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明空拝(みくば)は前日もバイトをして、帰ってゲームをしたり
テレビを見ていたりと自分時間を過ごしていたら
夜中、いや、もう人によっては朝の午前3時を過ぎ、4時も過ぎ、5時近くになってベッドに入ったが
結局ベッドの上でもスマホで動画を見て、窓からぼんやりとした光が差し込み始め
「ヤバッ」
っとようやく本格的に寝ようとしたため、起きたのがいつも通りお昼近く
午前中の講義、そして午後一番の講義、3限の講義には出れる時間ではなかったので
カップラーメンを作りながら、3分待っている間に流来(るうら)に
明空拝「すまん!今起きた!」
と送った。送られた側の流来は講義室で
はいはい。いつも通りね
とスマホに届いた明空拝からのメッセージを眺めながら思っていた。
一方、杏時(あんじ)、希誦(きしょう)、汝実(なみ)、芽流(める)の女子陣は
お昼ご飯を大学の外に出てファミレスで食べており
お昼ご飯を食べ終えてもフライドポテトなどを頼み、ドリンクバーで飲み物を入れて飲んで駄弁っていた。
「あぁ〜…4限ダルゥ〜」
汝実はぐでぇ〜っとソファータイプのイスの背もたれに寄りかかる。
「汝実がダルいっていうから今日は3限取ってないじゃん」
希誦がそう言って飲み物をストローで飲む。
「そうだけどさぁ〜?ゆっくりすると、なおさら大学戻って講義受けるのダルくならん?」
と向かいにいる杏時を見て言う汝実。
「私?」
コクンと頷く汝実。
「まあ…たしかに?」
「ダルくならん?」
とお次は杏時の隣の芽流に視線を移して言う汝実。
「まあ…うん。たしかにお昼ご飯の後は眠くなるもんね」
「そうなんよぉ〜」
と背もたれに寄りかかったまま希誦に向かって倒れる。希誦の肩に頭を乗せる汝実。
「いや、だから3限はなしにしたんじゃん。全員で」
「それは感謝してるってぇ〜…」
と言いながら希誦の肩にもたれかかっている汝実は希誦を見上げる。
「…。しょうちゃんさ、今日朝会ったときから思ったけど、今日なんかカッコいいよね」
そう言われて、ゴボッっと飲み物を吹きかける希誦。
「ね?」
と杏時を見る汝実。
「あ、それは思った」
視線を芽流に移す汝実。コクコク頷く芽流。
「カッコいい?」
「うん。カッコいい。“イケメン女子”って感じ」
「…」
それは褒められているのだろうか…
と考える希誦。
「服もいつもオシャレだけど、いつも以上に…なんていうの?メンズっぽい感じ」
「メンズライク?」
「それ!なんかコンセプトが固まってる気がする」
と言う汝実に
「たしかに」
と同意する杏時にその横で頷く芽流。
「そお?」
「うんうん。どしたん?」
「どしたん?いや…」
ま、大学後遊び行くけど、そこまで…
と思いつつも
「特になにも」
と続ける。
「ほおぉ〜?」
疑惑の眼差しで希誦を見上げる汝実。
「…なに」
「んや?」
と言って背もたれにも希誦の肩にももたれかかるのをやめ
「さ!飲もう!」
とメロンソーダの入ったグラスを持つ汝実。
「お酒みたいに」
と言う杏時。
「でもお昼からお酒飲むってどういう考えなんだろ。どういう考えなの?しょうちゃん」
「…あ?なんで私」
「飲んでそうじゃん?」
「飲んでねぇよ。今も走ってんだからアルコールは邪魔でしょ」
「それもそっか。…ん?アルコールってダメなん?それタバコじゃないの?」
「いや知らんけど、アルコールも体力落ちるってイメージない?」
という希誦の言葉に杏時も芽流も汝実も顔を見合わせる。
「知らん」
「私もわかんない」
芽流もコクコク頷く。
「あ、そうだ」
と杏時が思い出したような声を出し
「しょうちゃん、ランニングの件だけど、今日の夜とかどうかな?」
と希誦に提案する。
「あぁ〜…。ごめん。いや、わかんないけど、今日の夜は無理かも」
と希誦が言うと
