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そうして武術大会の一日目が終了した。
日は沈みかけており、空が赤く染まっている。
シルヴィは見事予選通過、リオンも同じく
予選突破を果たした。
二人は予選終了後、宿に戻って休んでいた。
明日以降もこの調子で勝ち進めば本選出場は間違いないだろう。
しかし、本番はここからだ。
本選ではより強い相手が出てくるに違いない。
そして、何よりもガ―レットたちとの決着をつけなくてはならないのだ。
「ねぇ、リオン。ちょっと話があるんだけど…」
「ん?どうした?」
改まった口調で言うシルヴィに首を傾げるリオン。
彼女は真剣な表情をしていた。
「ボク、絶対に勝つから。だから、応援してほしいんだ」
「もちろん、応援するよ」
リオンが即答すると、シルヴィは嬉しそうに微笑んだ。
こんな彼女の表情を見るのは初めてだ。
「ありがとう!リオンくんが見てくれてるなら百人力だよ!」
「そんな大袈裟だよ」
「絶対勝とうね」
「うん」
苦笑しつつ言うリオン。
シルヴィは彼の手を握ると、優しく言った。
リオンも手を握り返す。
最近、シルヴィの言葉遣いがどことなく優しい感じになっているような気がする。
リオンといる時の彼女は、特にそうだ。
恐らくこれが彼女の素なのだろう。
普段とは違う彼女の一面を見ることができて、なんだかくすぐったい気持ちになるのであった。
と、その時…
「リオンさん、シルヴィさん、もう帰ってますか?」
そう言いながら、宿の部屋にアリスが入ってきた。
ロゼッタの見舞いから戻ってきたようだ。
怪我の状態も安定しているという。
まだ外出や運動などは出来ないが、ずいぶんと良くなってはいる。
退院もそう遠くは無いだろう。
「…あれ?お邪魔しましたか?」
何か勘違いしている様子だ。
リオンが弁解しようとするが、アリスに遮られる。
顔を真っ赤にするリオン。
それを見て声をあげて笑うシルヴィ。
「違うよ。僕たちは何も…」
「いいって、隠さなくても」
「はははははッ!」
こうして、武術大会初日が終わったのだった。
武術大会二日目の朝。
昨日の疲れも残っているはずなのだが、不思議と眠気は無い。
やはり、武術大会という特別な状況に高揚感を覚えているからだろうか。
今日も予選が行われる。
そしてその後には本戦だ。
気を引き締めなければ。
身支度を整え、会場へと向かう二人。
会場に着くと、すでに多くの参加者が集まっていた。
皆、緊張しているのかそわそわし始めている。
そんな中、一人の男が近付いてきた。
「よう、お二人さん。調子はどうだい?」
「ガ―レット!?」
それは、なんとガ―レットだった。
リオンは驚いて声を上げるが、シルヴィは冷静だった。
ロゼッタへの仕打ちはアリスを通して聴いている。
しかし、今ここで大きく騒いでも意味が無い。
「ガ―レットだっけ?」
「そうだ。覚えていてくれたか」
「まぁね。それで、わざわざ話しかけてきたということは宣戦布告かい?」
ガ―レットの余裕のある態度に警戒心を強めるシルヴィ。
ガ―レットはシルヴィの問いに対して答えず、不敵な笑みを浮かべるのみだった。
その瞬間、二人の殺気がぶつかり合う。
周りの者はたじろぐばかりで、動けずにいる。
「おっと、悪かったな。俺は今は戦うつもりはない。じゃあ、また会おうぜ」
「ああ、そうだな」
「へへ、本線で戦おうぜ」
そう言ってガ―レットは去って行った。
二人は彼の後ろ姿を眺めていたが、しばらくして視線を戻す。
そしてシルヴィがため息をつく。
彼女にとって、ガ―レットは苦手なタイプだ。
何を考えているのか分からない、少なくとも彼女にとってはそう思われているらしい。
「何を考えているんだ、あの男は…」
「でも、彼が何を考えているにせよ、油断はできない」
「だね。…油断せずに行こう」
「ああ」
ガ―レットは必ず本戦に参加してくる。
その時に、正々堂々と正面から戦い勝つ。
