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坊ちゃんと世話係
御三家が1つ、禪院家。それは呪術界きってのエリート家系で、優秀な術師を数多く排出している。
屋敷も人脈も権力も超BIGで、この業界で生きる者の中で知らぬ者はいないであろう家。
私は、そんな家の女中である。
「夏梅ちゃん、こっちも頼める?」
『はーい』
他の女中に呼びかけられ、間延びした返事を返す。
廊下の拭き掃除が終わったら、次は窓。
それから庭の掃き掃除。ああ、布団も干したいな。
「夏梅ちゃんは仕事が早くて助かるわぁ」
『ふふ、教え方がいいのかなぁ』
「もう!夏梅ちゃんてば上手ねぇ」
ふふふあははと笑いながら談笑する。
正直言うとめんどくせぇ。
いつまで上品ぶれば良いのかな私は。
私、夏梅は今年で11歳。
因みに苗字は無い。捨て子だからである。
ダンボールに入れられ捨てられていた私を見つけた買い出し中の女中が、気の毒に思い拾ってきたらしい。
ダンボールって何だダンボールって。子猫じゃあるまいし。
そして、私にはもう1つ他の女中とは異なる点がある。
私には前世の記憶というものがあるのだ。
名前だけ聞けばえらく並外れに感じるが、その前世というのも大したものでは無かった。
一般家庭に生まれ、普通に育ち、普通に働き、交通事故で死んだ。
実に可もなく不可もない人生を送っていたが、それのお陰で私はこの歳で処世術を身につけられているし、私が働いているこの禪院家が時代錯誤も甚だしいクソみたいな家だということが分かった。
それにだ。
可もなく不可もない。なんと甘味な響きだろう。
何事も平穏が1番なのである。
だから⋯
『離れろってば、聞いてるの直哉!!』
「嫌!!遊んでくれるまで離さへん!!」
うざったい。
竹箒を持ち庭へ向かおうとすると、足を掴まれた。
振り返り見下ろせば、ニコニコしながらこちらを見つめる黒髪の美少年が私の足を両手でがっちりと固定していた。
禪院直哉。
今年で5歳になる禪院家次期当主候補筆頭。
「なあなあ、また外連れてってや、俺あいす食べたい」
『嫌だよ、バレたら怒られる』
「じゃあうちで遊ぼ!!とーしゅ命令!!」
『はあ⋯⋯⋯』
こうなったら奴は引かぬのだ。
仕方がない。他の女中に怒られたら全責任直哉に押し付けよう。
彼がこんなに私に懐いているのは、私がやらかした出来事が原因だ。
私は何故か術式を持っている。
時間操術。
これまた仰々しい名前だが、内容はいささか単純でそんなに強力でも無い。いや、あるかもしれない。
内容は、自分の半径10m以内の時間を5秒だけ巻き戻せるというもの。
連続で使うことは出来ず、もう一度使うには十数秒のインターバルが必要である。
閑話休題。
先程述べた出来事だが、簡単に言えば躯倶留隊員を数名ボコってしまったのである。
「女の癖に生意気だな」
「もっ、申し訳ありませんっ!!」
躯倶留隊の訓練場で、隊員の1人が女中に暴力を振るおうとしている所を目撃した。
私はとっさに術式を使い、時間を戻した。
因みに、時間を戻せるのはあくまで物理的なものだけ。精神や記憶は巻き戻されない。
そして、私が術式を持たない事を知らない隊員の腕を掴んだ。
「、?!今、確かに殴った筈じゃ⋯」
『はあ、女性に手を上げるなんて男の風上にも置けない。術を学ぶ前に現代社会の一般常識を学びましょうね。』
「なんだと!?ガキが生意気な!!」
案の定熱くなって手を上げて来たので、その手を掴み彼をひっくり返した。
「おい!貴様何をしている!!」
また他の隊員が向かって来たので同じ様にひっくり返した。
それが幾度か続き、地面に横たわる隊員たちを見て、今更ながらこれはやばいのではと感じ退散しようとした時だった。
「⋯これ、お前がやったん?」
『⋯直哉サマ』
やらかした。
よりによって禪院家の期待の星に見られてしまった。
きっと私が術式を使っている所も、躯倶留隊員たちをひっくり返している所も目撃された。
クビだな。
ハローワーク行かなき
「すごいな!!!!」
『⋯は?』
思わず間の抜けた声が出た。
「なあ、なんで女なんにこんな強いん?術式教えてや!!あと体術とかどこで勉強したん?俺も出来るようなりたい!!!」
私の手を握り、ぶんぶんと振りながら興奮気味に話すおちび。
彼が私の3歩後ろを引っ付き回るようになったのはこの頃からだった筈である。
と、言う訳だ。
「鬼ごっこしよ!ねーちゃんが鬼な」
『鬼ごっこしたら掃除させてね』
「⋯」
『おい』
何度か話す(直哉が一方的に)内に、呼び捨てとタメ口を許してくれた。
というか、呼び捨てとタメ口で話せと言われて私女中なんでと断ったら泣かれた。
解せぬ。
「10秒経ったら来てええで!」
『はいはい⋯』
ん?鬼ごっこ?
私に勝ち目無くね?
