テラーノベル
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「じゃあ、行ってくるわね。後は任せたわよ」
夏休みが終わり、私はレストランとホテルの経営を執事のフレッドに託し、魔法学院へ戻ることを決めた。
一緒に戻るのはアレク、レオン、そしてフローラだ。
「頼りにしているわ。何かあれば遠慮なく手紙で連絡して」
私が告げると、レオンがスマートな所作でポケットから封蝋を取り出し、フレッドに差し出した。
「これ、王族専用の封蝋だから。緊急時はこれを使って。最優先で届くように手配してあるよ」
「レオン様……! お嬢様のためにそこまで……。ありがたく頂戴いたしますぞ!」
フレッドが深々と頭を下げる。
その横で──
アレクとフローラが、鋭い眼光でレオンを睨みつけている。
(ちょっと! 出発前から不穏な火花を散らさないで!)
私は早くも頭を抱え、深いため息をついた。
***
馬車の前でも、お約束のようにひと悶着あった。話題はズバリ、「誰が私の隣に座るか」である。
「バイオレッタは俺の婚約者だ。当然同じ馬車に乗る」
「お姉様は私と一緒です!二人でいっぱいお話しましょうね!」
「バイオレッタ。王族用の馬車には防御魔法が施してある。僕の隣が一番安全だよ?」
三人同時に、一歩も引かずに主張をぶつけ合う。
(……はあ。もう勘弁して……)
私は限界だった。エルベルト公爵家との交渉、内装工事と記者会見の準備、そしてフレッドへの引継ぎ資料の作成――。ここ数日、まともに寝ていない。
私はこめかみを押さえた。
「私は自分の馬車で寝るわ」
「は?」
三人同時に固まった。
その直後。
「それは却下だね」
レオンが穏やかに言った。
「何を仕掛けられてもおかしくない状況で、単独行動は危険だよ」
にこやかなまま、逃げ道を塞ぐ声だった。
「全員、僕の馬車に乗ろう」
(……こういう時だけ、王子なのよね)
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