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セツナと二人きりになった後、何も話さず歩いていると神秘的な場所に辿り着いた。
磨かれた石畳が敷いてあって、その端には人の背丈よりも高い大理石の柱が立ち並んでいる。
天井がないので、昇ってきた月を見上げることもできる。
まるで儀式や舞踏会のステージみたいだ。
そこを通り過ぎてすぐの場所にセツナが案内したかった倉庫があった。
既に灯りがついていた室内に入ると、壁の端から端まで繋ぐポールがあって、彩り豊かの服がたくさん収納されていた。
近くにある棚にはカラフルな糸と生地がたくさん並べられていて、大きな作業台が側に置かれている。
「ここは、オレが服を作る時に来る場所だ。
裁縫は趣味でやってるから大したことないがな」
「職人の部屋みたい。
ここにある服は全部作ったの?」
「そうだ。戦争が止まってから時間に余裕ができてな。
この部屋に来て縫い物をしている」
ずらりと並んでいる服を見ると、男性が着る服が多めで女性の服も数着あった。
きっと、セツナは色んな服を作るのが好きなんだろう。
「シャツとスーツも作れるなんてすごい」
「注目したのが、その服とは意外だな。
オレはいつも羽織と袴かズボンを穿いてるから、それは試着でしか着たことがないな」
「そうなの? お洒落なセツナは色んな服を着ているのかと思った」
「なるほどな。それじゃあ、着てみるか」
私が指差したスーツとシャツ、それに合ったズボンを手に取り、棚の近くにあった扉を開けて入っていった。
着替えてくるセツナを待っている時、大きな机の下に色褪せた紙が落ちているのが見てた。
拾ってみると、胸元に複数の小さな薔薇が並んでいるドレスを着ている女性の絵が描かれていた。
人の顔と体は雑で歪んでいるものの、衣装だけは丁寧だ。
これは、セツナが描いたのだろうか……。
「ちょっと待て! それ以上、この絵を見るなよ」
「あっ、ごめん。
落ちていたから……、ってもう着替えたの!?」
羽織袴を着ていたから体型がよく分からなかったけど、スーツをスタイリッシュに着こなしていて品格がある。
色はダークネイビーで金色の髪をしたセツナに似合っていて、大人の色気とクールな印象が目立つ。
カッコイイかと聞かれたら、すぐに首を縦に振ってしまうだろう。
恥ずかしいから言えないけれど……。
「セツナって色んな可能性があるね」
「褒め言葉か、それは?
可能性があるのは、かけらだって同じだろ。
ほら、今日のご褒美はこれだ。オレの自信作。
いい生地を使っているし、しっかり縫ったから動いてもそう簡単に破れないはずだ。
かけらの身長なら着れると思う」
「これ……、私が着ていいの……?」
「汚れたボロボロの服を着て過ごすよりマシだろ」
「マシどころか、私にはもったいないくらいだよ」
「似合うから着てみろよ」
セツナに渡された服は、結婚式のパーティーで着るような上品なワンピース。
シルクで作られているのか、微かに光沢があって、純白ではなくミルキーホワイトのような色。
肩紐は細く、裾は膝下で細かい白いフリルがついていて、シンプルながらもお洒落を感じる。
そして、ワンピースのおまけにくれたのは、フードが付いている長袖のボレロ。
厚めの生地で作られているので、これで寒さが和らぐだろう。
「ありがとう、セツナ。
こんなに素敵な服を男の人からプレゼントしてもらえたのは初めて」
「初めてとか言われると、なんか照れるな……。
とりあえず、その服を着てみてくれ。
窮屈感があったり、緩いところがあったら作り直す」
「ここで? セツナの前で着替えろってこと……?」
「あっ……。気が利かなくて悪かったな。
オレは外で待っているから、着替え終わったら教えてくれ。絶対に覗かないと誓う」
「うっ、うん……」
セツナがドアを閉めてから、私はふぅっと深く呼吸をした。
こういう可愛いワンピースは、今までの選んだことがないし、着たこともない。
いつもスカートではなくズボンに合わせた服装をしていたから、私に着こなせるのだろうか……。
ドアの向こうからセツナが見ていないか、念のため確認しながら作業着を脱いでワンピースを着る。
肩紐の長さも丁度いいし、ウエスト部分も少し余裕がある。
フード付きのボレロも窮屈さがなくて、腕が動かしやすい。
似合っているかどうかは分からないけど、外で待たせているセツナに伝えるためにドアをそっと開ける。
「セツナ……。ぴったりだったよ」
「なっ……!? どこも違和感がないのか……?」
「うん、ないよ。
いつも着ている服の大きさと同じ感じ」
「よかったぜ……。すごく似合っているな。
かけらの美しさも引き出せている」
「そっ、そうなの……?」
「オレはいつも服を作る時、こういう人に似合うなって思い描きながら縫っているんだ。
かけらに渡した服は……――いや、なんでもねぇ」
「その先を教えてよ」
「ダメだ。恥ずかしいし、やっぱりまだ言うことでもねぇからな」
「もう……。
でもきっと、いい事だよね。そう思っておくから」