「お?なんだ?バイトでも探し始めたんかぁ〜?」
と汝実が言う。
「いや探してない」
「探してなかった!」
「てか夜のランニングが習慣なのに夜シフトのバイトはせんよ」
「それもそうか。あ、バイトといえば芽流はバイト探しはどうなん?」
としばらく女子4人でファミレスで駄弁って過ごしていた。
流来は美術室でコンビニで買ってきたお昼ご飯を食べ、一人で絵の世界に入っていた。
明空拝はというと、テレビ前のローテーブルの上にメイク道具を一杯に出しており
中央に置いた鏡で顔をいろんな角度で見ながら
「い〜…いっかな?」
とベース→コントロールカラー→ファンデーション…などなどを施し
30分以上かけてメイクをして完成形を見て納得しようとしていた。
「…ふっ。もはや絵画よね」
と自分でも笑いながらテレビを消して立ち上がり、財布を持ってバッグに入れようとして立ち止まる。
「…」
財布の中を確認する。
「…足り…る…ないか?」
基本はキャッシュレス決済をしているものの、たまに現金を使う場面があるため
多少は常に財布の中にお札は入れてはいたが、少し不安になって
下着のパンツを入れている引出しの中に入れている茶封筒を取り出し、2万円ほどを財布に追加した。
「…足りる…よな?」
と少し不安だったがバッグを持ち、財布をそのバッグに入れて家を出た。
ワイヤレスイヤホンで音楽を流しながらいつも通り駅に向かい、いつも通り電車に揺られ
いつも通り大学の最寄り駅で降り、いつも通り大学への道を歩いて行った。
しかしそのどれもがいつもの心持ちとは違った。
デート…ではないかもしれないが明空拝にとって女子と一緒に
しかも2人きりでどこかへ行くなんて言うことは
小学生の頃のリアルおままごとのようなデートを除けば人生で初めてである。
しかもフルメイクで外に出るのも人生で数回目。未だにメイクをして外を歩くときは
変な人って思われてるかな…
男がメイク?とか思われてるのかな…
ブサイクだなとか思われてないかな…
などネガティブなことを思い、心臓、胸が少し冷たく感じるほどドキドキする。
そこに人生でほぼ初めてといっていい「女子と2人でのお出かけ」という事実が
さらに心臓のドキドキを加速させる。耳に聴こえる音楽も、どこかいつもより遠く感じ
歌詞もメロディーも頭に入っているはずなのに抜けていく感覚がする。
大学の敷地内へ入り、4限の講義が行われる講義室へと向かう。
講義室へ入ろうとすると講義室の中から人が出てくる瞬間で
ぶつかりそうになったので、咄嗟に1歩下がり、ぶつかってはいないが
「っ、すいません」
と謝った。
「あ、こちらこそ」
と言う人の顔を見たら
「…あ」
「あ」
一瞬気づかなかったがそれは希誦だった。
「あ、白風出(しらかで)さん」
「おぉ…ども」
「どうも」
明空拝が一瞬気づかなかったのは、いつものなんてことない服装じゃなかったから。
いつもはピチピチではないもののタイトめなジーンズに無難なパーカー。
しかし今はピチピチではないもののタイトめでダメージがあるジーンズに
丈が長めのTシャツにジーンズの色に近い薄い青めなYシャツ。腕にはブレスレット。
派手な感じではないものの、ボーイッシュでおしゃれな感じ。
なんか…オシャレや
と明空拝が思っていると
「じゃ、大学の後よろしく」
と言って通り過ぎて行った。
「あ…はい…」
と言って講義室に入ろうとすると
「しょうくんちょい待ちぃ〜」
と汝実が講義室内から出てきた。
「おぉっ!わお。真実田(まみた)くん!今日も相変わらずお可愛い」
「あ、どうもありがとう?」
「んじゃ」
と言って希誦を追いかけて行った汝実。
しょう…くん?弟さんとか?
と思いながら講義室に入る明空拝。講義室内にいた杏時と芽流に会釈してイスに座る。
でも
「じゃ、大学の後よろしく」
って言ってたし、本人だよなぁ〜…しょう“くん”って…なんだ?
