけは、胸の奥がちくりと痛んでいた。
光幸「……先生、最近ずっと笑ってるね」
暗不「笑ってんじゃねぇ、あれは“特別”なやつだろ」
光幸「“特別”? ぼくたちは……?」
暗不「違ぇよ。あのエマとかノーマンってやつだ。
先生、あいつらといる時の顔……ちょっと違う」
塔の教室。
シンムは今日も優しく笑って、子どもたちに本を読んでいた。
シンム「……そして、星は言いました。“君のことが大好きだよ”って^^」
鬼の子「わぁ〜〜〜♪」
そのとなり。
シンムにぴったり寄り添っているのは――エマだった。
エマ「ねぇシンム、これって昔、私に読んでくれたやつと同じだね♪」
シンム「そうそう♪懐かしいね〜」
その様子を見ていた光幸と暗不の表情が、すぅっと冷えていく。
その夜。シンムの部屋。
光幸「……ねぇ先生、」
シンム「ん、なぁに?^^」
光幸「ぼくたちのこと、もう好きじゃないの?」
シンム「……え?」
暗不「昔は、俺たちだけの“先生”だったくせに。
最近ずっと、あいつらとばっかりじゃねぇか」
光幸「ぼく、“先生が笑うのはぼくたちだけ”だって思ってたのに」
シンムは、ふたりの目をじっと見つめて――
やわらかく、目を細めた。
シンム「ごめんね。寂しかったんだね」
光幸「……っ」
シンム「でもね、“好き”って、ひとりにしか向けられないものじゃないんだよ。
ぼくは、ふたりのことも、エマたちのことも、みんな、大事なの」
暗不「……じゃあ、あいつらといる時の“顔”は?」
シンム「うん。たしかに“ちがう顔”してるかも。でもそれは、
君たちの前でしか見せない顔もあるってことだよ^^」
光幸「……ほんと?」
シンム「うん、ほんと」
そのあと、シンムは
光幸の頭をぽふんと撫でて、
「光幸は、よくがんばってるもんね。
誰かのためにって、泣けるくらい優しい心を持ってる」
そして暗不の頭も撫でて、
「暗不はね、強いだけじゃなくて、本当はすっごく繊細なんだよね。
ちゃんと気づいてるからね^^」
ふたりは、そのままシンムの胸に飛び込んで泣いた。
【そして、次の日】
次の朝。
塔の教室で、光幸と暗不はそっとエマたちに話しかけた。
光幸「……ごめんね、昨日ちょっと意地悪しちゃった」
暗不「……あんたらが嫌いだったわけじゃねぇんだ。
先生が、俺たちから離れちゃうんじゃねぇかって……」
エマは笑って手を差し出す。
エマ「大丈夫だよ。シンムお兄ちゃんは、私たち全員の“せんせい”なんだから!」
ノーマン「……君たちも、家族みたいなもんだね^^」
レイ「ま、悪くない」
双子「……!」
シンムのとなりに並ぶのは、
“人間”と“鬼”の子どもたち。
みんなが“せんせい”を好きで、
“せんせい”も、みんなが大好きで――
争いのない、やさしい、やさしい世界。