『はーち、きゅーう、じゅーう⋯って、うわ⋯』
「捕まえれるもんなら捕まえてみぃ!!」
彼の持つ術式、投射呪法を使い亜音速で逃げ回る直哉。
木の上に立ち、私を挑発してくる。
と思ったらまた逃げ回る。
『⋯ふっ、』
私をあまり舐めるでない。
先程直哉が居た木の上に飛び乗り、時間操術を使う。
するとなんとびっくり。直哉が私の腕の中に現れたではありませんか。
術式で時間が戻り、彼は5秒前にいた位置であるこの木の上に戻って来たのだ。
「⋯っうわ!」
『はい捕まえたー』
「⋯ぶっ、あはっ、捕まってしもたわぁ!!」
『私に勝とうなんて100年早いね』
「ふふ、次は勝ったる!!」
きゃっきゃと笑う直哉を抱き抱えたまま木を降りる。
負けず嫌いな彼だが、負けたら負けたで楽しそうである。
「⋯!!こら夏梅!!」
『あっ⋯』
女中頭の声で意識が引き戻される。
「また直哉様に無礼な態度を⋯それに家事もやりっ放しでしょう!今すぐ持ち場に戻りなさい!!」
『はーい⋯』
くそ、このガキンチョのせいで怒られた。
直哉を下ろし、外壁に立て掛けていた竹箒を手に取る為に歩き出そうとすると。
「⋯だ⋯⋯」
「直哉様、どうなさいましたか?」
何か呟いた直哉に、女中頭が尋ねる。
「やだぁ!!!」
鬼ごっこの前のように私の足にしがみ付き、直哉がそう叫んだ。
「ねーちゃんと遊ぶ!!」
「ですが、直哉様ももうすぐお勉強のお時間では⋯」
『は、そうなの直哉』
「やだぁ!!!!!」
遂に泣き出してしまった。
黄金色の瞳が浮かぶ大きくてクリクリとした目から涙が溢れる。
わあわあと泣く直哉に頭を抱える。
そんなに勉強したくないのか。
めんどくせぇーーー⋯⋯⋯
『⋯もう家庭教師の方来てるんですよね』
「ええ、⋯」
『はぁ、⋯ったくこのガキは⋯』
直哉を再び抱き上げ、彼の耳元に己の口を近づける。
『頑張ったら今度また外に連れてってあげるから⋯』
「⋯!!!」
背中を擦りながらそういえば、涙で潤んだ彼の目が大きく開かれた。
「⋯ほんまに?」
『うん、ほんと』
「⋯〜っ、おれ!!勉強してくる!!」
私の腕から飛び上がり、玄関へと駆けて行く直哉。
外に連れてってあげる、というのはそのままの意味である。
1度、退屈だとうるさい直哉を黙らせる為に外に連れ出した事があるのだ。
見た事の無い建物に、見た事の無い道。家では見ないような服を着た人々が奇天烈な色形をした食べ物を食べている。
禪院家のあのゾッとするような静けさが夢であったかのように、そこは喧騒と眩い光で溢れていた。
私の少ない給料やお小遣いで、好きな物を食べさせ、好きな事をさせた。
財布が寂しくなったが、金などどうせ持っていても使わない。
次はあれを食べたい、その次はあれ、と指を指す直哉の瞳は、周りの光が反射してキラキラしていた。
数十分店を回った後そろそろ帰ろうかと言った時の、彼のあの絶望した顔といったらまあ傑作⋯⋯ごほん。
その日は誰にも抜け出した事がバレる事は無かったが、次は分からない。
彼を連れ出したなんてバレたら⋯考えるだけで背が震える。
はあ、と、今日何度目かも分からぬ溜息を漏らし、庭の掃き掃除を始めた。
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夏梅(ナツメ)
禪院家の女中。
時間操術という術式を持っている。
The普通な人生を送った前世の記憶がある。
好きな食べ物は寿司。
ストレスは直哉(のこちらを配慮していない行動)。
体術はどっかのフィジギフおじさんに教えて貰った。いつかおじさんとの出会いも書きたい。
前世に呪術廻戦という漫画自体はあったのだが、そのような類に疎かったので気が付いていない。
が、ドブカスミームの流行により何度が直哉を目にした事があった為、彼に謎の既視感を覚えている。
数日後、当主である直毘人から直哉の世話係を命じられてストレスが増える。
禪院直哉(ゼンイン ナオヤ)
禪院家次期当主のドブカス。
投射呪法という術式を持っている。
夏梅が躯倶留隊員をシバいているのを目にし、そこから夏梅に引っ付くようになった。
夏梅と一緒に現代日本の価値観に何となーく触れているので、辛うじて人の心がある。もうすぐ無くなる。
実は夏梅の事を姉と勘違いしていたりいなかったり。
夏梅の両親について(読まなくていいゾーン)
夏梅の母親は経済的な理由で夏梅を養う事が出来ず、泣く泣くダンボールに入れて捨てた。
普通なら児童養護施設などに預けるものだが、母親はまだ肉体的にも精神的にも幼く、大した学も無かったのでそのような施設がある事すら知らなかった。
父親、というより相手の男は、夏梅の母親が夏梅を身篭った事を知るや否や行方をくらました。
この2人の遺伝子を引き継いでいる時点でマトモな人間に育つ訳が無いが、先程述べた通りThe普通な前世の記憶があるので真っ当な人格を持てた。
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好評だったら続きを書きます。
恋愛要素は少なめになる予定です。
立派なシスコン(?)になる直哉が書きたい。