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「あぁ~~、もう無理ッ!いい加減限界なんだけど!」久しぶりに親友である傑との任務が終わり、高専へと戻っている時だった。
今日まで抑え込んでいたが、とうとうそれがフツフツと沸き上がってきて我慢の限界に達してしまい、ついに声を荒げてしまった。「ちょっと、悟。危ないから車内で暴れるなよ。うっかり伊地知がハンドル操作を誤って対向車線にはみ出して衝突事故を起こしてしまうかもしれないだろう」
「(ひぃぃぃッ!もうほんとやだこわいッ!)」そう傑に嗜められたが、うっかり伊地知がハンドル操作を誤り、対向車線へとはみ出して衝突事故を起こしてしまったって、寸前で術式を使ってしまえば僕は怪我なんてしないからどうでもいい。
そんな事より今は僕の奥さんが三週間程前から京都にある高専に行っている事についてだ。
何でも、補助監督の一人が色々あり辞めてしまい、また一人は妊婦さんでギリギリまで補助監督の仕事をしていたのだが、もうお腹も大きくなってきてしまった為、育休を取る事になった。
そのため、元々人手不足だったのがもっと人手不足になってしまい、東京校にせめて一人だけでも、新人研修の間だけでもと要請が来たのだが、臨時補助として京都校に出張に行くことになったのは何故か僕の奥さんだった。
京都校に出張が決まった事を、彼女から報告された僕はそれはもう滅茶苦茶反対したし、奥さんには絶対行かないでと良い大人がみっともないが駄々をこねた。
だって意味が分からない。他にも補助監督は居るじゃん。なのになんで僕の奥さんが京都校に行かなきゃいけないんだよ。今すぐ他の補助監督と変えてくれ。と、夜蛾学長に文句を言いに行った。勿論却下された。
もしかしてというかもしかしなくてもあのお爺ちゃんからの嫌がらせか?交流会の時とか煽りに煽ったからな。
あぁ、思い出すだけで虫唾が走る。「はぁ…………。悟、貧乏ゆすりをやめてくれ。車体まで揺れる」
「はぁぁ?動いてんだから揺れるの当たり前じゃん。僕の貧乏ゆすりのせいじゃないし」
「…………、京都校には新人研修の間だけだろう?なにも向こうに異動になった訳じゃないんだから落ち着きなよ」
「異動するってなったら僕は向こうを更地にするよ」低い声で呟けば、運転席からは小さな悲鳴が、僕の隣からは呆れたようなため息がこぼれたのが聞こえてきたがそれを無視した。
当たり前だろ。異動させるなんて事になったら僕はマジで暴れて向こうを更地にする。冗談なんかじゃなく本気で。
誰が好き好んで大事な奥さんをいけ好かないジジイが居る京都校に異動させるかよ。「彼女も数日後には帰ってくるんだろう?」
「帰ってくるけど、三週間も会えてないんだよ!?触れてないんだよ!?手作りのご飯も食べられてないんだよ!?抱き締められてないしキスも出来てないっ!もう無理ッ!奥さん不足過ぎて暴れそう!」早く帰ってきて!と一息に叫ぶと、傑が先週も同じことを言っていただろうとツッコみを入れてくる。
確かに先週もその前の週も同じこと言ったよ。数日でも離れると奥さん不足になってしまうんだから仕方なくない?
