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sxxn短編集
翠百
『隣にいるだけじゃ足りない』
────
「らんらん、おはよぉ。」
いつもと変わらない朝。
教室のドアを開けると、らんらんが入ってきたからにこっと笑って手を振った。
「おはよ、すち。」
らんらんも笑って返してくれる。
そのやり取りを見ていたクラスメイトは口々に言う。
「相変わらず仲いいよね。」
「ほんと、親友って感じ。」
その言葉に、俺はいつも通り笑う。
「そうだね。」
……
親友。
そう。
“みんなから見れば”。
(親友、ね。違うんだけど。俺はそんな軽いものじゃない。)
(らんらんが笑うたびに嬉しくなるし、他の人と楽しそうに話してるだけで胸が苦しくなる。今日もちゃんと朝七時十二分に家を出たね。昨日より三分早い。朝ごはんはコンビニのおにぎりだった。昨日はパンだったから今日は米の気分だったのかな。)
心の中だけで呟く。
もちろん表情には一切出さない。
「今日の授業眠いね。」
「だねー。」
自然。
完璧に自然。
誰も気づかない。
昼休み。
「らん、一緒に食べよ!」
友達がらんを呼ぶ。
「うん!」
らんは笑顔で席を立った。
その瞬間。
(……あ。)
(今日は俺と食べると思ってた。)
(なんで。)
(昨日『また明日』って笑ってくれたじゃん。俺、何かした?嫌われた?違うよね。違う違う違う。ただ誘われただけ。そう。)
……でも、
(断れたよね?)
一瞬だけ笑顔が止まりそうになる。
でも。
「楽しんでおいで。」
優しく笑う。
「ありがと!」
らんらんは気づかない。
あー……。
(かぁいい。笑った。俺に笑った。それだけで今日生きられる。)
放課後。
「じゃあまたね!」
らんが帰ろうとする。
「また明日。」
すちは手を振る。
普通。
どこから見ても普通。
らんが角を曲がる。
その瞬間。
すちの笑顔が消えた。
(かえるわけないじゃーん♡)
少し距離を空けて歩く。
決して近づきすぎない。
目立たないように。
らんが立ち寄った本屋。
(新刊。)
コンビニ。
(ジュース一本。)
公園。
全部、頭の中に入っていく。
「……。」
誰にも気づかれない。
気づかせない。
翌日。
「らんらん。」
「ん?」
「この前読んでた漫画面白かった?」
らんは目を丸くした。
「え? なんで知ってるの?」
一瞬。
しまった、と思ったが、すぐに、自然に。
「あ、この前カバンから少し見えたから。」
「あー、そういうことか!」
納得したらんは笑った。
(危なかった。)
(もう少しで気づかれるところだった。)
(気をつけないと。)
ある日、突然雨が降った。
「最悪……傘ない。」
らんが困っている。
「一緒に入る?」
「え、ありがとう!」
らんらんが傘無いのは計画通り。俺が朝奪ったもん♡
(近い。幸せ。ずっとこうしてたい。家まであと九分。あと九分しかない。)
「今日ありがとう。」
「気にしないで。」
笑う。
いつも通り。
優しく。
(あと九分しかない。明日になればまた会える。でも。夜は会えない。連絡来ないかな。今何してるかな?ちゃんとご飯食べるかな。風邪ひかないかな?誰と話してるかな。笑ってる?その笑顔は俺に向けて?……違うよね。)
胸の奥が重くなる。
スマホを握る。
メッセージを送りたい。
でも送らない。
「重い」と思われたくないから。
嫌われたくないから。
だから、全部飲み込む。
「すち?」
突然、後ろから声がした。
振り返ると、らんらんが走って戻ってきていた。
「これ落としたよ。」
ハンカチ。
「ありがとう。」
受け取ると、らんらんは笑った。
「じゃあまた明日!」
走っていく背中を見送りながら、俺は小さく息をついた。
(……危ない。)
(こんな顔、見られなくてよかった。)
もう一度、いつもの笑顔を作る。
誰も知らない。
誰も気づかない。
親友として笑うその裏で、
「らんらんが笑ってくれるなら、それでいい。」
そう思いながらも、
(……本当は、俺だけを見ていてほしい。)
その願いだけは、誰にも打ち明けることなく、胸の奥へ静かにしまい込むのだった。
コメント
1件
うわあ……これ、すごく好きです。 すちの“親友”って言葉の裏にある執着とか、温度差がたまらないですね。朝の行動パターンを覚えてるとか、傘を隠したってところ、ちょっと怖いけど、愛おしさも感じました。らんらんが無邪気だからこそ、すちの感情が浮き彫りになってて切ない。第1話なのに世界観に引き込まれました。続き読みたいです🌙🤍