と1人で疑問を抱えていた。
「よ」
と隣に流来が座ってきた。
「おぉ…おぉ!おはよ」
「なんでそんな挙動不審なんだよ」
「え、え?いや、え?どこがどう…挙動不審で?」
「上半身丸々挙動不審」
と言われて力が抜ける明空拝。
「いやぁ〜さぁ〜?…なんかいつも通り過ごしてるはずなのに全然いつも通りじゃなくてさ。
なんか疲れるというか…」
「あぁ…。それでそんな挙動不審だったわけか」
「ま…そーゆーことかもだ…」
「ま、気張るよな。童貞が女の子と出かけるときは」
「誰が童t」
と立ち上がって大きな声でツッコもうとする明空拝を
「童貞」という言葉を講義室内に大きな声を響かせる前に口を塞ぐ流来。
「悪かった。でも恥ずかしい思いさせずに済んだんだから感謝もしてほしいけどな」
「誰が童貞だ。誰が」
「明空拝だよ。間違っちゃねぇだろ」
「はい…。童貞です…。なんなら女の子と話すのなんて何年振りかわかりません…」
と暗黒オーラを出し、ボソボソと話す明空拝。
「…。なんかすまん。ま、この講義中に緊張解せって」
「…ま、そうだな」
と話している一方、希誦と汝実がトイレから帰ってきて、杏時と芽流の横に座る。
「お。流来くんだ」
「ほんとだ」
「そうだ!真実田くん見た?」
「見た見た」
「見たよ」
「今日なんかめっちゃ可愛くなかった?」
「たしかに。なんか明るい感じ」
「メイク習おうかな」
と呟く汝実。
「しょうくんはメイクいつからしてた?」
と聞く汝実。
「…いつからかな…。ってかそのしょうくんって」
「いやぁ〜だってさ?今日のしょうちゃん、マジでイケメンっていうか…。
ねえ?しょうちゃんには実は双子の弟くんか兄がいて
本物のしょうちゃんは弟くんか兄が通う男子校の大学に行っててーみたいな?」
「残念ながら弟はまだ小学生だからな」
「そっか。…それにしても…」
机に乗り出して改めて希誦を真正面から見るように覗き込む汝実。
「イケメンだなぁ〜」
「…褒められてんのか、それ」
「そもそも女子の中でもイケメンの部類だけど、服装が変わるとこれまた…。
男装バーとかでバイトしてさ、んで大学後すぐバイトあるからって感じで男装して大学来て
そのイケメンぶりが話題になって陰で「プリンス」なんて呼ばれ方して
でもそのプリンスには好きな人がいて、側から見たら“薔薇”みたいな?側から見たら男子×男子だからね?
んでしょうちゃん、男装するときはショートカットのウィッグを被ってて
いつもはウルフヘアーだからバレなくて
でも男装してなくても充分イケメンで、なおかつ可愛い女子という…」
と言いながら希誦を見て
「…でもしょうちゃんはそもそもショートだもんねぇ〜…これは辛い…」
と腕を組んで悩む汝実。
「相変わらず妄想のディテールがすごいな」
と希誦が言うと
「たしかに」
と杏時が同意し、芽流も頷く。そう言いながら汝実を見る3人を見てハッっと我に返り
「えっ、えっ、そっ、そうかなぁ〜?まあ?そうね?…原作があるからね(小声)…」
と慌てて否定する。
「ん?なんて?後半聞こえんかった」
「あ!いや!別に!」
「そ?」
ということで講義が始まった。希誦と汝実は相変わらずスマホを見ており
杏時と芽流はちゃんと講義を受けており、明空拝も一応しっかり講義を受けている部類に入り
その横で流来はノートに次はどういう絵を描くかというのを
ラフ(雑というほどではないがテキトーに描くもの)に文字を書いてイメージ作っていた。
「ねえ」
明空拝が小声で流来に話しかける。
「ん?」
顔を向けずに絵を描きながら返事をする流来。
「メイク、変じゃない?」
と言われたので明空拝のほうを見る流来。
「…いや、変ではないんじゃない?知らんけど」
「なんか変に紫が全面に出てるとか」
「紫?…いや、わからん。紫とか入れてんの?」
「うん。コントロールカラーとして紫入れてんだけど、わかんない?」
「…わからん。変とか思うことすらないくらい自然だと思うけど」
「そお?」
と言いつつも流来は明空拝がどことなくまだ不安そうな感じがしたので
「てかさ」
と話し始める。
「ん?」
「ま、メイクしてる人が見たらわかんないけど、オレとかメイクしない男子とかメイクに疎い女子が見ても
メイクしてるなんてわかんないんだろうから、堂々とすればいいんじゃん?