でもまだ数日なら我慢できる。けど、今回みたいに約一ヶ月も離れ離れになると、無理。
上の連中の相手をしながらそれなりの数の任務をこなさなければならない。
そして教師として生徒達を指導するという役目もあるのだ。
ハードスケジュールの中でストレスが溜まらない訳がない。
特に上の連中の相手をするなど滅茶苦茶溜まる。何なら顔を見ただけでオエッっと吐きそうになる。思い出すだけでも吐きそうだわ。癒しが欲しい、今すぐに。「…………、そうだ、僕が今から京都に行けば良くない?それでジジイに話付けてさっさとこっちに連れ帰れば良いんじゃ?」名案じゃね?と考えていれば傑から無理じゃないかなと言われた。「楽巌寺学長がすんなりと頷くと思うか?しっかり期限まで残されると思うよ。これは可能性の話だけど、滞在期間が延ばされたり、彼女は補助監督として優秀だから異動してこないかなんて勧誘されてるかもしれないね」
「ねえッ!なんで不安になるような事をわざわざ口に出すわけ?新手の苛め?それとも遠回しに喧嘩売ってる?」
「喧嘩なんて売ってないよ。君が騒いでいると向こうが余計煽ってくるだろうから、静かに大人しく彼女の帰りを待っていろって言ってるんだよ」
「はあ?これ以上ないくらいっ」文句を言おうとした瞬間、僕の奥さんが好きだと言ってた歌手のサビ部分が車内に流れた。
短い音楽だからメッセージだ。
一瞬動きも止まっていたが、奥さんからのメッセージだと分かるとすぐさまポケットから携帯を取り出してメッセージを確認する。
すると、嬉しい事に奥さんが予定より早いが明日の夜には東京に帰ってくる事になったというのだ。「傑ッ!明日の夜には帰って来れるって!あぁ~~、長かった。次から絶対長期出張なんて入れさせないようにする。絶対に」
「はいはい、良かったね。嬉しいのは分かったから私の太ももをバシバシ叩かないでくれないかな。倍にしてやり返すよ?」若干親友の対応が雑というか投げやりだが今の僕は少しも気にしない。
なんて言ったって、やっと奥さんが帰ってくるからね。さっきまでのイラつきとかもどっかに吹っ飛んでいった。早く明日になってくれないかな。「伊地知、明日は絶対夕方以降任務入れんなよ。入れたらマジビンタだからな」半ば脅すように夕方以降に任務を入れるなと言えば、伊地知はひぃぃと悲鳴を上げて何度も首を縦に振った。言質取ったからな。絶対に入れるなよ。
隣で僕と伊地知のやり取りを聞いていた傑が何度目かのため息をこぼした。
待ちに待った奥さんが京都から帰ってくる。
僕は久しぶりに夕方という時間帯にマンションに帰宅出来た。勿論夕食の材料を買ってから。
約一ヶ月の出張だったけど、僕的にはもっと長かった。それくらい、彼女が傍に居ない事に寂しく感じた。
僕が長期出張の時、彼女はこんな気持ちだったのかな。いくらメッセージのやり取りをしてても、合間を見つけて電話をしてても、やっぱり直接顔を見れないし、抱き締められない。
今度から長期出張が入れられそうになったら傑に回そう。
そんな事を考えながら、彼女が帰宅するまでに浴槽にお湯を溜めたり、掃除機をかける。
それらが終われば、今度は夕飯を作る為にエプロンを着てキッチンに立つ。
彼女は僕が作るものは何でも好きだが、中でもオムライスが大好きだと言ってくれたから、今日は大好きだと言ってくれたオムライスを作ろう。ウインナーやじゃがいも、人参、カリフラワーを買ってきたからそれらでポトフを作る。
冷蔵庫から材料を取り出し、じゃがいもと人参を袋からざるに出し、付いている土を流水で洗い流す。
綺麗に土を荒い落とせたらピーラーで皮を剥いていく。
