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樹海の少し開けた所。そこの中央にはキャンプファイアが焚かれており、その周りを大小さまざまなテントが囲っている。そのキャンプファイアとテントの間にはムツキと妖精たちが楽しそうに宴会をしていた。
「にゃー」
「わふ」
「があっ」
「主様、これ以上は増やせるのか?」
「いや、3が限界だな」
今、ムツキは猫と犬とクマを一匹ずつ選んで、彼らでお手玉をしていた。3匹ともまるで空を飛んでいるような気分になり、楽しそうにはしゃいでいる。
きっかけは妖精の子どもが見せた応援チアダンスだった。ネコさんチームの応援団で鍛えられた数匹の猫が綺麗なダンスを披露して好評を得たことから、宴会芸、かくし芸大会のような雰囲気に流れていった。
「ご主人、お疲れ様ニャ! 次はオイラがするニャ!」
妖精お手玉を終えたムツキを見て、ケットが尻尾を振り回しながら立候補する。ケットは十八番があるのか、いつになく自信ありげな顔をしていた。
「お、ケットは何をするんだ?」
ムツキは小鹿を膝の上に抱えて撫でながら、ケットのしようとしていることに興味津々である。
「見てからのお楽しみニャ! アル、そこの割っていない薪をオイラに投げてほしいニャ!」
「これでいいですかね。いきますよ!」
ケットが立ち上がって、珍しく両前足から爪を出す。爪どうしを擦ると鋭利なナイフがぶつかり合うような音が鳴る。
アルが少し太めの薪をケットに向かって軽く放り投げた。ケットは両前足を自分の胸の前でクロスさせながら向かってくる薪とすれ違う。
「秘技! 瞬間木の皮剥ぎ!」
クロスになっていたはずのケットの両前足はいつの間にか、両方とも振り下ろされていた。薪は空中で、綺麗に繋がった木の皮と円筒の木材の2つに分解する。それを猫の妖精が拾って、ムツキの前に持ってきた。
「ありがとう。おー、木の皮が一瞬で綺麗にはがされて、木が綺麗に剥かれている! ……これ、桂剥きだ。名称が桂剥きじゃないのか。まあ、いいか。みんなもこれ見てごらん。すごいから」
ムツキが分解された木をほかの妖精たちで回覧するように促す。あまりにも綺麗に桂剥きされた木材は薪にするのがもったいないくらいである。
「ニャはは! どんなもんニャ! 次、クーがするニャ!」
「え、俺? ないぞ? パス、アル」
クーはキャンプファイアの近くで寝ており、宴会芸に興味がないようで、動くこともなかった。アルはガクッと肩を落とす。
「いやいや、大きくなるくらいすればいいじゃないですか、まったく。さて、では、ケット、そこの果物を3つ同時に投げてください」
「よーし、いくニャ!」
アルはケットに近くの果物を投げるようにお願いをした。ケットはその中でもリンゴのような果物を3つ持って、少し意地悪気味に低い軌道で放り投げる。
「なんの! はっ! はっ! はっ!」
アルは目を光らせて、果物3つに向かって、ケット以上の高速な身体捌き、足捌きを見せる。その後、アルの自慢のツノには果物が綺麗に突き刺さっていた。
「お、ツノに見事に中心で3つとも刺さっている。なんて素早い動きなんだ! しかし、なんだか、キャンプの焼きリンゴの串に見えるぞ……」
ムツキは串に刺さった果物を見て、前の世界で見た焼きリンゴ串を思い出したようだ。
その後も全員が大いにはしゃぎ、大いには笑った。特に子どもたちは合格して大人の仲間入りをいたことがよほどうれしいのか、はしゃぎにはしゃいでいた。
「にゃー!」
「わん!」
突如、猫や犬の妖精たちがムツキの方へと駆け寄る。ムツキは少し嬉しそうに顔を綻ばせつつも、何を言っているのか分からないので、頬をポリポリと掻いている。
「えっと、かわいいけど、どうした?」
「どうやら、疲れたから、ご主人にくっついて、魔力を補給したいらしいニャ」
ケットが訳してくれる。ムツキは先ほどよりもさらに嬉しそうな表情でみんなを見る。
「おぉ! いいぞ! みんなおいで! ……って、本当にみんなで来た! おわっ!」
ムツキの言葉を聞いて、猫も犬もウサギもクマもシカもほぼ全員が彼の所に密集する。その後、こんもりとしたモフモフの山が築かれていた。
「いつも思うけど、普通なら圧死するニャ……間に挟まっているのは大丈夫かニャ……」
「もがもが……ぷはっ……幸せだ……」
ムツキが嬉しそうな声を上げているのはケットたちの耳に聞こえてきた。
「楽しそうにしてるし、いいんじゃないか?」
「いや、マイロードは当てになりませんから……確認くらいはしましょうよ……」
クーは寝そべったままである。アルは思わずツッコミを入れた。
「じゃあ、確認がてら、オイラ達も混ざるニャ!」
「そうだな。あ、さっき、しなかったから、大きくなってやろうか?」
「やめなさい、本当に圧死する仔が出ますよ……」
ケットたちも少しの間、一緒になった後、お開きということで寝支度をした後に、各自のテントで眠った。ムツキは久々にケット、クー、アルの3人とゆっくりと一緒に眠った。
その後も帰るまで、大人になったばかりの妖精たちはムツキにじゃれるようにたっぷりと遊んだのだった。