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「このコード、四度進行……か。しかもリディアンっぽいな」
俺は大森さんの投稿曲をDAWに落とし込みながら、ギターのフレーズをいくつか重ねていた。
ただのコード進行ではなかった。音の重ね方、語尾の処理、微妙なリズムの揺らぎ。
それは、ただ「歌がうまい」では済まされない、何かを持っていた。
「……おもしろ。」
自然と口元が緩む。
ファイルをレンダリングし終えると、すぐにチャットを開いた。
hwk_46:コードに合わせてギター入れてみました。ちょっと遊び心入れてます。
よかったら聴いてみてください。
「……え、速……」
メッセージを開いた僕は、少し驚いたように息をのんだ。
昨夜の返信も思ったより早かったが、まさか今日にはもう音が届くとは思わなかった。
手が震えるのをなだめながら、音源ファイルを再生する。
「……うわ……」
口元から、素直な感嘆が漏れた。
自分の声が、若井さんのギターと共に、新しい世界を描いている。
まるで、元からそこに在ったように、自然に、でも力強く絡んでくる音。
「……すごい。どうやったらこんな音出せるんだろう……」
敬意を込めて、チャットに返信を打つ。
moto_omr:本当に素敵でした。ギターの入り、鳥肌が立ちました。
差し支えなければ、録音環境などお聞きしてもいいですか?
「……なにこの丁寧さ。こっちが緊張してくる」
俺はは小さく笑って、返信を打ち込む。
hwk_46:宅録ですけど、防音ブースでマイキングしています。
アンプはKemperで、ピックアップはEMGです。
そちらのマイクもすごく綺麗に抜けてました。何を使ってるんですか?
そのあとも、チャットは続いた。
moto_omr:マイクはNeumannのTLM102です。宅録ですが、カーテンと毛布で簡易の吸音しています。
hwk_46:なるほど、音の質感からしてもっと大きなスタジオかと思ってました。
やっぱり、歌が芯から強いんですね。
moto_omr:恐縮です。でも…嬉しいです。
あなたのギターも、とても感情を感じます。
弾いてるとき、何を考えているんですか?
少しの間があって──
hwk_46:言葉にできなかった気持ちとか、噛み砕けなかった後悔とか……そういうものを、音にしています。
その一文を見て、僕の心にひそかにあった“何か”が、ふっとほどけた。
moto_omr:……分かる気がします。
僕も、歌うとき、伝えられなかったものを抱えたままです。
それを、言葉じゃなくて音で置いていけたらと思っています。
hwk_46:似てるかもですね、俺たち。
“俺たち”──。その言葉に、なんとなく頬が熱くなるのを大森は誤魔化すように、少し冗談めかして返した。
moto_omr:……初めて会ったのに、そう言ってもらえるのは嬉しいです。
でも、まだ「さん」付けしないとですね(笑)
hwk_46:あはは、そうですね。じゃあ、次の音源でもっと仲良くなりましょう。
まだ名前も本名も知らないまま。
それでも──音が、互いを確かに結びはじめていた。