皮を剥き終えたら包丁とまな板を出して、じゃがいもと人参を大体一口大の大きさに切って、そのあとにウインナーを斜めに二等分に切って深めの鍋に味付けされているスープを入れて、切ったそれらと冷凍のカリフラワーも鍋に入れていく。
火を点けて野菜が柔らかくなるまで蓋をして置く。
その間にオムライスに取り掛かる。
ボウルに二人分のご飯を取り、ピーマンと玉ねぎ人参をみじん切りにしてまとめてもう一つのボウルに移しておく。
次は鶏もも肉。鶏もも肉は一センチ程の角に切り、塩こりょうをふり、酒で漬け込んでおく。
使った包丁とまな板を綺麗に洗い、水切りラックに置く。その後、フライパンを出してサラダ油をひき、中火で野菜から炒めていく。野菜に火が通ったら鶏肉も加え炒めていく。
具材が炒められてきたらご飯を加え馴染ませる。
馴染んできたらフライパンの中でご飯をドーナツ状によけ、真ん中にケチャップを入れて軽く炒め、ケチャップがふつふつとしてきた所で全体を混ぜ合わせ、味を確認しつつ塩こしょうで味を整え、皿に盛り付ければチキンライスの完成。
次のを作る前にその隣のコンロで作っていたポトフを確認してみる。すると野菜が良い感じに柔らかくなっていたから火を消して蓋をしておく。
続いてチキンライスの上に乗せるオムレツを作る。
卵三つをボウルに割って牛乳を大さじ三入れて切るように混ぜる。
先程使ったフライパンを洗い、水気を飛ばしてしっかり加熱し、バターを入れて溶かす。火加減は弱火から中火程度。
そうしたら卵液を一気に流し入れ、箸でかき混ぜ、半熟に固まり始めたら、火からおろす。
フライパンの奥側に向かって卵を包んでいき、卵を奥側にスライドし、奥側の卵を手前に反し、奥からも包み込む。奥側からヘラを入れて、思い切って裏返し、卵と卵の繋ぎ目を下にして少し火を通す。
様子を見て、良さそうだったから火を消してオムレツを先程のチキンライスの上にそっと乗せれば、彼女が大好きだと言ってくれたふわふわオムライスの出来上がり。後は食べる時にオムレツの真ん中に切れ目を入れて左右に開けば中からトロトロな半熟卵が出てくる。
「さっすが僕!めちゃくちゃ美味しそうじゃん!」
出来上がったオムライスとポトフを皿に盛り付け、リビングのテーブルに並べる。
食器棚から二人分のグラスと、冷蔵庫から冷えているお茶を出してそれもテーブルに。
準備が整い、後は彼女が帰宅するのを待つだけだなと壁にかけてある時計を見ていると、玄関先から人の気配を感じて玄関へ視線を向ける。あぁ、彼女の気配だ。
そのすぐ後に、鍵を開ける音が聞こえてきて、足早に玄関の方へと向かう。
「おかえり」
「ただいま」
ようやく僕の愛しい奥さんが帰宅してきた。
おかえりと出迎えると、彼女はヘタクソに笑ってただいまと言ってきた。
無理やり笑って見せるそんな彼女に、思わず眉をひそめる。疲れて帰ってくるだろうと予想はしていたが、僕が思っていた以上に彼女の表情には疲れが色濃く浮かんでいた。
それはそうか。向こうはこっちよりも人手が不足していて彼女が呼ばれたんだから、こっちでやっていた仕事量よりも多かったはずだ。
一つため息を吐き、彼女が手にしてるキャリーバッグを玄関の隅にひとまず置いておく。彼女に靴を脱いでもらい、廊下に上がった瞬間、彼女を腕の中に閉じ込めてぎゅっと抱き締める。
「お疲れ様、よく頑張ったねぇ。向こう、人手がこっちより足りなさ過ぎて大変だったでしょ」
お爺ちゃんとかに嫌がらせされなかった?怪我とかしてない?ちゃんと休みはあった?ご飯は食べてた?腕の中に居る彼女を覗き込んで問いかけながら、髪を梳くように撫でて横髪を耳にかけ、頬に口付けたり、前髪をそっと上に上げて額にも口付ける。
それだけじゃ足りなくて他の場所にも唇を落としていくと、それがくすぐったかったらしく、腕の中の彼女がくすくすと笑いながら身じろぐ。
