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【 第一章 静かな日常の終わり 】
昼休みのチャイムが鳴る。
教室のざわめきが一気に広がり、
机を動かす音や笑い声が重なる。
そんな中で、
窓際の席に座る朝霧凪はいつも通りだった。
手に持っていた本のページを静かに閉じる。
窓の外をみると、
春の風が校庭の木を揺らしていた。
「……昼」
小さく呟いて立ち上がる。
机の横にかけていた鞄から弁当を取り出し、
教室の後ろのドアへ向かう。
その途中、
「おい、凪」
低い声が横から聞こえた。
振り向くと、
黒瀬颯が机に肘をつけながらこちらを見ている。
「多分もう先輩行ってるぞ」
「うん」
短く答えると、颯は立ち上がった。
「オレらも行くか」
「うん」
凪が歩き出すと、
颯は当たり前みたいに隣に並ぶ。
教室の何人かがその様子をちらっと見ていた。
「お前さ」
颯が歩きながら言う。
「ほんと本好きだよな」
「うん」
「毎日飽きねーの?」
「颯が毎日同じパンを食べるのと同じ」
「そういうもんかねー」
少し呆れた声。
でもどこか楽しそうだった。
二人はそのまま階段を登り、
屋上の扉を開ける。
ガタン。
春の風が一気に吹き込んできた。
そして、いつもの場所。
フェンスの近くに、
もう一人の姿があった。
「2人ともお疲れ様」
そう言いながら、
振り向いたのは雪村律。
壁に寄りかかりながら、
柔らかく笑う。
「ほら食べよう」
「そっすねー」
「てか先輩、
生徒から人気だろうにいつも早いっすね」
颯が座りながら律に問いかける。
律はくすっと笑った。
「みんな優しいからね」
「昼はすぐに通してもらえるんだ」
「それは不思議っすねー」
そんなやり取りを横で聞きながら、
凪は二人の間に座った。
コンクリートの床に腰を下ろす。
弁当のふたを開けると、
ほんのり湯気が立っていた。
「今日もお母さんのお弁当?」
率が覗き込む。
「うん」
「いいなー。こっちコンビニ」
颯が袋をガサッと開ける。
三人並んで座る。
風が静かに吹いて、
遠くで生徒が遊んでいる声が聞こえる。
凪は空を見上げた。
青い空。
雲がゆっくり流れていく。
その横で律が言う。
「凪、今日は午後の予定ないから」
「帰る準備してて。迎えに行くよ」
「……わかった」
凪が答えると、
颯がパンをかじりながら言った。
「オレも途中まで」
「颯くんは今日バイト?」
「そ。てか、くん付け」
「あぁごめんごめん。普段の出てたみたい」
その会話に、
凪は少しだけ笑った。
ほんの一瞬だけ。
律はそれを見て、
何も言わずに目を細めた。
春の風がまた吹く。
この時間は、
三人にとって当たり前の時間だった。
まだ誰も知らない。
この関係が、
少しずつ変わっていくことを。