それがリオンの考えだった。
二人が会話をしていると、係員らしき人がやってきた。
「皆さん、準備はよろしいですか? これより予選を行います。呼ばれた方から順に入場してください」
いよいよ始まるようだ。
第一試合、第二試合、第三試合と順序良く進んでいく。
シルヴィの出番はまだまだ先だが、彼女はずっと試合を見続けていた。
そしてついに、シルヴィの出番が来た。
「シルヴィ! 前へ!」
シルヴィは返事をして、舞台へと上がる。
相手は素手、しかし中々の使い手のようだ。
「はじめ!」
試合開始と同時にシルヴィが動く。
一気に距離を詰めると、相手の懐に入り込んだ。
そのまま強烈な蹴りを食らわせる。
相手は吹っ飛び、地面に倒れた。
審判の勝利宣言を受け、シルヴィが舞台から降りる。
するとすぐに、次の試合のアナウンスがあった。
次はリオンの番だ。
「リオン、頑張って」
シルヴィの声援を受け、彼は闘志を燃やしていた。
そして、ついに自分の名前が呼ばれる。
「リオン選手、前へ!!」
リオンは深く深呼吸をし、ゆっくりと歩き出す。
対戦相手は大柄な男。
武器は持っていないが、かなり鍛えられているように見える。
開始の合図とともに、相手が突っ込んできた。
まずは様子を見るか、と考えながらリオンは回避行動を取る。
すると、男は拳を振り下ろしてきた。
それを横に避け、カウンターで殴りかかるリオン。
「つあッ!」
「ぬう!?」
しかし、読まれていたようで避けられてしまう。
その後も攻防が続くが、互いに決定打を与えられていない。
どうやら相手はかなり強いらしい。
このままではジリ貧だ。
ならば、ここは勝負に出るしかないだろう。
リオンは覚悟を決め、構えを取った。
「よしッ…」
男の攻撃を紙一重でかわしつつ、攻撃の機会を窺う。
そして、一瞬の隙を突いてリオンが仕掛けた。
渾身の一撃を相手の腹部に叩き込む。
男は吹き飛ばされ、気絶した。
リオンはそのまま戦い続け、見事に勝利を収めた。
こうして、リオンは本戦出場を決めたのだった。
武術大会二日目が終わり、宿に戻ってきていた。
アリスはロゼッタに試合の報告に行き、今は部屋に二人きりだ。
「ねぇ、リオンくん」
「ん?どうした?」
突然、シルヴィが真剣な口調で話しかけてきた。
何か重要な話があるのだろうか。
リオンも真面目な表情になる。
シルヴィはしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。
彼女の頬が少し赤く染まっているような気がする。
一体どんな話をするつもりなのか。
シルヴィは大きく息を吸って吐くと、意を決したように言った。
その言葉を聞いた瞬間、リオンは思わず固まってしまった。
「武術大会の試合、ボクが勝つよ!」
シルヴィの決意。
初めて出会った時の彼女からは想像できぬほどの自身だ。
予想外の出来事に動揺してしまう。
シルヴィの顔を見ると、とても緊張しているようだった。
そして瞳には不安の色が見える。
こんな顔をさせてはいけない。
彼女を安心させるためにも、リオンは自分の考えを伝えることにした。
「シルヴィ、キミは強くなったよ」
「え?」
「だって、会ったばかりのキミだったら絶対そんなこと言わないじゃないか」
「…そうかな?」
「最初と比べると、言葉遣いもやわらかくなったし…」
そう言うと、シルヴィが目を大きく見開く。
リオンが微笑みかけると、シルヴィは嬉しそうな顔になった。
そして、二人は自然と見つめ合う。
そして二人で笑いあった。
幸せな気分に包まれる二人。
「ははははは!」
「はっはっは!」
「久しぶりにこんなに笑ったよ、シルヴィ」
「なんだか恥ずかしいね、リオン」
照れ笑いを浮かべるシルヴィ。
ロゼッタとの出会いやリオンとの修行。
それらを通して、彼女は随分と強くなった。
しかし、それはリオンも同じ。
ガ―レットに負ける訳には行かない。
しかし、シルヴィにも負ける訳には行かない。
そう思い、決意を新たにするリオンだった…