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筆を洗おうかどうしようか悩んでいた流来(るうら)は明空拝(みくば)を見て
明空拝は立っているが、地に足がついていないくらいふわふわした気持ちで
スマホ片手に流来と目を合わせている。そんな2人の間に沈黙が訪れる。
「で、で、出掛けませんかって言われた」
「誰に」
「…。苗字忘れた」
「…名前は?」
「希誦さん」
というやり取りの後、流来はなんて言っていいかわからず、明空拝もなにを言っていいかわからなかった。
「よ…よかったじゃん…。よかったのか?」
口火を切ったのは流来。なんてことない言葉をかけたが、その言葉に自分で疑問を抱いた。
「まあ…そうな」
と言って一旦落ち着いて座る明空拝。
「てか既読つけたんじゃないの?」
と言われ
「あぁ!」
っと焦り立ち上がる。でも
「あぁ。通知画面で見ただけだったわ」
と思い出した。
「んだよ。ビビりすぎだろ」
「いや、パニクって」
と今一度座る明空拝。
「どうしよ」
「なにが」
流来は立ち上がって筆を洗う。
「返事」
「いや、明空拝の好きにすればええがな」
「まあそうなんだけどさ…。てか早めに返信しないと失礼だよね?」
「どうなんだろうな。よくわからん」
「そっか。流来は付き合ったことないもんな」
「あぁ…付き合ったことな…あるわ!」
「あるんだ?」
「ま…中学のときが最後だけど」
「あ、そうなの?モテそうなのに」
「モテないモテない」
「そっかぁ〜。恋愛経験少ない2人で悩んでても埒開かないね」
「明空拝も少ないんか」
「言ったでしょ?高校時代は暗黒期だったって」
「あぁ…。ごめん」
「別に謝らんでいいけど」
流来は筆を洗い終え、いろいろな色の絵の具で汚れた雑巾で筆を拭き、キャンバスの前のイスに座る。
「出かけるか…。なんだろうな」
「ね」
「なんか明空拝が機嫌損ねることして、呼び出されてしばかれるとか」
「ないないないない。…」
と言いつつも希誦(きしょう)のクールな顔を思い浮かべて
「え…。マジでしばかれんのかな」
と不安になる明空拝。
「いや、冗談だから。しばかれることは…」
流来も希誦のクールな顔を思い浮かべて
「ないとも言い切れないか」
と不安になった。一方の女子組。講義室で講義を受けており
汝実(なみ)と希誦はスマホを見て真面目には講義を受けておらず
杏時(あんじ)と芽流(める)はそこそこ真面目に講義を聞いていた。
「落書きじゃないって」
と呟き、苦笑いする汝実。ただ黙ってスマホの画面を見ているものの
おそらく返信が気になって、はやく返信が来ないかという心理が
スマホの裏面を中指でトントンとしている様子に表れている希誦。
希誦がファッション誌を見ているとスマホの画面の上部に通知が出てくる。
裏面をトントンしていた中指が止まる。明空拝からの返信だった。すぐに通知画面でメッセージを確認する。
明空拝「いいですよ。僕でよかったら。どこ行くんですか?」
口角が上がりそうになったので口を尖らせる希誦。すぐに返信をする。
「ヤベェ。なんか変に緊張していつも通りモンナンできねぇ」
「ま、しばかれる覚悟はしといたほうがいいな」
「やっば!死ぬ!今しばかれてる!回復回復!」
「騒がしいな」
「…」
項垂れる明空拝。
「1乙…報酬減ったわ」
「1乙。懐かしい響きだわ」
流来は一旦休憩、明空拝は一狩り終わったところで明空拝はスマホを出し、画面をつける。
「あ、返信来てる」
「マジか」
確認する。
希誦「よかったです。じゃ、よかったら今日じゃなくても、大学終わりに少しでもいいですし
土日だとガッツリと付き合ってほしいしなんですけど」
「大学終わりか…土日…どっちがいいんだろうか…」
「平日バイトあるじゃん」
「毎日じゃないから。シフト制で、オレ週4だから」
「ついでにバイト先の居酒屋でご飯食べれば?割引あるんでしょ?」
「!」
「いい案!」と言わんばかりに立ち上がり、スマホを持った右手を流来に向けるが
