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結局、私たちは同じ馬車に乗ることになった。無駄に広い特等席のはずなのに、なぜか私の両隣のソーシャルディスタンスはゼロである。
「お姉様、私、ここでいいですか?(きゅるん)」
右隣にぴたりとくっついて上目遣いをしてくるフローラ。
「……ええ、もちろんよ」
そして私の左隣には、さも当然の権利のようにレオンが滑り込んできた。
(ちょっと、近すぎじゃない? まあ、レオンだし距離感バグってるのは今に始まったことじゃないけど……)
フローラとレオンに挟まれ、完全にサンドイッチ状態だ。
そんな私を、真向かいの席からアレクが、じぃぃぃっと見つめている。
(そんなに執念深い目で見ないで! 落ち着かないじゃないのよ!)
馬車が動き出す。砂利道に入ったのか、車体が大きく揺れた。
「きゃっ」
フローラが私の右腕にぎゅっとしがみつく。
「お姉様、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ、このくらい──」
その瞬間――ガタンッ!! と、さらに激しい衝撃が馬車を襲った。
バランスを崩し、座席から滑り落ちそうになる私の体。
「っ――」
咄嗟に、レオンの腕が伸びてきた。私の左肩を、引き寄せるように支える。
「危ないよ、バイオレッタ」
耳元で、低音ボイスで囁かれる。
(……ゲームのヒロインイベントをこんな時に発生させないで!というか何度も言うけど、あんたの相手はフローラでしょ!吐息がかかったわよ、もう!)
すると、すかさずフローラが私の右腕をグイッと引き寄せる。
「お姉様は私がお守りしますっ!」
「ちょ、ちょっとフローラ!?」
「バイオレッタ、危ないから僕の方へおいで?」
右腕をフローラに抱きしめられ、左肩をレオンに引き寄せられ、私は完全に二人に密着されてしまった。
(なんなのよ、この状況は!? 私はただ……10分でいいから気絶するように寝たいだけなのに!)
――その時。
「……おい。いい加減、その手を離せ」
向かいの席で、アレクがドス黒いオーラを放ちながら二人を睨みつけていた。だが、レオンは全く動じず、肩をすくめた。
「揺れたから、紳士として彼女を支えただけだよ?」
余裕に満ちた笑みだった。
「それとも――僕に嫉妬でもしているの?」
馬車の中の空気が、一瞬で凍りついた。アレクの背後に、今にも馬車ごと全てを焼き尽くしそうな黒いオーラが見える。
(やめて)
(本当にやめて)
(走行中の馬車を物理破壊したら全員大怪我するわよ!!)
私はただ窓の外の景色を遠い目で見つめるしかなかった。
三人の視線が交錯する。逃げ場のない密室の中で、激しい火花が散った。