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俺は今、とある家族のペットとして暮らしている。
気づけば髪色と同じ紫がかった銀色の毛をした犬耳とふさふさのしっぽが生えていて、感情に応じて揺れたりするようになった。いつの間にか人間から何か別の生き物になったらしい。
「ふわっち〜」
「どしたしぃしぃ」
みんなが寄せ集まって出来たようなこの家族、さらに言えばなんで元ホストで人間の俺がペットになってるんだって話なんだけど、その辺りは自分でもよくわからないから置いておく。バーチャル東京ではいつもよくわからないことばかり起こるから、あまり疑問に思うと知恵熱が出る。俺はとうの昔に考えることを放棄している。
「家族で旅行?」
「そやねん。でも旅行先ってペット禁止なんよ」
「あ、そっ・・・すか。じゃあまぁ、留守番しときますよ俺」
ペットの前に人間なんだけど、とかのツッコミもなくはない。が、そこまでこだわることでもないような気がする。
少なくともこの家族のペット枠に収まっている間は、自分は「人間の前にペット」に意識を置き換えたほうがよさそうだ。
ペットになった日、その夜は確か記憶をなくすほどに酔って帰った。
行き倒れた後なにがあったかは知らないが、気づいたらこの家にいて、ここの家族に心配そうに世話をされて、ペットになった。
そのあとは理由を聞くこともなく、ホスト業もすることなく毎日家の中でダラダラしていた。いわゆる自宅警備員・・いや自宅警備犬か。
「あかんよ。ペット置いて何日も置いとくなんて。監督不行届になってしまうやん」
「そーすか?」
「ちゃんと預け先は考えてあるから大丈夫よ」
そりゃそうか。まさかペットホテルにでも預けられるのかと思ったが、犬や猫じゃないのに狭い檻に何日も入れられる自分を想像してちょっとだけ身震いした。ちゃんとした預け先は準備してあるらしい。
なんだか捨てられるみたいで気分が落ち込むが、しぃしぃに連れられて待ち合わせの近くの公園まで歩く。犬耳としっぽが生えてからというもの、なんだか思考も犬に似てきたようで、感情の起伏が激しくなった気がする。
ご飯がでたら喜ぶし、ボール遊びもすきになった。といってもボール遊びなんかは遊んでくれるりりむが楽しそうなのが嬉しいから付き合っているだけだけども。
なんだかんだペットになったあとも軽く散歩をしたり、日課だった筋トレがてらジョギングもしていたから、この辺りの道は見知った道だ。
散歩に連れられる時はいつもつけている紫の首輪にリードをつける。ペットの嗜みとか言われてつけているが、近所の人も大して気にしていないらしい。まるで俺がほんとの犬に見えているかのように、たまにかわいいねと頭を撫でてくることもある。
この世界がおかしいのかもしれないが、それを解決する方法もわからないし解決したいとも思わない。自分としてはのらりくらりと暮らしてきただけの人生から、新しい犬生も悪くないと思っている。
近くの公園に着くと、すでに預け人はベンチに座っていた。
「もちさん?」
「剣持〜きたで」
もちさんは近くに住む高校生だ。何か事情があるのか一人暮らしをしている。そして最近うちの家族同様、ペットを飼った。
「アニキ!久しぶりです〜!」
「晴。元気そやな」
こいつも俺と同じく元人間で、灰色の犬耳としっぽが生えている。今はぶんぶんと尻尾を振って、大型犬よろしく俺の周りを飛び回っている。
いつだったか散歩中に川で溺れている晴を助けたら、アニキと慕われるようになった。
犬になった理由もわからず途方に暮れていたところをもちさんが助けてくれて、ペットとして暮らすようになった。それからもちょくちょく連絡を取り合って2人で遊んだりもする、いわゆる犬友というやつだ。
「ほな、いい子で待っとるんやで。剣持の言うことよく聞いてや。お土産いっぱい買ってくるから」
「そんな心配せんでも。もちさんのこと好きだからちゃんということ聞くよ」
「剣持。こいつ脳死発言ばっかしよるけどヴィンセント家の頼れるペットやから。よろしく頼むわ」
「はいはい。ちゃんと責任持って預かりますよ」
まるで言い訳した子供を納得させるかのように優しく言い残して、しぃしぃ含むヴィンセント一家は旅行に行ってしまった。
しばらくは剣持家にお世話になる。
「もちさん。ふつつかものですがよろしくお願いします」
「ふふ、不破く…ふわっち。こちらこそよろしくね」
ぺこり。腰から折り曲げた頭を上げると、リードを引かれて剣持家に向かった。
家族以外に引かれるリードはなんだか新鮮で、あまり強く首を引っ張られないようにと剣持の歩幅に合わせて慎重に歩いた。
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ヴィンセント家、いいじゃん…ニコ
とかいいつつ剣持家にお世話になっちゃうんだけども
だんだん犬度が増すぷわを書きたい。
バーチャル東京で起こるなんでもありの日常って上限なくていいよね。