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琴寧
38
#織田信長
常陸之介寛浩
173
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数日後、私は今川義元様の元へ顔を出していた。
「義元義兄様。数々の見舞いの品をご用意していただいたこと、心より感謝申し上げます。」
私が頭を下げると、義元様はいつものように、ほほほほと笑われた。
「ほほほほ……元気になられたようで安心したわ……。」
そう言いながら、義元様は少しだけ表情を曇らせる。
「で……やはり、記憶は……。」
(……良かった……。晴信殿から貰える金が
早速減ってしまうと思うたわ……。
まあ、無事なら良い。 ほほほほ……)
「はい……残念ながら……。」
私が答えると、隣にいた太原雪斎様も口を開かれた。
「……まさか、あの後倒れるとは思いませなんだ……立ち去ったことを、少し後悔いたしましたぞ。」
「姫君…頭が痛くなるなら、きちんと言ってもらわねば……。」
(全く……死んでしまったら、世話金という名の儲けが半分に減るではないか……)
「雪斎様にも、ご心配をおかけしたようで……」
私は、申し訳なさそうに頭を下げた。
すると、義元様が話題を変えるように尋ねられた。
「で、お聞きになられたか? 方円殿」
「聞いたとは……?」
「今度は晴信殿は、小笠原に攻め込むようじゃ……」
「そうですか……。」
私は、静かに答える。
「追い出された私には、関係のないことでございますが……」
「そうですな……」
雪斎様は頷かれた。
そして、少し探るような目を向けてくる。
「で、今の話を聞いても、やはり何も思い出しませなんだか……?」
「雪斎様……もしや、あの時の話を覚えておいでで……」
私は、わずかに視線を落とす。
「お気を遣わせてしまい、本当に申し訳ございません」
「いやいや……いいのだ、ほほほほ」
義元様は笑いながら、手を振られた。
「とりあえず、もう少し念のため休まれよ」
そして、義元様は雪斎様へと視線を向ける。
「雪斎、送ってやれ」
「はっ……では、部屋までお送りいたします」
雪斎様はそう答えると、私へ手を差し出された。
「さあ、姫君。参りましょう……」
私はその手を取り、雪斎様に連れられて部屋へと戻っていった。
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「信虎様、姫君をお送りにまいりました」
雪斎様が部屋へ入ると、父上が顔を上げられた。
「うむ……ありがたい……」
そして、私へと優しく声をかける。
「さあ、方円……少しまた、横になるといい」
「あまり無理をしてはならん……」
「医者を呼んだから、また診てもらおうな」
「はい……では、雪斎様。ご機嫌よう……」
「……では、拙僧は失礼つかまつる」
雪斎様は一礼すると、部屋を出ていかれた。
スタスタ
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しばらくして、医者が部屋へとやって来た。
「頭の痛みは、まだありますかな?」
「ええ……昔のことを思い出そうとすると、激しい痛みが……。」
私は、額に手を当てながら答える。
「ですが、痛みはすぐに収まります」
「……記憶喪失に、激しい痛み……」
医者はしばらく考え込んだ。
「おそらく、私が思うに……原因は、
やはりその記憶でございましょう…。」
「である以上は、休んでいただくほかありますまい」
そう言って、医者は薬を取り出す。
「一応、痛み止めは置いておきます」
「はっ……わざわざ、いつも遠くからお越しいただき、感謝しております」
父上が頭を下げると、医者は首を横に振った。
「いえ、これが仕事ですので」
「では、お大事に……」
医者はそう言い残し、部屋を出ていった。
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「……行ったか」
父上は、医者の足音が遠ざかるのを確認してから、私へと視線を向けられた。
「方円……とりあえず休め」
「……向こうにいた時も、頭痛があったのだろう」
「はい……そうさせていただきます」
私は、小さな声で答えた。
「……怪しまれないためにも」
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数日後
父上は、私の様子を見ながら、静かに口を開かれた。
「ふむ、方円……ここ数日は、ほとんど寝ていたな……。」
「やはり……」
私は、父上に聞こえる程度の小声で答える。
「大丈夫ですわ」
「疑われぬように、寝ていただけです」
そして、少し間を置いてから続けた。
「あと、戻った後、父上に話をしておりませんでした」
「その報告を……」
「ふむ……そうか……」
私は続ける。
「姉上の墓にも、手向けをしてまいりました」
その言葉に、父の目がわずかに揺れる。
「……わしも、行きたいのう」
ぽつりと零れた声。
だが私は、首を横に振る。
「お気持ちは、よく分かります」
「ですが父上は、私以上に顔が知られております」
「どうか、ご理解を」
沈黙。
やがて父は、小さく息を吐いた。
「……そういえば」
話を切り替えるように言う。
「あやつ――晴信は、今度は小笠原に攻め込んだそうじゃな」
「攻められた小笠原は、派手に負けたとか」
「そう……義元殿から聞いたわ……。」
苦い声。
「……悔しいが、」
「軍師も付いた以上、戦では勝ち目はあるまい。」
視線がこちらに向く。
「お主は、どうするつもりじゃ。」
私は、わずかに目を伏せる。
「……戦では、勝てません。」
静かに、そう言い切る。
そして。
手にした槍――正蛇の柄に、指をかける。
「ですので…」
顔を上げる。
「盤面そのものを、見えなくするのです!」
父の眉が、深く寄る。
「……何を申しておる。」
「簡単なことにございます」
一歩、踏み出す。
「正しく、戻すだけです。」
その言葉に。
「――何を言っておるのだ、お主は!」
私にいつも優しかった父の声が、初めて荒れた。
コメント
1件
おお、第四話!読んだ読んだ!今回は義元と雪斎の「お世話金」な裏事情がチラ見えして、あの人たちもただの優しいだけじゃないんだなって思えたのが面白かったわw でも一番は最後の父上の「何を言っておるのだ!」だよ!あの優しい父上をここまで動かす方円の決意、めっちゃ重くてグッときた。正蛇の柄に手をかけるシーン、カッコ良すぎでしょ…!次、どうなるのこれ!?