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りょうちゃんのことは最初会った時はなんだかいけ好かない奴だと思っていた。キーボードが上手なわけでもないのにバンドに入ってきたし。
けどだんだんと元貴が誘った意味がわかってきて、けど素直になれない俺にりょうちゃんの態度は変わらず優しかった。
一緒に暮らしだして、よりそのことがわかって···そこからは俺も出来るだけ素直にならなきゃと思っていた。
「若井、今日は僕が夜ご飯作るよ。先にお風呂入っておいでよ」
「え、でも今日俺の番だし···」
「いーの、作りたい気分だから!ほらほら」
急かされて出来上がったご飯を食べるとさっさと寝ちゃいな、と全ての家事を引き受けてくれた。
俺がお風呂で思わず声を殺して泣いてしまうくらい辛かったのを自分が気づくより先に感じ取っていてくれたんだと思う。
優しくて、あったかくて、自分より人のことばっかりで。
それでいて抜けててふわふわしたところもあって、なのに芯があって強さも持っている。
そんな彼を好きだと気づいたのはいつだった?
りょうちゃんに甘やかされる元貴に嫉妬した時?
帰ったらあとはほとんどの時間を俺と過ごしているのだと勝ったような気になった時?
小さな子供みたいに寝落ちしてしまったりょうちゃんの少しあいた口を自分の唇で塞いでしまいたいと思った時?
優しさにつけ込んで一緒に寝てほしいとお願いして嬉しそうに快諾してくれた時?
その細い肩をそっと布団の中で抱き寄せた時?
一緒に過ごす中でいくつもの好きが散らばってそれをかき集めていく中でおっきな好きになって、それは男だとか女とかじゃなく“りょうちゃん”を好きだという確実な想いになっていた。
一緒にいて、笑って、生活出来る幸せを静かに噛み締めていたのに。
それなのにまさか···元貴と付き合うことになったと聞かされるとは思ってもみないことだった。
元貴の家から思ったより早く帰ってきたりょうちゃんはなんだかいつもと違っていた。
明るく話していたと思うと、ふいに黙り込んでしまったり、あんまり夜ご飯を食べなかったりした。
何かあった?って聞いてもううんって言うだけで、なんだか見えない壁があるような感じでいつものりょうちゃん、じゃなかった。
そんなりょうちゃんが少し聞いてほしいと声をかけてきたのはそろそろ寝ようかとおやすみを言おうとした時だった。
「どうした?」
「···今日、元貴に告白された」
「えっ?こくはく?」
「付き合ってほしいって言われた」
「···元貴は、りょうちゃんのこと好きってこと?」
こく、と頷くりょうちゃんにぽかんとしてしまって頭の中を告白、という言葉がぐるぐる回る。
けど元貴がりょうちゃんを好き、ということはなんだか素直にそうなんだろうな、のと思った。
「···そ、それで?」
「いいよって言った」
「え···?」
りょうちゃんも、元貴のことを?
けどそれならなんでそんな難しい顔してるの?
もしかして···元貴の為に···?
本当にりょうちゃんは元貴のことを好きなの?
けどそれは聞けなかった。
もし聞いて「元貴が好き」だと言われるのが怖かった。
それにそうじゃないと言われた時にそれでも付き合う選択をしたりょうちゃんを咎めてしまいそうで怖かった。
「若井には誤魔化したり嘘を言いたくなかった。僕のこと···いやになった······?嫌いになった···?」
泣きそうな顔のりょうちゃんを見て俺は全部を飲み込んで、肩をポンポンと軽く叩いた。
「嫌にも嫌いにもなるわけないから!俺たち···大切な仲間だから···」
「···ありがとう。ごめんね、寝る前に···おやすみ」
お互いの部屋に別れて俺はベッドの中で枕に顔を押し付けて泣いた。
本当は俺も好きだったって伝えたかった。 けど何も言えなくて仲間なんて綺麗な言葉で理解あるフリをした。
都合いい夢だったのかもしれないけど、微かにりょうちゃんの泣き声が聞こえた気がした。
たぶん、それは元貴と付き合うのは本心じゃないと言ってほしい俺が生み出したものだったのだろうけど。
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