「ん、大変だったけど、怪我もないし、嫌がらせもなかったしご飯も食べてたよ」
休みは、まぁ、他の人達も中々丸一日は難しくて。と、少し困ったようにそう口にする彼女。こっちでも似たようなもんだからなぁ。でもちょっと隈が出来てる。こっちの時より休みは少なかったんだろうな。彼女の頬を右手で包み、親指で目元をそっと撫でる。
「ふふっ、さとる、くすぐったいよ」
「こら、逃げないで我慢して。一ヶ月も離れてたんだよ?まだ堪能させて」
「でも私お腹空いちゃった」
そう言った彼女は片手を自身のお腹に当ててお腹空いたアピールをしてくる。
確かに僕もお腹が空いてきたし、折角作った料理が冷めてしまう。でも一ヶ月も離れてたからまだ彼女を堪能したい。
「ん~、じゃぁ一回キスさせて?」
お願い、と眉を下げ首を傾げてみせると、気恥ずかしそうにこくりと頷いてくれた。彼女は僕のこの仕草にはどうも弱いらしい。可愛いなぁと思いながらお許しが出たから彼女の小さな唇に自身の唇を重ねる。
久しぶりの柔らかい感触にじんわりと体温が上がってきたのを感じる。一度離して、また重ねる。柔い唇を甘く食んで舐める。すると彼女が少しだけ唇を開いたからすかさず舌を入れて、歯列をなぞり、上顎をくすぐり、彼女のそれを絡めとる。
「ふっ、んぅ」
甘噛みしたり、吸い付いてみたり、スリスリと舌と舌を擦り合わせ、彼女の口内を一通り堪能して最後にちゅ、と音を立てて唇を離した。
深いキスをしたから頬が赤く染まり、少し目尻に涙が溜まっていて、息も乱れてる。そんな表情に、ごくりと喉が鳴ってこの場で押し倒したい、ドロドロに甘やかしたい衝動に駆られるが、それはご飯やらを終えた後に気が済むまで出来るんだからと、なんとか押しとどめる。
「夕飯、出来てるから手、洗っておいで」
「うん」
いそいそと洗面所に手を洗いに行く彼女の背を見送り、先にリビングに戻る。
数分してパタパタとスリッパの音が近づいてくるのが分かった。リビングの扉の方に視線を向けると、手洗いを済ませた彼女が戻ってきては、テーブルに並んでるオムライスを見て嬉しそうに頬を緩ませた。
「わぁ、オムライスだ!」
「お前が好きだって言ってたふわふわオムライスだよ」
「ほんと!?やった!私、悟が作ってくれるオムライス大好き!」
可愛らしくにこにこしている彼女は嬉しいと零しながらいつもの定位置である僕の向かい側の席に着いた。
そんな彼女の様子を、可愛いなぁ、大好きだと言ってくれたオムライスを作って良かったと思いながら頬杖を付き見つめていると、彼女が首を傾げて僕の名前を呼んだ。
「どうしたの?食べないの?」
「いやぁ、嬉しそうにニコニコ頬を緩めちゃって、僕の奥さんは可愛いなぁって」
思っていた事を正直に言うと、少しだけ照れた表情を浮かべた彼女はそれを誤魔化すように早く食べようと言って、手を合わせていただきますと先に食べ始めてしまった。
そんな彼女を可愛いなと思いながら、僕も彼女のようにいただきますと手を合わせ、スプーンを手に自分で作ったオムライスを食べ始めた。
オムライスを食べ始めてから彼女に出張中、どうだった?と話を振ると、向こうで誰の補助についたよとか、任務で行った所に僕の好きそうなお菓子が売ってあるお店を見つけた、仕事が終わった後に少しだけ歌姫に誘われてお酒を飲んだ事などの話を聞いたり、逆に彼女の居ない間の僕の話を聞いてもらっていた。けれどその途中でふと、ある事を思い出して、あぁそうそう!と彼女に笑いかけながら言葉を続ける。
「今日は一緒にお風呂入ろうね~!」
僕がそう言うと、彼女はパチパチと数回瞬きをして、え、一緒に入るの?と聞き返してきた。
一緒に入るに決まってるじゃん。疲れてるお前の髪を洗ってあげたり、身体を洗ってあげたりと甘やかす為でもあるし、僕自身も彼女に甘えたいから。
