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琴寧
38
#織田信長
常陸之介寛浩
173
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~駿河 今川屋敷~
今川屋敷を飛び出してしばらく経ったあと
義元様は、私の部屋を訪ねてきた。
「舅殿。義妹の体調が優れぬと聞いて、見舞いにまいりました」
父上は、義元様に向き直る。
「ええ……追放されてから記憶が曖昧らしく……。時より激しい頭の痛みがあるようなのです」
「それで、今日とうとう倒れてしまい……。昨日は、まだ……比較的元気だったのですが……」
父上は、心配そうな表情を浮かべながら続けた。
「……とりあえず休ませた方がいいと、医者には言われ申した。」
「見舞いの品は、わしが直接渡すゆえ……しばらくのあいだは、娘の部屋には……」
義元様は、すぐに頷いた。
「かしこまりました……。失礼いたそう……。元気になったら、顔をまた見せてくださいませ……ほほほほ……。」
そう言って、義元様は部屋を後にした。
父上は、その背中を見送ると、小さく息を吐いた。
(行ったか……ふうっ、あの後、本人も医者にはしっかりと見せたからのぉ。これで完璧じゃ……)
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甲斐国 躑躅ヶ崎館
「ふう……何とかこの屋敷には戻ってこれたわ……」
私は、周囲を見回した。
「むっ、誰が来る……隠れないと……」
慌てて身を隠すと、そこへ山本勘助が現れた。
「ふむ……警備は順調か」
「はっ……山本様の指示通り、昼夜問わず、交代で見ております」
兵が、きびきびと答える。
「ならば良い。……それと、由布姫様には決してご不便をかけぬように……。何か必要だと申していたら、すぐに某に伝えてくれ。用意する」
「かしこまりました!」
兵は、深く頭を下げた。
隠れている私は、勘助の姿を見ながら小さく呟いた。
「ふう……あの男は……??」
「以前は屋敷にいなかったわ……よね……??」
「ダメね……思い出せないわ……。」
その時、また頭に痛みが走った。
「……ぐっ……、また頭が…………!」
しばらくして、痛みが収まる。
「……ふう、落ち着いたわ……。」
私は、周囲を警戒しながら考えた。
「……でも多分……天井とかにも三ツ者がいるわよね……。」
「……どうしたものか………。」
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「まあ、こんなことも予想して、爆竹を大量に用意して……」
私は、用意したものを確認する。
「さらに、このおとりで餌にするわ」
「一旦、屋敷から離れて……っと」
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躑躅ヶ崎館近くの林。
「これでいいわ」
囮の人形に鎧兜や武器を身につけさせる。
「ふっふっふ……あとは……」
さらに松明を持たせてっと……。
「よーし、早速始めるわよ……!!!」
ーーーーーー
その頃、躑躅ヶ崎館では、晴信と勘助が話をしていた。
「由布姫殿は……」
勘助が、静かに答える。
「やはり、心をとざしておいでです」
「さようか……」
「ですが、某は御館様のお考えに従います……。由布姫様と御館様の子は、必ずや武田と諏訪を繋いでくれましょう」
「うむ………ほかの家臣はまだうるさいがな……」
晴信がそう言うと、勘助は少し考えてから答えた。
「まあ、無理もありますまい……。理があるとはいえ、危険なのは違いないですから」
「お前は……どっちの味方なのだ、笑」
晴信は、勘助に近づくと、その頭をわしゃわしゃと撫でた。
「このこの!!」
「ちょ……御館様、おやめくだされ、笑」
「しかし、初陣の時が懐かしい……。初めてあったのが、あの時であったな」
「はっ……あの時は参り申した」
「だが……先代は見事に手玉に取っておったではないか、笑。これから改めてよろしくな、敢助」
「はっ……!!!」
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「さーて、爆竹を使ってっと……」
私は、爆竹を仕掛けた場所へ火をつける。
バチバチバチバチ!!!
