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合宿で、あの人を初めて見た。
その瞬間、何かが
──瞬間的に惹かれてしまったのだ。
まだ名前も知らないのに。
声も聞いたことがないのに。
「……ヒーローみたい」
出会ったばかりの彼は、まるで物語の主人公みたいだった。
そして、その願いは意外にもあっけなく叶った。
「おジョーさん? こんな夜にどうしたの?」
不意に、背後から声をかけられた。
振り向くと、そこには、髪を下ろした黒尾鉄朗が立っていた。
夜の空気に溶け込むような低い声と、無防備な姿に頭が真っ白になる。
「へ、ぇ……っ!?」
思わず変な声が出た。
動揺する私に、彼は優しく笑って言った。
「驚かせちゃった? ……あぁ、ごめん、名乗ってなかったっけ。俺、黒尾鉄朗。おジョーさんは?」
「た、谷地仁花です!」
顔が熱い。鼓動が早すぎる。
なのに、彼は私の頭にそっと手を置いて、優しく撫でてくれた。
「俺もさ、飲み物買いに来たんだ。同じだね」
手のひらが熱を残したまま、心まで撫でられたみたいだった。
けれど、そのまま彼が一歩引くように言った。
「……ごめん、急に触って。嫌だったよね?」
耳の奥まで真っ赤になる。そんなの、嫌なわけないのに。
「だ、大丈夫です! むしろ嬉しいです……!」
彼はふっと笑った。その笑顔に胸の奥がきゅっとなる。
「谷地ちゃん、こんな時間に外歩いてると危ないよ。……狼に食べられちゃうかもね?」
「……狼、ですか?」
「男ってのは、みんな狼なんだよ。……たとえば、こういうふうに」
──ドンッ。
突然、壁際に追い込まれた。
距離が近い。彼の顔が、こんなに近い。
「……ほら、こんなことされても、逃げられないでしょ?」
その言葉に、ふっと笑みがこぼれる。
私はそっと彼の胸に手を添えて、同じように壁に追い詰め返した。
「逃げられますよ? ……ね、黒尾さん?」
彼の目が一瞬、揺れた。
頬を赤く染めたその顔が、無防備で、少しだけ可愛かった。
──だから、思わず。
「ごめんなさい、可愛くて……つい」
彼のほっぺに、軽くキスを落とした。
「や、谷地ちゃん……かっこいいね……」
照れたように笑う彼に、私はいたずらっぽく微笑んで言った。
「ありがとうございます。黒尾さんも、可愛いですよ?」
「……口説くの、やめてくれない?」
「やだ。落としたいんですもん」
「……ふぇ?」
戸惑うような声が、まるで恋する女の子みたいだった。
ふふ、可愛いな。
黒尾さんは、誰のものにもなってほしくない。
──私だけのものになってほしいんだ。
「黒尾さんこそ気をつけてくださいね? オオカミに食べられちゃうかも、ですから」
そう言い残して部屋へ戻る。
振り返ると、彼はまだその場で、とろんとした目で私を見つめていた。
……あぁ、やっぱり好きだ。
どうしても欲しくなる。
わかってる。
黒尾さんには、私なんかよりもっとお似合いの人がいること。
きっと、私なんかが関わっちゃいけないってこと。
でも、欲しい。
どうしても、欲しいんだ。
──笑っちゃうよね。
翌朝。
私は一番に起きて、みんなのために朝ごはんを作った。
それから部屋を回って起こしに行こうとしたとき──
「谷地さん、音駒の方お願いできる?」
清水さんにそう頼まれて、音駒の部屋へと向かった。
「おはようございま〜す。朝ですよ〜」
そっとドアを開けて、声をかける。
眠そうな顔がちらほらと見えるなか、私はまっすぐ彼のところへ近づいた。
「黒尾さん、起きてくださ〜い……♡」
耳元で囁くように言うと、彼は目を開けて、少し驚いた顔をして言った。
「ぅわっ……びっくりした。」
「……おはよ、谷地ちゃん。ありがとね」
「ふふ、マネージャーなので当然ですっ」
笑顔で返しながら、まだぼんやりしている彼の寝起きの顔を見つめる。
無防備なまつ毛、少し寝ぐせのついた髪、眠たそうな目──
……すごく、可愛い。
壊したいくらい、可愛い。
でもそれを言葉にしてしまったら、きっと全部壊れてしまう気がして、
私はただ静かに見つめているだけだった。
──けれど、昼休み。
彼が別の女の人と笑いながら話しているのを見た。
……あの子、誰?