「バイト先の人に知られたくないし、割引で夜食べるのダサくない?」
と座る。
「ダサいとか気にできるほど金銭的に余裕ないだろ」
「それはそう」
と流来を指指す。しかし
「どっか行くってさ。男子側の奢りな気しない?」
「…」
考える流来。しかし
「知らん」
断言した。
「ま、知らんわな」
「含みある言い方だな」
「どうしよ。金ない…」
と落ち込んだ後、バッっと決意をした表情で顔を上げ
「借りるか!金融機関に!」
と左拳を握った。その左拳に右手を乗せ、ゆっくりと下げながら
「やめなさい。利子払うことになってむしろマーイ(マイナス)だから」
と静かに説得した。
「ま、できるだけ払うわ」
「無理すんな」
「うい」
ということで返信をした。女子組も講義を終えた。
「終わったぁ〜…」
と汝実(なみ)がテーブルに突っ伏す。
「疲れてないでしょ。汝実ずっとスマホいじってたし」
「そんなこと言ったらしょうちゃんだってスマホばっかいじってたじゃん」
「うん。だから疲れてない」
「威張るなよ」
杏時と芽流は配られたプリントにメモ書きをして、しっかりと講義を受けていた。
「2人は真面目ねぇ〜」
汝実がテーブルに突っ伏したまま顔だけを杏時と芽流のほうへ向ける。
「そおかな?」
「芽流は真面目な方だと思うけど、私はそうでもないと思う」
「いや、私真面目ではないよ」
と謙遜し合う2人。
「いや、ま、2人が真面目ってのもあるけど、私と汝実が真面目じゃないってだけじゃない?」
と言う希誦。
「いやいやいやいや。大学生たるもの講義は真面目に聞かないorサボる。
そして遊びまくるってのが本質でしょ」
「学費出してる親に謝れ」
という希誦のツッコミが入ったところで
「じゃ、帰りますかー」
と荷物をまとめて講義室を出た。
「あぁ〜…。なんか今から緊張してきた」
「明日だろ?」
「そうなんだけど…。え、どうしよ。メイクしていっていいのかな?引かれるかな?」
「明空拝の好きにすればいいじゃん」
冷たいな。他人事だと思って
と思った明空拝だが
「引かれたら引かれただし。自分の好きな明空拝で行けばいいと思う。
明空拝が好きな明空拝を好いてくれる人は…たぶんいると思うし。…おそらく」
「たぶんにおそらくね」
苦笑いの明空拝。でも嬉しかった。
「じゃ、メイクてんこ盛りで行こ!」
「マジ今度女装してみてほしいわ」
「女装させてあげようか」
「気持ちだけで。ありがとうございます。…いや、ありがとうございますも変か」
という感じで2人も美術室から出て、大学も出た。
「んじゃ、バイトなんで」
「ん。無理しない程度に」
「頑張ります!」
「ん」
「じゃ、また明日〜」
「うい。また明日〜」
と別れた。女子組も電車で帰り、杏時も自分の家の最寄り駅で降りた。
階段を下りていると階段を下りていく人々の中に見覚えのある赤い髪に白い服装の人が目に入った。
あ、流来くん…だよね?似てる人?でも流来くんならなんでここに?
と汚れていない綺麗な白い服装の背中を見て思った。
同じ最寄り駅なのかな…
と思いながら改札を通る。するとおそらく流来であろう人物が立ち止まる。
「?」と思ったが通り過ぎ、流来なのかを確認するためにチラッっと振り返った。
やはり流来だった。流来はスマホを見ていた。
流来は通知がないかを一旦確認して、スマホをポケットに入れて歩き出そうとした。
すると振り返って流来を見ている杏時と目が合った。
「「あっ」」
2人とも声が出た。流来はワイヤレスイヤホンを外す。杏時もそれを見てワイヤレスイヤホンを外す。
「ども」
「あ、どうも」
「流来さんも最寄り駅猫井戸なんですか?」
「あぁ。はい。鷲的部(しゅまべ)さんもそうなんですね」
「あ、はい」
自然と2人で歩き出す。
「よく私の苗字覚えてましたね」
「まあ。聞き馴染みなかったんで逆に。ま、漢字は覚えてないってか知らないですけど」
そんな話をして、別に猫井戸という地域は治安が悪い地域ではないが流来は自然と杏時を家まで送った。
「家も案外近いのか」
と呟き、ワイヤレスイヤホンを耳に突っ込んで家へと帰った。