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「!!! なんの音だ!!!」
勘助が、驚いて声を上げた。
「爆発音だな……!!! 誰か忍び込んだのか……!!」
晴信も、すぐに周囲を見回す。
「いえ、そのような事は……。忍びも見ておらぬと。」
兵が答えると、勘助は眉をひそめた。
「……????」
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「よし、今のうちに……」
私は、黒い布を被って、あそこまで沢山誘導するわ。
爆竹をさらに投げる。
「むっ……今、あそこが動かなかったか???」
晴信が、音のした方へ目を向けた。
「はっ、たしかに動いたような……」
勘助がすぐに兵に指示をだしていく。
「兵たちよ、すぐに追え!直ちに捉えるのだ!!!」
「……!! よし、読み通りね」
私は、ほっと息をついた。
「それで囮の方まで兵は行くはず……」
「あそこは近いけど、隠し通路を使わないとかなり遠回りだから、戻ってくるのにも時間がかかるわ」
「それに……ね、笑」
私は、館の方へ目を向ける。
「さーて……側室候補の部屋に入りましょう……」
「気配は感じないわね……」
僅かな音にも、気がつけ、方円……。
己の復讐のために……!!
ーーーーーー
由布姫の部屋
「……! だれ……!」
由布姫が、突然現れた私に驚き、声を上げる。
私は、人差し指を口元に当てた。
「しー……こんにちは、諏訪姫様。私は敵ではありません……」
由布姫は、警戒を解かぬまま私を見つめる。
「……いきなりそのようなこと言われても、信じられないわ……!」
「ええ、そうでしょうね……。私は貴方様と似たようなものです……。少し、私の身の上話を聞いていただけますか??」
当然、このように最初は強く警戒された。
だが、追放されたこと。
血を分けた者に裏切られたこと。
実の姉を奪われたこと
それを打ち明けると――ほんのわずかに、その視線が緩んだ。
「……ということです」
私は、静かに言葉を結ぶ。
「それは……」
諏訪の姫は、息を呑む。
「貴方も、お辛かったでしょう」
「よく……打ち明けてくださいました」
………
だが、すぐに表情を引き締める。
「それはさておき」
「ご用件は……何でしょうか」
私は、一歩だけ踏み出す。
「私たちは」
「互いに、大切なものを失いました」
静かに、言葉を重ねる。
「諏訪様は、お父上を」
「私は――血を分けた姉を」
わずかに間を置く。
「そこで、お願いがございます」
視線をまっすぐ向ける。
「時が来た時」
「どうか、動いてはいただけませんか」
沈黙。
長い、沈黙。
やがて。
「……今は」
諏訪の姫が、ゆっくりと口を開く。
「あの男に従うほか、ありません」
その声は静かだった。
「どうか、それだけはお認めください。」
顔を上げる。
その瞳には、確かな意志があった。
「――時が来たら」
それ以上は言わない。
だが、それで十分だった。
「……ありがとうございます」
私は、小さく頭を下げる。
「本日は、これで失礼いたします」
私は一歩、退く。
「その前に」
ほんのわずかに槍に視線を落とす。
「……禰々姉様に、手向けを」
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躑躅ヶ崎館近くの林。
「むっ、何やつ」
兵が、林の中に置かれたものに気づく。
ぼとっ……
「これは人形……囮か!!」
兵は、すぐに仲間へ叫んだ。
「まずい……皆、戻れ!! 御館様が危ないやもしれ……」
その瞬間――
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そう……人形に触れた瞬間、近くの罠が一斉に起動するようにしてあったのです。
木の上に吊り上げられる罠。
それを、ついでに仕込んでおいたのです。
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「囮の人形があっただと!!」
勘助が、報告を聞いて声を上げた。
「はっ、間違いございません。あと、仲間の何人かが木の上につるし上げられております」
兵が答える。
晴信は、険しい顔で口を開いた。
「そのような仕組み、そう簡単には作れまい……。やはり誰かが、この屋敷に忍び込んだな……!!!」
「警備を厳重にさせます……。特に御館様がいらっしゃる場所は、念入りに!!!」
勘助が進言する。
「うむ……」
晴信は、短く答えた。
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そうして……何とか接触に成功した方円は、墓参りをして駿河国に戻るのであったーーー
コメント
1件
ああ、第三話読んだよ…!方円の陽動作戦、めっちゃ頭いいし実行力あるなって思ったわ。爆竹と囮人形の連携、ちゃんと考えられてて惚れる🔥 それでいて由布姫との会話シーンは空気が全然違って、お互い「失った者」同士だからこそ通じ合うものがあるんだろうなあってじんときた。琴寧さんの歴史もの、キャラの内面までしっかり書かれてて毎回読み応えあるわ…!続きすごい気になる👍