テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「まず、どこから話したらいいんだろ……」
「まずは答え合わせからじゃ、すひまる。お主は何者で、なぜあのスクールにいたのじゃ?」
真っ暗な部屋に、ちゃぶ台を囲む三人と一匹。
明かりもなく、お茶もないけど……それなりに、落ち着く空間だった。
「は、はい……ルカさんもご存じの通り、私は吸血鬼です」
「吸血鬼って……血を吸う、あの?」
「よくご存じですね。私たち吸血鬼は、人間にバレないよう潜伏しています」
「どうして?」
「そ、それは……」
「おそらく、人間に化けて、その者を“食料”として誘拐してたのじゃろう」
「え!?」
「……はい、ごめんなさい。私たち吸血鬼は“新鮮な血”を飲むと、その生物のDNAをコピーできるんです……」
「…………続けて」
「で、でも!私のこの身体は、そういう風に得たものじゃなくて……」
すひまるちゃんの語りが、少しずつ重くなっていく。
「昔、一人だけ“あの工場”から脱出できた冒険者がいたんです。その人は、血をほとんど抜かれた状態で、長年カプセルに入れられていたせいで力もなく、倒れていて……」
俺は思わず息をのむ。
あの工場の人たち……皆、殺されてるわけじゃなかったんだ。
「そこを偶然通りかかった、まだ幼かった私が見つけたんです。その時、その人が言ったんです。『私を匿ってくれるなら、私の血を飲んでいい』って……」
「それで、その人間の姿になったのか……」
「はい……彼女の身体は日を追うごとに回復していって。そして、その日が来ました」
すひまるの声が、かすかに震える。
「人間界に帰るには、都市を出て“世界を歩いて探す”か、都市の中心にある――【魔王城】の転移魔法陣を使うか……」
…………は?
「ま、待って。【魔王城】!? 魔王って、まだ封印されてるんじゃ……!」
「えっ……? 私たちの魔王様、“【アビ】様”は、大昔からこの都市を治めてますよ?」
「え!? えええ!?」
ど、どゆこと!? 話が……おかしい! 今までの情報と矛盾してるってば!?
「その話は、あとでワシから補足してやるのじゃ。すひまる、続けるのじゃ」
「……はい。彼女は、“都市の外に出て世界を探す”ことを選びました」
「……うん」
「そして、数日が経ちました……」
____________
________
____
「おねーちゃんすごい! 人間の身体、人間の身体!」
「ふふっ、セミマルも、きっとすぐになれるよ」
「ほんとー? セミマルがんばる!」
――私は、この身体を手に入れて、心の底から幸せでした。
本来、私たち下級吸血鬼は【幼体】のまま、魔物の血を飲んで生きていくもの。
中級になると、新鮮な魔物の血で“魔物に変身”できるようになります。
そして――上級。
“新鮮な人間の血”を得ることで、人間の姿を得られるんです。
本来、手の届かない……憧れの身体。
嬉しかった。嬉しくて、幸せで……夢のようで。
でも――その幸せは、長くは続きませんでした。
「ほう……下級のクセに、人間に変身できるのか?」
「!?」
いきなり背後から聞こえた声。
振り向くと、そこには【アビ】様がこちらを冷たく睨んでいました。
……いつから? どこから!?
どうして私みたいな下級に、わざわざ――
「ア、アビ様……っ!」
私はとっさに元の姿に戻りました。
が、
「俺の前で“真実”を隠せると思うな」
――ゴトッ。
空中から、何かが落ちて床に転がった。
「ひ……っ!」
それは、さっきまで私が変身していた――
“人間の姿の私の、首”。
「お、おねーちゃん?」
「ダメ! セミマル、見ちゃダメ!」
私はあわてて人間の姿に戻って、弟を抱きしめる。
その小さな目に、あんなものは見せたくなかったから。
「先日、《食料庫》から逃げ出した人間がいると聞いてな。興味が湧いたので、探してみたのだ」
その声は静かに、でも確実に私を射抜いた。
「生意気にも、そいつは他の人間を助け出そうとしていたのでな。捕らえ、すべて吐いてもらった」
……終わった。
私のしたこと――全部、バレてる。
「あ、あ……」
膝が震えた。息が詰まりそうだった。
「そう怯えるな。……貴様に“チャンス”をやろう」
「チ、チャンス……ですか……」
アビ様の目が光る。瞳に浮かんだのは、禍々しい紋章。
その瞬間――
転がっていた“首”が、ひとつ。消えた。
直前まで目の前にあったものが、音もなく……失われた。
「…………っ」
セミマルも、アビ様の魔力に当てられて、震える声ひとつ出せない。
「貴様は運がいい。ちょうどミクラルに送っていた《食料調達係》どもが、一気に消えてしまってな」
アビ様は手をひと振りする。
「今日からその役目、貴様が引き継げ。働き次第では……今回の件、見逃してやらんこともない」
……断れるはずが、なかった。
私はその日から、都市《スコーピオル》の“食料調達係”になったのです。