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それから3時間目の空きをはさみ、無事に授業を終えることができた。しかし、それと同時に1日目が終わってしまったのは少し寂しい。
「悠希乃さん、1日目お疲れ様」
「た、高科先生、お疲れ様です」
「今日この後空いてるかな?」
「え、えーと。あはい、空いてますけど、どうかしたんですか?」
「俺と悠希乃さんと畑野先生と新井先生でご飯どうかなと思って。行けるかな?」
私は今夢を見ているのだろうか。高科先生が私をご飯に誘っている?いや、現実だ。というか夢であってほしくない!
「わ、私は全然大丈夫です!えと、お二人は?」
「あまだ誘ってないから悠希乃さん誘っといてもらえる?その間に仕事終わらせちゃうから」
「はい!」
どうしよう。高科先生にお見苦しいところをお見せしてしまった気がする!両手を頬に近づけると触れてなくても熱気が伝わってくる。こっそり鏡を見るとほんのり頬が赤い。これがチークのせいではないのは一目瞭然だ。誰にも気づかれないことを願いながら、まず新井先生のもとへ向かう。
「新井先生、今大丈夫ですか?」
「うん、どうしたの?」
「えと、今日この後空いてたら、高科先生と私と新井先生と畑野先生とでご飯どうかなて話してたんですけど」
「おーいいね、ちょまってね今確認する。あ、空いてる。じゃあ行かせてもらおうかな」
「やったぁ!ありがとうございます!」
「うん、こちらこそありがとう」
ふぅ、よかった!次は畑野先生だ。
「畑野センセ~!」
「おぉ、どした?あ、授業どうだった?」
「結構緊張したんですけど無事に終われました」
「よかったよかった。で、どうしたの?」
「あ、えっと。今日この後空いてます?空いてたら私と新井先生と高科先生と畑野先生とでご飯どうかなて話しになったんですけど」
「大丈夫だけど私飲めないよ?」
「大丈夫です!私もお酒弱いんで」
「オッケー。あ、でも私8時で帰るからね。旦那さん待ってるから」
そう微笑む畑野先生は本当に幸せそうだった。
それなら私以外既婚者だし8時で解散かな?
「はーい。じゃあ楽しみにしてますね」
「はいはーい、ありがとね」
はぁ、すごい楽しみだ!まさかあの3人と一緒にご飯に行けるだなんて。嬉しすぎて舞い上がりそうだ。そうだ、高科先生にお知らせしないと。そう思うと心拍数がどんどん上がっていく。大丈夫、ただ結果を報告するだけ
「すぅ、はぁ」
深呼吸で心を落ち着かせる。
「高科先生、お二人とも大丈夫だそうです。ただ、畑野先生は旦那さんが待ってるからって8時に帰るそうです」
「了解。悠希乃さんもう仕事終わった?」
「あ、はい。私は完了してます」
「じゃあ先に店探して席とっちゃっておきましょう」
「あ、たしかに。でも、私今日電車で来たんでちょっと遅れちゃうかもです」
「じゃあ、俺の車乗ってきなよ」
「えぇ!いや、さすがにそれは」
私の心臓がもちません!
「んー、でもその方が店探すの簡単じゃない?」
たしかにそうだ。ここは親切心で誘ってもらっているのだから感謝の意をもって相乗りさせてつもらおう。そこから私たちは、某人気チェーン店にて夕食をともにすることにした。そこまではよかった。しかし、私の心臓が痛いほどに心拍数を上げている。高科先生の車に2人きりというシチュエーションのせいで、私の心臓は暴れ狂っている。高科先生のハンドルを両手に運転している横顔は外の街灯や街の明かりに照らされてかっこよさが増している。本当にきれいな顔をしていらっしゃる。不覚にも奥様が羨ましく感じる。昔から変わらない長い指もかっこいい、と指に視線を移す。あれ、指輪がない。職務後すぐだからつけ忘れているだけか?いや、そんなわけがない。私が在学中高科先生は学校にいるとき常に指輪はつけていた。これは聞いてもいいことなのだろうか。聞くとしても今でないことはわかる。そんなことを悶々と考えてるうちにお店についてしまった。
「はい、つきましたよ。」
「あ、ありがとうございます。」
「中、入りましょうか。」
「はい。」
高科先生の後を追うようにして店の中に入る。
「混んでなくてよかったね」
「はい。2人ともあと10分程でつくそうです。」
「もう連絡先交換したの?」
「あ、はい。」
「なんか元気ない?」
「あ、いえ。嬉しいのと緊張とが混ざっちゃってて」
嘘ではない。実際尊敬している3人とご飯を一緒にできるということに少なからず緊張している。ただ、それ以上に指輪のことが気になってしまう。
「そうなんだ。今日は緊張しっぱだね。でも、そんな怖がんなくていいよ。何かあったときも俺いるし。」
「あ、ありがとうございます」
やっぱり高科先生は優しい。ただ、その優しさに私はつけこんでいないだろうか。高科先生の優しさに甘えて判断力が鈍ってしまっているのではないだろうかと不安になってしまう。
「あ、いた。お待たせしました」
「お待たせしました。あ、悠希乃高科先生の隣いったら?」
「え?」
「ほら、私たち既婚者だし。旦那さんに申し訳ないからていうのは建て前であんた昔から高科先生のこと好きだったでしょ」