「勿論一緒に入るよ。だって、一ヶ月も離れてたんだよ?寂しかったのもあるし、お前が疲れてるだろうから僕がマッサージしてあげようと思って!」
だから一緒に入ろうねと彼女をじっと見つめれば、僕が引かないのを悟って分かったよと困ったような仕方ないなぁというような表情で了承してくれた。
いやぁ、ホント僕に対して甘いなぁ。可愛い。お風呂でいっぱい甘えて堪能しよ。勿論彼女をお世話して甘やかしてからだけど。
久しぶりにお風呂でいちゃいちゃ出来るなぁと思うと、気分が上がる。
楽しみだなと思いながら残りのオムライスを完食するべく、食べ進めていき、あっという間に食べ終える。
食べ終えた自分の食器と彼女の食器を重ねてキッチンに持っていく。食器の汚れを一度流水である程度落としながらテーブルを拭いている彼女に声をかける。
「拭き終わったらお風呂に入る準備しておいで。あ、僕のも準備忘れないでね!それから、浴槽にお湯を溜めてお前が買い置きしてた入浴剤入れてあるよ」
「え?でも、洗い物」
「僕が洗うから良いよ。数も少ないし、すぐ終わるから。ほら、僕のと自分の着替え準備してきて」
「ありがとう。じゃあ、準備してくるね」
着替えを準備しに行った彼女を見送り、少ない食器を洗って水切りラックへと並べ終えると、もう今日は使わないだろうから水回りを綺麗に片付ける。
それが終わればキッチンの明かりを常夜灯にして浴室に向かう。脱衣所に入ると、彼女が収納棚からバスタオルを二人分出してくれていた。
着替えを用意してくれたことにお礼を言えば、どういたしましてと言って笑った。
「よし、さっそく入ろうか!」
「うん、入ってゆっくり湯船に浸かりたいねぇ」
「そうだね~。あ!まって!服、僕が脱がしていい!?」
「えぇ?どうしたの唐突に」
「特に理由は無いけど、脱がせたくなって。ねぇ、ダメ?」
彼女の目を見つめてダメ押しと言うようにお願いと言えば渋ることなくすんなりと良いよと了承がもらえたから、嬉々としてシャツのボタンに手をかけ、上から順に着ている服を脱がしていく。
久しぶりに見る彼女の下着姿や触れた素肌にどうしようもないくらい性的欲求がまた湧いてくる。が、今はなんとか我慢する。でも久々な訳で、少し視線の下にある白くてまろい膨らみに誘惑されて、ちょっとだけ感触を堪能した。そしたら、もうッ!いたずらしないでと手をぺしんと叩かれてしまった。
そうしてなんとか欲を我慢して彼女の服を脱がせたあと、僕もシャツやらズボンをさっさと脱ぎ捨て、浴室の扉を開ける。すると、ふわりと柑橘系の香りが鼻をかすめた。傍にいる彼女がスンスンと香りを嗅いであっという表情を僕に向けてきた。
「この香り、柚子の入浴剤入れてくれたの?」
「そうだよ、ラベンダーかカモミール、玉露の香りと数種類あって迷ったけど、今日は柚子が良いんじゃないかなって思って」
「ありがとう!」
柚子はリラックス効果や安眠効果、精神的ストレスの緩和、肌の保湿効果があるらしいし、お疲れ気味な今の彼女にピッタリだなと思ったからそれを選んで浴槽に入れたのだ。
浴室に入ると、彼女には僕に背を向けるように椅子に座ってもらい、その彼女の後ろに僕は椅子に座る。
座ると先ずは櫛を手に取って彼女の髪を一通りブラッシングする。彼女の髪は長いから洗っている時に引っかかってしまうから先にブラッシングをしておかないと。
髪を一房掬い、引っかかりを確認しながら少しずつ梳いていき、それが終わると彼女に声をかける。
「はーい、頭にお湯かけるからね。目はちゃんと閉じててねぇ」
彼女の髪を洗うため、シャワーヘッドを手に、お湯をかける事を伝える。すると彼女は間延びした返事を返してきた。