どうして笑ってるの?
なんで、私じゃないの?
やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ……
胸の奥で、何かがヒリつくように疼いた。
──私が、一番じゃなきゃ、いやなのに。
夜。
人気のない道で歩いている彼を見つけた私は、呼び止めて近くのベンチに座らせた。
「ねぇ、今日のあれ……何?」
「……な、何のこと?」
動揺してるのが、わかる。
目が泳いでる。
「かわいいマネージャーさんと、楽しそうにお話してたでしょ?」
私は彼の胸の前に手を置いて、まっすぐに問い詰める。
「……あれ、やってて楽しかった?」
「……谷地ちゃんに、嫉妬してほしくて……」
その瞬間、なぜだか笑いがこみ上げてきた。
嬉しくて、可愛くて、愛しくて、ぐちゃぐちゃで。
「っ、可愛い……♡」
私はもう我慢できなくなって、彼の唇にそっとキスを落とした。
「私、黒尾さんのこと……好きなんです」
「付き合ってくれるまで、絶対に諦めませんからね?」
そう言ったあと、ほんの少しだけ沈黙が流れた。
でもすぐに、彼は顔を赤くして呟いた。
「……い、今から付き合うのじゃ、だめ……?」
「ほんとに……?」
「……う、嘘じゃないよ」
その返事を聞いた瞬間、胸の奥で何かが花火のように弾けた。
嬉しくて、愛しくて、世界が彼だけで満ちていく。
「もちろんですっ! よろしくお願いしますっ♡」
その日から、私と黒尾さんは“恋人”になった。
──でも、幸せはそう長く続かない。
合宿も残り2日。
夜にまた、ふたりで会う約束をした。
時間ちょうどに現れた彼に、笑顔で挨拶をする。
「こんばんは」
「こんばんは、良い夜だね」
彼の言葉に、胸がきゅっとなる。
どうしてこの人は、こんなに綺麗なんだろう。
「……黒尾さん、なんで私のこと、好きになってくれたんですか?」
私の問いに、彼は少しだけ黙ってから答えた。
「谷地ちゃん、最初は普通の可愛い女の子って思ってたんだけど……
あの目で見られてさ。……なんか、獲物みたいな。気づいたら好きになってた」
──獲物。ふふ、まるで逆。
だって、あなたの方こそ、私の獲物なのに。
「そっか、ふふ。……私は一目惚れです」
「そっか」
彼は小さく笑った。
その顔があまりにも無防備で、優しくて。
……壊したくなる。
大事にされるだけじゃ満足できない。
私だけを見て、私だけを好きでいてほしい。
じゃないと、首を絞めたくなる。
でもそんな感情も、彼の一言で、全部消えていった。
「谷地ちゃん、大丈夫? 顔、怖かったよ?」
「……あっ、ごめんなさい。考え事してただけです」
こんな狂った気持ちが、ばれませんように。
でもね──
黒尾さん。
あなたの全部が、ほしいの。
可愛いところも、弱いところも、
ずるいところも、壊れそうなところも。
ぜんぶ、私のものにするから。
逃げられるなんて、思わないでね?