「ちょっ!そんなこと今言わなくてもいいじゃないですか!」
畑野先生!落ち着いてご飯食べれなくなっちゃったじゃないですか!こっそり高科先生の方を見ると澄ました顔で水を一杯口に含んでいた。「じゃあなんか頼みましょう」
しばらくすると、テーブルの8割が食事と皿で覆われた。私も楽しさで心が浮かれている。
「悠希乃最近どう?困ったことない?」
「あー、あんましないですよ。家から学校に来ることが大変なこと以外は笑」
「なにそれ笑
車は?運転しないの?」
「したいし、免許も一応とってるんですけどアパートで一人暮らしなのでスペースがなくて今日も電車です」
「置けるとこに引っ越せば?ちゃんと働き始めたら車買う余裕もでてくるだろうし」
「私初任給と大学時代のバイトでためたお金使って買った記憶あるよ」
「そうなんですね、ありがとうございます。でも、これからはそういうこと早め早めにやらないと忙しくなりますよね。」
「そうですね。」
「新井先生は毎日サービス残業だったよね」
「いやもう、ほんとですよ。悠希乃、覚悟しとくんだよ。」
「大学生にそんなこと言わないでくださいよぉ。」
「そっかぁ、大学生か。若いねぇ。」
「私らは全員30代だしうち2人はアラフォーだもんね」
「教師やってると時間の流れが明確ですよね。」
「そうなんですか?」
「たしかに。学生と同じように季節ごとの行事に参加してるもんね。」
「あーたしかに」
考えてもみなかったな。私も中学時代を思い出すとなかなかに面白い思いでばかりで思わず笑い声が漏れてしまう。
「ふふ」
「どうかした?」
「あ、いや。高野先生覚えてますか?」
「もちろん、もちろん。てか、去年までいたよ。」
「そうなんですか?で、高野先生が毎年体育祭の時期になるといい感じのサングラスかけてたなあて」
「あぁ、たしかにね。うちの学年の先生たちは結構キャラ濃かったよね」
「ですよね。思い出すだけで楽しいし幸せだなぁ」
「たしかにね。あ、ごめん。8時だから帰るね。」
「あ、すみません。うちも新婚なんで。これで失礼します。」
「あ、もうそんな時間か。2人ともありがとうございました。すごく楽しかったです」
「うん。私もすごい楽しかった。」
「また余裕でてきたら一緒にご飯行こうね。」
「はい。じゃあまた来週。」
「うん。バイバイ」
「またね。がんばるんだよ」
「はーい」
2人が帰ると寂しさと緊張が胸の中を渦巻く。
「高科先生、私たちはどうします?」
「んー、俺は家に帰っても暇になっちゃうだけだし、もう少し話したいから悠希乃さん付き合ってくれる?」
子犬がすがるような、そんな目でみられたら断ることなんてできない。
「あ、そういえば悠希乃さんは飲んでも大丈夫だからね?俺送ってくし」
「え!いや、さすがに申し訳ないというか」
「大丈夫だよ。それに家遠いんでしよ?ここは大人に甘えなさい。」
「じゃあお言葉に甘えて、お願いします」
私も大人なんだけどなぁ。高科先生からしたらまだまだ子供なのかな。
私はカシオレを頼み、その甘酸っぱいアルコールを口に転がした。酔いのせいか、今なら指輪のことを聞ける気がする。でも、聞いてもいいのだろうか。
「指輪、気になる?」
「え?」
「見てたでしょ。運転中くらいからかな」
まさかばれてしまっていたとは。もしかしたら、横顔を見ていたのもバレていたかもと思うと恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだ。でも、高科先生、笑ってる。聞いてもいいのかな。
「聞いてもいいですか?」
「うん。いいよ。どこから話そうかな。」
そう言って、サイダーを口にいれる。
「浮気されてたんだ。しかも、娘をつれてね。」
あまりに衝撃的で息を飲んだ。つまり、元奥さんは娘さんをつれて他の男と会っていたのか。あまりに残酷な話だ。
「それは、残酷ですね。それで奥さんとは」
「もちろん、離婚したよ。ただ、娘の親権が向こうに渡っちゃったんだ。娘が浮気相手になついてたしね。」
「そうなんですか。ちなみにいつ頃なんですか。」
「離婚したのは3年前。ただ、浮気は5年くらい前からだろうね。」
「そうなんですか。」
なんて声をかけるべきかわからない。私は浮気をされたことがないしそもそも恋人と呼べる人もいたこともない。沈黙が気まずくてカシオレをまた口に運ぶ。もうグラスが空っぽだ。
「俺に構わず飲んでいいよ」
「あ、ありがとうございます」
また同じカシオレを注文する。
「変わらないね」
「え?何がですか?」
「悠希乃さん、ひとつのことに絞ったらなかなか変えないでしよ。悠希乃さんの魅力のひとつだね」
「私も高科先生の素敵なとことかかっこいいとこいっぱい知ってます」
あー、何言ってんだろ、私。
「だから、高科先生は何一つ悪くないです。」
「ありがとうね。俺も他にも悠希乃さんのいいとこいっぱい知ってるよ」
「へへ、ありがとうございます。」
なんか、眠いな。でも、ここで寝たらまずいよ、な。
ここで私の記憶は途絶えた。
つづく