空いている手で上を向かせ、顔になるべくお湯がかからないように気を付けつつ頭にお湯をかける。
頭全体を濡らした後、シャワーヘッドを置き、シャンプーを手の平に適量出して泡立ててから彼女の頭をわしゃわしゃと力を入れすぎないよう、指の腹で前髪の生え際や耳の後ろなどを洗いながら頭皮のマッサージもしてやる。
「お客様~、痒いところはございませんかぁ~?」
「ないです~。マッサージが気持ちよくて寝ちゃいそうです」
ふざけて美容師のマネをすると、寝ちゃいそうなんて言われた。うん、そう言ってもらえて嬉しいけど、寝ないでよ?まだまだいちゃいちゃしたいから。なんて零せば、彼女が少し肩を揺らして笑った。
「帰ってきてからいちゃいちゃしてるのに」
「一ヶ月も離れてたんだから全然足りないよ。足りないから寝るまでずっといちゃいちゃする!」
「寝るまで?」
「そ、寝るまでずっと」
僕の気が済むまで疲れてる彼女の世話を焼きながら離れてた分、沢山触れて甘える。
何度も言うけど、一ヶ月だよ?一ヶ月も奥さんである彼女に触れてなかったし、手料理も食べられなかったんだから。マジで今回長期出張を僕の奥さんに決めた奴許さないからな。と内心恨み言を零す。
彼女と会話をしながらシャンプーやコンディショナー、トリートメントを順番にしていき、頭を綺麗に洗い流していく。頭を洗い終わった後は長い髪をヘアゴムでお団子に結び、次は身体を洗おうとボディ用のスポンジを手に取ってボディソープを泡立てて彼女の身体を洗い始める。と言っても、背中しかやらせてくれないから背中だけなんだけどね。
背中を洗ってあげたあと、スポンジを彼女に渡し、彼女が自分で前を洗っている間に僕は自分の頭を洗う。
僕が頭を洗い、泡を綺麗に洗い流している間に彼女は身体を洗い洗顔まで済ませ、入浴剤で色づいた浴槽にゆっくりと入って肩まで浸かった。
気持ちよさそうに深く息を吐く彼女を横目に、素早く身体を洗い流し、同じように洗顔を済ませ、シャワーを止めて僕も浴槽に入る。
体格のでかい僕も浴槽に入って来たからお湯が勢いよく溢れ出してしまって、向かい合ってる彼女が笑った。
「悟も入ると凄い勢いでお湯が溢れちゃうね」
「まぁ、大人が二人も浴槽に入ればねぇ~。それよりも、ほら。こっち来てよ」
向かい合ってる彼女に僕の目の前というか、足の間に来るようにと腕を広げてみせる。
そうすると彼女がスイスイと近づいて来ては身体の向きを変えて僕の足の間に収まり、胸に背を預けてきた。
安心しきって身を委ねてくる僕よりも断然細くて小さくて柔く華奢な身体を腕の中に仕舞い込む。
目に入った彼女の細い腕をとり、指先から手のひら、手首、二の腕にかけてを力加減に気を付けつつ、マッサージをしていく。両腕が終われば、届く範囲で脚もやっていく。
足の間にいる彼女の顔を覗き込むと、僕にされるがままな彼女は、気持ち良さそうに目を細めていた。
「気持ちいい~、疲れが飛んでいく~。さとる、マッサージも夕飯もありがとう」
「気持ちいい?それは良かった。普段、おまえに任せっきりにしてるからね、今日みたいな時くらいしかおまえを満足にお世話出来ないから」
あ、後は散々抱きつぶした時もだったね?なんて薄いお腹をツッーと指先で撫でると、バジャっとお湯が跳ねて彼女の肩も跳ねた。
「ひゃッ!?こらっ!いきなりそんな触り方しないの!」
「あはは、ごめんごめん。じゃぁ、触っても良い?」
耳元にくちびるを近づけて吐息まじりに問いかければ、少しだけ僕の方に振り返った彼女の頬や耳が赤く染まった。露わになっている項にまとめきれなかった短い髪がはりつき、小さな雫が滴り落ちた。
「…………、ちょっとだけなら」
どこか期待を滲ませた潤んだ瞳で僕を見上げてくる彼女にゾクゾクとして思わず舌なめずり。
