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< I wanted to extend my hand>
2024-11-02
※オーターと夢主の関わり多め(恋愛・𝖢𝖯表現では無いです) 苦手な方はブラウザバック推奨
「…して、ライラよ。其方は何故行方不明になってたのかね?」
いくら手を伸ばしても届かないような高い天井。チェスの盤面のような白黒の床。何時も掃除が追いつかなそうな、だだっ広い部屋に私は居た。
校長と私の、誰にも邪魔されない1:1の会話をするために。
「…アイル・スローン。私の██を助けに行く為だよ。だから禁書を使って、あっちの世界に行ってた。」
「…ライラ。其方は”昔” から変なことに次から次へと首を突っ込むが…今回は特に面倒なことに突っ込んだのぉ…」
懐かしむような、浅葱鼠色の瞳が私を映す。それは幾度となく見た、校長の目だった。
「えっへへ、ありがとう。」
「褒めてないわい」
「いや分かってるよ流石に。ノリだよノリ。」
まぁ校長がノリを分かってるとは思ってないけどね。反応見たいだけだし。
「はぁ……ライラよ、これからそなたはどうしたい?」
真剣な面持ちで、真剣な声で。そう聞かれた。その意味が分からないほど子供では無いけれど、それにするっと答えれる程私は大人じゃない。だから、誤魔化すようにその意味を聞いた。
「…どうしたい、って?」
「そのままの意味じゃ。これからどんな選択をして、どんな未来を歩むのか。それをワシは聞きたい。 」
私の選択と未来。それを見たいなど、校長も物好きなだなぁと失礼ながらもそう思う。でも_。
「……まぁ、とりあえずの目標は… 」
「親友の手を引きに行くことかな!」
「…そうか」
その答えを聞くと、ふっと笑って、校長は目を閉じながら微笑んだ。
✦✦✦
魔法局に帰ると、皆が出迎えてくれた。色とりどりの髪色が私の視界を覆い尽くす。
「ライラ…無事でよかったよ……」
「ライラさん、怪我や体調は大丈夫ですか?」
「ライラぁ、よかったよ…」
「ライラ!無事に帰って来れてナイスガイだ!」
白色、黒色、青色、黄色。その後ろに茶色、黄色と黒のツートンカラーなどが並ぶ。どっかの画家のパレットかな、と疑ってしまうほどその色は多種多様だった。
「ありがと、皆。私は大丈夫だよソフィナ。」
「そうですか、…なら良かったです。」
私の言葉に、黒髪の彼女_ソフィナは安堵の顔を浮かべた。そこまで私のことを心配してくれていたのか、と少し心を痛める。後で禁書を使った事とかも謝らなきゃ行けないのに、こんなことで心を痛められてたら謝罪の時はどうなることやら。まぁ確定で怒られるだろうから、こんな安堵した顔なんて浮かべないと思うけど…。
「…ライラ」
少し騒がしい周りの中、芯の通った声が私の耳に入る。その声の主は、今1番会いたくない人で。
「……オーター、」
身長の高い彼が私の目の間に立つ。いつ見ても高いなぁ、と思ってしまう。まぁそりゃあ15センチも差があるのだから、高いと感じない方が無理なんだけど…今はその高身長が怖い。視線の圧だけで押し潰されそうだし多分この後オーターの口からは罵詈雑言が棘のように飛んできそうだしで、出来ることならこの場から逃げ去りたい。
「…良かったです、無事で。」
「…へ、?」
優しい声。そんな声出せたのかと言うほど柔らかな声で、そう言われた。
一瞬誰の口から出された声なのか混乱して、頭の中が〈?〉で埋め尽くされる。思考が戻ると同時に、私の口から出たのは素っ頓狂な声だった。
「お、え?ん、おた…?」
「だから、無事で良かったと言っているんです」
余りのショート具合に、オーターは表情を変えることなくそう口にする。
「…………〜〜!?!!」
その言葉の意味を理解した時、私は喜びという感情しか出てこなかった。だって、あの無感情規則絶対マン(失礼)のオーターが。人に、私に心配の言葉を、かけた。
「…あ、ありがとう…」
驚きと喜びの感情が混ざりあって、やがてそれは私の口から感謝という形で出てくる。
「…フン」
きらっと輝く眼鏡、そのブリッチが、オーターの手で押される仕草をぼーっと眺めながら、私の脳は高速で現在の状況を処理して………
(?????えっえっえっ何???待って急にそんなこと言う???怖いよ??もはや怖いよ???私なんかしたっけ??私なんかオーターの気に障ることしたっけ??いやしてないよね??強いて言うなら無理やり魔力をひん曲げて禁書使って異世界行ったことだけどいやそれじゃん絶対それじゃん良く考えればオーター魔力管理局長なんだからこれバレたらヤバくない??え??私この後死ぬ??だから冥土の土産的な感じで褒められた感じ????怖すぎない???)
…いなかった。処理どころか疑問と恐怖しか浮かばなかった。
「…大丈夫?ライラ」
「…え、いや、大丈夫だけど…」
ツララが心配そうな顔をして私を覗き込む。あーーー可愛い…じゃなくて。
「…そう?ならいいんだけど…さむっ…」
「大丈夫ツララ?いつものしようか?」
「ううん、大丈夫…」
…いや見るからに寒そうなんだけど…まぁ本人が大丈夫って言ってるんだから大丈夫なのか…?
「…それにしても、ライラ。君は一体 どうするつもりだい?」
カルドはそう聞く。本当に私の意思が分からないのか、はたまたその意志が本物かどうか確認してるものなのか…私には分からない。
「…アイルを助けに行くんだよ。」
「異世界にわざわざ?」
別に引き止めてる訳じゃないし、嘲笑ってる訳でもないんだと思う。ただ、私が心配だから確認してるだけ。皆はとても優しいから、ただ純粋な心配をしてるだけ。そういう人達だって、この数年間一緒に過ごしてきて分かった。
「うん。私にとって大切な人なんだよ。」
私にとって大切で、すっごく必要な人だから。
「…ライラさん。止めはしませんが…それは貴方にとって…その…」
「うん、分かってるよソフィナ。異世界に行くってことはそれなり…いや、かなり危険が伴うことだって、そんなのとっくに分かってるよ。」
仮にも、私が行くのはこことは違う別の世界で、異世界なのだ。異世界なんて何があるか分からない。ここでは常識でも向こうでは非常識と捉えられてしまうかもしれない。でも、それでも。
「…”いつか”助けに行くじゃ遅い。だから私は助けに行くんだよ。どうしようも無い親友を。」
「…でも、ライラさん…あともう1回だってあの禁書を使えば、いつか代償が…!!」
わかってる。そんなの、分かってるよ。
「いいんだよ。禁書ってモノは覚悟があるから使うんでしょ。私はその覚悟があるって言える。」
「…っ、…そこまで言うのなら、分かりました」
苦しそうな顔をしながら、渋々といった様子で承認してくれる。それは彼女がどこまでも優しいということの証明だった。
「ソフィナ…」
止めるように、でももう分かってるといった表情で、オーターはそう呟く。そんな顔させたかったわけじゃないんだけどなぁ。
「…ただし。一つだけ約束してください。」
「…いいよ、何?」
「絶対に…”二人”で帰ってきてください」
その目は、本当の優しさで満たされていて。
「…!ありがとう、ソフィナ。」
___かくして、私はもう一度あそこへ行くことの許可が出たのだった。
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