合宿の最終日。
別れが近づくたびに、胸がざわざわして落ち着かない。
ずっとこの時間が続けばいいのに。
いや──いっそ、誰にも見つからない場所に連れていけたらいいのに。
帰り支度をしている黒尾さんのもとへ、私はそっと歩み寄った。
「……あの、黒尾さん」
「ん?」
「連絡先……まだ聞いてなかった、です」
「あー、そういえば。俺も聞こうと思ってたんだ」
携帯を取り出して、指が触れるたび、心臓がどくどく鳴った。
「じゃ、俺から送るね。……っと」
彼が私の画面に名前を打ち込む。
“黒尾鉄朗”。
──ねぇ、これだけじゃ不安だよ。
あなたの居場所、全部把握したいのに。
「ありがと、ございます……!」
笑顔を貼りつけながらも、脳の奥がじわじわと痺れるように疼いていた。
“繋がった”
たったそれだけで、世界が私のものになった気がした。
──それから、数週間後。
「……聞いた?」
同じ烏野の女子マネージャーが、休憩中にこそこそと話しているのが耳に入った。
「黒尾くん、なんか音駒でちょっと問題になってるらしいよ。部内トラブル?っていうか……裏でいろいろやってたとか……」
は、って思った。
なに、それ。ありえない。
そんなの、黒尾さんがするわけない。
私はすぐに彼に連絡を入れた。
何度も、何度も。
──でも、返事はこない。
寝る前、ふとスマホを握った。
通知は──こない。黒尾さんからは、あの夜以降一度も。
けど、我慢できなかった。
だから、かける。呼吸を整えて、何度目かわからない発信音を聞く。
……ぷるる、ぷるる……
……ぷる……「……もしもし?」
「……黒尾さん……っ」
「……谷地ちゃん……」
その声だけで、喉の奥がつまる。
けど、もう止まらなかった。
「なんで……なんで黙ってたんですか、あんなの……黒尾さん、悪くないのに……!」
「……ごめん、いや……言い訳しても、俺が情けないだけで……」
「情けなくなんてない。
黒尾さんは、全部背負って黙ってたんですよね?……優しいから。誰にも迷惑かけたくなくて、ぜんぶ自分のせいにして、逃げ場なくなって──」
「……っ」
電話越しの向こうで、彼が小さく息を呑んだ音がした。
「そんなの……そんなの、もうやめてください」
「……どうすればいいかわかんないよ、俺。音駒に居場所ないってわかった時点で、ほんとに、全部投げ出そうって──」
「じゃあ、逃げましょう?」
一瞬、沈黙が流れる。
「……なに、言って……」
「もう全部捨てて、私と逃げましょう? 黒尾さんの居場所がないなら、私が作ります。誰もいない、誰も邪魔できない場所に。
名前変えてもいい。学校も、部活も、過去も、捨てましょう」
「……谷地ちゃん、それは──」
「狂ってるって思いますか?」
ゆっくりと言った。
口元が、自然に笑ってしまう。
電波の向こうじゃ、どんな顔しててもわからないのにね。
「思ってますか? 私のこと──気持ち悪いって、怖いって、そう思いますか?」
「……いや、怖いよ」
「ですよね。でも、ね。
誰よりも、黒尾さんを守りたいって思ってるの、私だけなんですよ」
「…………」
「だって、全部知ってる。誰があなたのこと貶めたのか、
どんな言葉が飛び交ったのか、
誰がニヤニヤしながら“あの黒尾が落ちた”って笑ってたのか──」
「…………谷地ちゃん、なんでそこまで──」
「だって、好きなんです。狂ってるくらい。
あなたの全部を知りたいし、全部を壊して、私だけのものにしたい。