はぁぁ、ほんと、一ヶ月もお預けくらってたから彼女のちょっとした仕草がこんなにもクるとはなぁ。
長期出張の疲れが溜まってるだろうから今日は少しだけこうして引っ付いていられればと思ってたんだけど。
「あんま煽んないでよ、加減出来なくなる」
疲れもあるし、のぼせる可能性もあるからあまり長くはイチャつけないな。まぁ明日は僕も彼女も休みにしたから、明日思う存分出来る。
お楽しみは明日。なんて思いながら少しだけ彼女との触れ合いを楽しむ事にした。
彼女との触れ合いを楽しんだ後、そろそろのぼせるといけないから上がろうかと提案すると、彼女が頷いた。
先に風呂から上がった僕は、適当に髪と体をタオルで拭いた後、下着だけを先に身に着け、もう一枚のバスタオルを広げてスタンバイ。まだ浴槽に浸かっている彼女の名前を呼んで上がっておいでと声をかける。
上がってきた彼女を広げていたバスタオルで頭から包んでやる。
結んでいた髪紐を解いて髪を拭き、肩に羽織らせると自分で身体を拭き始めた。
その間に僕はTシャツとズボンを着て、彼女が服を身に着け、スキンケア、歯磨きまで終えるのを、自身の歯磨きを終えて、ぼんやりと後ろから眺める。
彼女を後ろから眺めて数分、歯磨きまで終えた彼女が終わったよと僕の方へ振り返った。そんな彼女の手を引いて脱衣所からドライヤーを持ってリビングに足を進める。
「はい、ここ座って」
リビングに入ると、ソファ近くにある配線用差込接続器にドライヤーの電源プラグを差し込むと、ソファまで彼女の手を引き、先にソファに腰かける。腰かけた僕の足の間に腰を下ろすようにとソファをぽんぽんと叩くと、言われるままちょこんと僕の足の間に座った。
ドライヤーのスイッチを入れて、まだ濡れている彼女の髪を乾かすため、頭に温風を当てる。
「熱くない?大丈夫?」
「大丈夫だよ」
「熱いと思ったり、髪引っ張られて痛いとかあったらちゃんと教えてね」
「うん」
彼女が熱がらないように距離を気を付けつつ、髪を乾かしていく。長い髪が絡まったりしないように、櫛を使って丁寧に梳きながら、毛先までしっかりと。
乾かしている途中、彼女の頭が前後に揺れたのに気付いて、そっと顔を見ようと覗き込むと、少しうつらうつらしているのが目に入った。
人に髪を乾かしてもらうと眠くなるよね。僕も彼女に髪を乾かしてもらっている時は彼女の僕の頭を撫でる手つきが気持ちよくて眠くなるもん。分かる。
というか何とか寝ないように頑張って目をパチパチしてるの可愛いな。仕事中の彼女の表情と違って少し幼くなるのがまたギャップがあってキュンとする。
そんな彼女の姿に頬を緩めつつ、髪を乾かし続けること約五分程経った。
彼女の髪を乾かし終えて、ドライヤーのスイッチを切って顔を覗き込めば、眠気に耐えられなかったらしい。瞳は閉じられて、可愛らしい寝顔がそこにはあった。
彼女を起こさないよう、腕を伸ばして電源プラグを抜いてドライヤーをソファの隅に放置して、そっと彼女を横抱きにして立ち上がる。
揺れを最小限に、寝室に移動して、ゆっくりと彼女をベッドへと下ろした。
ベッドに横になっている彼女の隣に自分も横になり、彼女と自分に布団をかける。
すうすうと寝入っている彼女の寝顔を眺め、ほんとはもうちょっと話をしたり触れ合ったりしたかったけどなぁ。仕方ないか。疲れていちゃいちゃするのは難しいかもなと予想して明日の休みをもぎ取ってて正解だったな。
目にかかっている髪をさらりと横に流す。ついでというように頬に手を添えると、彼女がその手に擦り寄ってきて、嬉しくなる。
「おやすみ」
小さく呟き、彼女のやわい唇に静かに自分のを重ねる。
明日は愛しい彼女とずっと一緒に穏やかな時間を過ごせるようにと願い、彼女を腕に抱いて眠りについた。