コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「何、して……」
振り向いた私の頭を、不意に腕でぐっと抱き寄せると、
「髪、綺麗だな……」
耳のそばで低く囁いて、
突然のことに固まって動けずにいる私の髪に、顔を埋めるようにしてチュッ…と口づけた。
「あっ…!」
キスされた髪を急いでたぐり寄せて、
「なっ、何してるのよ…」
真っ赤に火照る顔をうろたえて下に向ける。
「おまえの髪、好きだぜ? だからキスぐらいは、昨日の礼代わりにもらったっていいだろ?」
ふふん…と、銀河が軽く笑いを浮かべる。
「……何がお礼よっ! 最低っ!」
つい赤面してしまった分だけ、『礼代わりに』なんて言われたことに、なんだか無性に腹が立って、
イラ立ちのままに銀河へ叫び返すと、バスルームへ駆け込んだ──。
熱いシャワーを頭から浴びながら、「もう、サイテーなんだからっ!」と、小さく毒づく。
「代わりって、なんなのよ? 信じられないんだけど、ほんとサイテー……!」
ふと(あれ? でも……)と思って、怒りにまかせてガシガシと髪をシャンプーで泡立てていた手を止めた。
自分は、一体何にそんなにイライラしているんだろうと、お風呂場のタイルにしばらく棒立ちで考えて、
どうやらお礼代わりなんかじゃなく、掛け値なしで綺麗だって言ってほしかったんだという本音に気づいて、やや愕然とした。
(そんなわけがないじゃない……。私が、あいつにストレートに気を引いてほしかっただなんて……)
咄嗟に否定しようとするけれど、どう考えてもイライラの原因はそこでしかなくて、
違う、違う、そんなわけがないものと、私があいつのことを気にかけていて、それで、『綺麗だな……』なんて言われて、髪にキスされて舞い上がった挙句に、お礼代わりだなんて片付けられてイラついたんだとか、そんなことは絶対にないから……と。
そう無理やりに自分を納得させて、シャワーを上がると、ルームウェアを着込んで何食わぬ顔でリビングへ戻った。
すると、ダイニングテーブルの上には、なぜか出来立ての料理がほかほかと湯気を立てていた──。