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アネモネは忘れてしまいたい事や、辛い事があれば、ベッドで毛布を被って丸くなって寝た。嵐の夜や、雷が鳴り続ける晩もそうやって。
どうにもならないことがあるのは、幼い頃に身をもって知った。だから足掻くことと、やり過ごさなければならないことの区別は、同じ年の子供より遥かにできていた。
少し大人になった今では、その区別はもっと上手にできるようになった。
今日の一連の出来事は、忘れた方がいいことだ。深く眠って、朝が来るのを待てばいい。
時間は一番の心の薬だ。夜が明ければ、きっと心の傷は癒えるはずだから綺麗さっぱり忘れちゃえばいいんだ。
そう思って、強く目を瞑って、毛布を頭から被って眠ろうと思ったが、いくら待っても眠りはやってこない。何度、寝返りを打っても。羊の数を数えても。
今日はとことん上手くいかない日だとアネモネは苛立った。
加えて湿気の強い夏の雨の夜は、毛布を被ったらとても暑い。そのことにも腹が立って、アネモネは勢いよく毛布を跳ね除けた。
そのとき、ガチャリと扉が開き──ソレールが姿を現した。
「……あ」
「……あ」
同時に声を上げた二人は、互いの顔を見つめることしかできない。
アネモネは夜勤で今夜は帰ってこないはずのソレールが、ここにいることに信じられない気持ちでいるし、ソレールは寝入るにはまだ早い時間に、アネモネが目を赤くしてベッドで横になっていることに驚いている。
「ソレール、仕事は?」
沈黙に耐え切れずアネモネが尋ねると、ソレールは誤魔化すように笑う。そして、ベッドから降りようとするアネモネを止めるように早足で近づいた。
「うん、ちょっと……ね」
「……そう」
ソレールは、アニスの護衛騎士だ。昼間にアニスとやり合ったことを知っているはずだ。なら、仕事を放り出してここに来たということは……。
「ソレール、怒ってる?」
取り次ぐから待っててという約束を破って、勝手なことをして。あなたの大切な主に暴言を吐いて。
そこまではっきり声に出して聞けないアネモネは、ベッドの端に腰かけたソレールを伺うように見つめる。
「まさか。怒ってなんかないよ」
「……本当?」
「ああ」
「じゃあ、なんで戻って来たの?」
「えっと……それは」
開け放たれた扉から居間の明かりが差し込んではいるが、この部屋は薄暗い。でも、ソレールが困った顔をしているのはちゃんと見える。
アネモネは、じっとソレールを見つめる。
「……君の顔をが見たくて」
「っ……!」
「アネモネに会いたくて戻って来たんだ」
適当なことを言おうと思って、でもその言葉が見つからないから本当のことを伝えるしかない。
そんな居心地が悪そうな表情を浮かべて、ソレールは言った。