……それの何が悪いんですか?」
呼吸が重なり合うような沈黙が落ちる。
耳が熱くなってるのが自分でもわかる。
「……谷地ちゃん」
「……はい」
「……一緒に、逃げてくれる?」
「……はい。
あなたが壊れても、捨てられても、価値がなくなっても──
私は、黒尾鉄朗を、壊れたまま、隠して守り抜きます」
「……俺、たぶん、もう戻れないよ」
「戻させません。あなたが誰のものにもならないように──」
「……ありがとう」
最後の声は、少しだけ震えていた。
安堵なのか、絶望なのか、それともその両方か。
でも、それでもいい。
この声が、私だけに向いているという事実さえあれば。
「明日……夜、場所送りますね。バスで、3時間です。
道順も全部、私が指示するので。安心して来てください」
「……わかった」
私は小さく息をついて、目を閉じた。
「……黒尾さん。
壊れてもいいんですよ? ずっとそばにいるから。
私が、あなたを守る。絶対に、奪わせない」
その言葉に、彼がそっと「うん」と答えた。
電話が切れたあと、
私は静かにスマホを胸に抱いた。
──誰にも渡さない。
──誰にも、壊させない。
でもね、黒尾さん。
もしあなたが逃げようとしたら──
私、あなたの足、折っちゃうかもしれませんね。
ふふ、なんて可愛い笑顔で、そんなことを考えながら、
私は明日の準備を始めた
「……やばいな……」
深夜2時。
あたりは静まり返っていて、人の声も、車の音も聞こえない。
なのに、心臓だけがうるさく鳴っていた。
“見られてないか”
“気づかれてないか”
“本当に、ここでいいのか──”
何度もスマホを見返す。谷地ちゃんから送られてきたルート、停留所、乗るべきバスの時間。
──何度も確認したはずなのに、不安は全然減らなかった。
キャップを深くかぶり、マスクをして、フードを被った。
夜のコンビニで、何度も立ち止まっては、振り返る。
後ろには誰もいない。でも、なぜか視線が背中に張り付くような感覚が消えなかった。
「……落ち着け、俺は悪くない、俺は──……いや、もう関係ない。抜け出すって決めたんだろ」
自分に言い聞かせても、足は震えていた。
“音駒”という名前を背負ってきたこと。
誰よりもチームを想ってきたこと。
後輩を育てて、支えて、それでも──裏切られて。
勝手に悪者にされて、居場所を奪われて。
「ふざけんなよ……」
悔しさに唇を噛む。
でも、怒りの矛先がもうない。
あの学校に戻ることは、もうない。
だから──逃げるしかなかった。
スマホが震えた。谷地ちゃんからのメッセージ。
《あと30分で、最寄りのバス停着きますね。途中で見つかっても、知らない人のふりして逃げてください。何かあれば電話ください》
……冷静すぎる。
でも、その冷静さに、少しだけ救われた。
「……谷地ちゃん」
名前を口にする。
それだけで、視界が少しだけ開ける気がした。
彼女は全部を見てくれてた。
誰も信じなくなった俺に、手を伸ばしてくれた。
狂ってるほどの執着を、俺に向けてくれた。
──怖かったはずなのに、今はその“狂気”だけが、唯一の拠り所だった。
◆
バスに乗って3時間。
空が白み始めたころ、谷地が送ってくれた住所の“最寄り”に着いた。
降りた瞬間、また、胸が苦しくなる。
本当にここでいいのか。
彼女はいるのか。
本当に迎えてくれるのか。
──もしここに谷地がいなかったら?