メイクして同級生に気づかれて恥ずかしかったのは、まだ明空拝がメイク初心者の頃でしょ?
オレは今でも自分ではうまいと思ってないけど、今は周りからうまいって言われてるオレも
絵描き始めた最初は「下手だって思われてるだろうな」とかそんなこと思ってたけど
今は自分が好きな世界をある程度描けるようになったから…。
ま、何が言いたいかっていうと、明空拝は自分が思ってるよりもメイク上手いから
そこまで気にすることはないんじゃないかなっていう…。
ま、話まとまってないし、気休めにもならんか。すまん」
と言う流来に感動し
「流来…」
とうるうるする明空拝だったが
「あっ。ヤバいヤバい。泣いたらアイラインのお陰で黒い涙出るからメイクやり直さんといかん。
あぁ〜ダメダメ」
と上を向いて泣くのを堪えた。
「泣いたらって。泣くなよ。別にし…」
“親友”と言おうとしたが、言葉の先に、そして心に黒いモヤがかかり口が止まる流来。
「友達を泣かせようとしてないから」
「でも心に響いたから」
「それはよござんした」
と照れ隠しなのか、ツーンとしたようなおふざけ半分の言い方をする流来。
そんなこんなで講義が終わり、講義室内の生徒たちが帰る支度を始めたり
その場で友達と話したり、講義中に帰る支度を終えた生徒はすぐに講義室から出たりと
講義室内がざわめき始めた。それと同時に明空拝の心臓もざわめき始めた。
「ふぅ〜…ふぅ〜…」
「どんだけ緊張してんだよ」
「心臓が…早い…」
机の上のスマホが光る。即座に飛びつく明空拝。
「はやっ」
希誦「駅で待ってますね」
というメッセージを確認してすぐに講義室内を見る。希誦はまだ杏時、汝実、芽流と話していた。
待たせるわけにはいかん!
と思い、即座に立ち上がり
「んじゃ!また明日!行ってきます!」
と敬礼をする明空拝。
「お、…おう。また明日。行ってらっしゃい…」
すると走って講義室を出て行った。
「…戦に向かうみたいな顔してたな…。ま、オレも帰るか」
と立ち上がる流来。
ヒュンーっという効果音が聞こえるように走って講義室を出て行った明空拝を見る杏時、希誦、汝実、芽流。
「はっや」
「すごいね」
「…」
急用?…でも
とスマホの画面をタップして通知を改めて確認する。
明空拝「わかりました!」
って来てるしなぁ〜…。ま、いっか
と思い
「私この後用事あるから」
と立ち上がる希誦。
「あ、そうなんね。ま、そうだろうとはお昼のときから思ってたけど」
「あ、そお?」
「そらどうでしょ。こんなオシャレして」
と希誦の全身を見る汝実。
「いや、そんなオシャレではないでしょ」
「オシャレでしょー。ね?」
杏時と芽流に話を振る汝実。
「あ、うん。オシャレだと思う。私は似合わないと思うけど
しょうちゃんはスタイル良いし、なんでも似合いそうで羨ましい」
隣で頷く芽流。
「それ!マジ羨ましい!」
「すればいいがな、ギャルファッション」
「え、えぇ〜?私が?」
「いや私らの中で1番陽キャでギャルに近いのは汝実でしょ」
「お、おう。そ、そうか、なぁ〜?じゃ、今度服見に行こうよ。4人で」
「あ、いいね。楽しそう」
と同意する杏時。
…ダイエットせねば…
と思う芽流。
「じゃ、また明日ね」
と手を挙げる希誦。
「ん!また明日ぁ〜」
「また明日ね」
「また明日」
と言う3人を教室に残し、希誦 は1人一足早く講義室を出た。