テラーノベル
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雨の匂いが、少しだけ冷たくなった日。
日葵と雨のなかを散歩していた。
「ねぇ、知ってる?」
久しぶりにその言葉に、俺は笑う。
「また花言葉?」
「うん!紫陽花の花言葉はね
“移り気“とか”辛抱強い“っていうんだ」
「正反対じゃん」
「色が変わるから”移り気“。でもね、雨の中でもちゃんと咲いてるから”辛抱強い“んだって」
日葵は、雨粒をのせた花に顔を近づける。
「私って、どっちだと思う?」
「移り気、かな?笑」
「ねぇ〜!ひどーい!」
いつものやりとり。
いつもの笑顔。
「花もさ、色とか本数で花言葉って変わるんだってよ」
俺が言うと、日葵は目を丸くする。
「え、なにそれ。調べたの?」
「ちょっとな」
得意げに言うと、日葵はニヤニヤしていた。
「へぇ〜。で?何色が好きなの?」
「赤色、が好きだな」
「なんで?」
「”強い愛情“だって。あと、”元気な女性“。」
一瞬、沈黙。
それから、
「なにそれ、プロポーズ?」
雨より先に、日葵が笑う。
「プロポーズは、前にしたって。」
でも、耳が少し熱い。
日葵は赤い紫陽花を見つめる。
「私、赤似合うかな」
「絶対、似合うよ」
即答してしまう。
日葵は、少しだけ照れた顔をして、
「じゃあ、覚えといてよ」
と言った。
その声は、いつもより少しだけ静かだった。
そのときだった。
「あれ……」
「どうした?」
「んー、なんかちょっと、ふらっとしただけ」
軽く首を振って、すぐに笑う。
「ほら、夏バテかな!私、意外と繊細だから!」
ハイビスカスと同じ言い方。
俺は深く考えなかった。
紫陽花は、雨の中で静かに色を滲ませていた。
あのときは、
それが“季節のせい”だと思っていた。
まさか、
俺たちの時間まで、少しずつ変わり始めているなんて。
紫陽花の花言葉──「移り気」「辛抱強い」
赤い紫陽花──「強い愛情」「元気な女性」
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