そんな妄想が頭を掠めて、足が止まりそうになる。
でも、そのとき。スマホが震えた。
《反対側の路地を抜けて、3つ目の建物の403号室。エントランス、開けておきます》
すぐに既読をつけて、歩き出す。
自分の足音だけが、やたらと響いた。
胸の奥に冷たい汗がじっとりと広がる。
この数分が、今まででいちばん長い。
でも──
マンションが見えた。
名前も表札もない、無機質な建物。
けれど、そのドアの向こうに、谷地がいる。
「……はぁ、っ……」
息を吐いて、インターホンも鳴らさず、そのままエントランスを開けた。
階段を駆け上がる。
心臓の音が、鼓膜の中で爆発しそうだった。
──403。
その数字の前に立ったとき、指先が震えた。
けど、もう戻れない。
ノックしようとした瞬間、
扉が、内側から開いた。
「……黒尾さん」
小さな声。
それだけで、全身の力が抜けた。
「……来てくれたんですね」
「……ごめん、遅くなって──」
「大丈夫です。もう、大丈夫です。……こっち、来てください」
彼女の声は優しかった。
でもその優しさの奥に、狂気の色が確かにあった。
それでも、俺は……その手を、取った。
目の奥が、少しだけ濁ってる。
──ああ、ちゃんと壊れてきたんだ。
そう思ったら、喉の奥が熱くなった。
「寒かったですよね。お風呂、すぐ沸かしてあるから、入ってきてください」
「……うん」
靴を脱ぎながら、彼は私をちらと見た。
その目には、もはや探るような光はなかった。
疑いも、恐れも、拒絶も。
ただ、静かな「信頼」と、「依存」。
ふふっ……いい子ですね。
「パジャマ、そこに置いておきました。ご飯、食べてないでしょ?」
「……うん。何も喉通らなかった」
「食べられるように、柔らかめの炊き込みご飯にしました。あったかいお味噌汁もありますよ」
そう言って、私はキッチンに戻る。
足音が、背中を追ってくる気配はない。
あぁ、まだ“入っていけてない”んですね。
でも大丈夫。あと少しです。
お風呂の音が止まる。
静かな廊下に、微かな足音。
やがて、洗面所から出てきた黒尾さんは、私の用意したパジャマに着替えていた。
紺の長袖。少し大きめで、袖が余っている。
「……ありがとう、谷地ちゃん」
「ううん、嬉しい。来てくれて」
「……俺、ほんとに……逃げてきちゃったな」
ぽつりと漏らす声が、テーブルの湯気に溶けた。
私は椅子を引きながら、そっと彼の手を取った。
「いいんですよ。逃げたんじゃなくて、“選んだ”んです」
「……」
「選んだんです。私を」
「……そうかも、しれない」
かすれた声が、弱く笑う。
その瞬間、胸の奥がきゅっと苦しくなった。
もっと、もっと奥まで連れていきたい。
もっと、私なしじゃ生きられなくなればいい。
「黒尾さん」
「ん?」
「ねぇ、甘えてくださいよ。……強くいなくていいんですよ、もう」
「……」
「誰にも裏切られない。誰にも見捨てられない。私が、全部守りますから」
私の言葉に、彼の目がふっと揺れた。
そして、私の肩に額を落とすように、そっと凭れかかる。
そのまま、小さく震えながら──
「……俺、全部なくなったと思ってたのに……」
「ううん、まだあります。ほら、ここに」
私は黒尾さんの手を、自分の胸元にぎゅっと押し当てる。
「ここに、全部、ありますよ」
「……谷地ちゃん……」
その声は、もう以前の彼の声じゃなかった。
音駒の主将。冷静で、器用で、仲間思いで、誰よりも強かった男の声じゃない。
まるで、何かに縋って生きるしかなくなった人間の、柔らかい、壊れかけた声。
──よくできました。
心の中でそう囁く。
「もう、何も考えなくていいんです。 壊れていいし、頼っていいし、 ……私の中に、全部預けていいんですよ?」
私は彼の髪を撫でながら、ゆっくりと笑う。
夜の部屋に灯る、たったひとつの光。
この部屋には、もう私たちしかいない。
「ねぇ、鉄朗くん」
呼びかけたときには、もう名前を呼び捨てにしていた。
「……うん」
「私がいないと、生きていけなくなってください」
「……うん」
「私が壊したあなたを、世界に戻す気はないです。だからずっと、ここにいて」
「……うん」
その“うん”が、確かに欲しかった。
彼は、ちゃんと依存してくれた。
私だけを見て、私だけに守られて、もう何も選べなくなってくれた。
──それでいいんです。だって、
あなたを壊したのは、私なんだから。
※1部ChatGPTにて誤字脱字直しております