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読み切り
深夜一時。俺——いふは、家のトイレに行こうとしていた。
この家には、ひとつだけ問題がある。
それは、トイレが外にあるってことや。
しかも、庭の端っこ。懐中電灯なしやと行けへん。
しかも、出る。
「……しゃあない、行くか……」
パンツ一丁、懐中電灯片手に、外に出た。草むらのカサカサ音が妙にリアルや。
トイレの前に立ったとき、聞き覚えのある声が背後からした。
「おーい、まろぉ」
「……あぁもう出たぁぁぁああ!!」
◆
「なんで毎回、トイレのタイミングで現れるん!?」
「お前が寂しそうに歩くからや」
「いらんねんその同情! てか早よ成仏せえよ!」
あにき——この幽霊、ぼくの元・近所の兄ちゃんやった。
死んでからもなぜかぼくに取り憑き、かれこれ三年。
「なんや、あれやで。俺、気づいたんや」
「何を」
「成仏って、たぶん、Wi-Fiみたいなもんや」
「なんやそれ」
「電波悪いと、飛ばんねん」
物理的な話すなや!
◆
翌日。学校。
あにきは授業中にも現れる。
「なあまろ、あの先生ヅラちゃうか?」
「しっ!」
必死に無視しようとしてるのに、話しかけてくる。
ぼくしか見えへんし、声も聞こえへん。ほんま迷惑。
「なあ、今日放課後ヒマ?」
「……なんで」
「心霊スポット行こうや」
なんでやねん。
◆
放課後。強制的に連れて来られたのは、郊外の廃モール。
「お前も幽霊やろ!? なんでそんな場所行きたいねん!」
「いや、俺みたいな“ライト級”の幽霊と違って、ここのは“ヘビー級”らしいで」
「なんやその重量級の分類!」
建物の前に立った瞬間、ガラスがピキィッと音を立てた。
「……こわい、帰る」
「待てやまろ、男として恥ずかしないんか!」
「お前もう死んでるやんけ!」
◆
中に入った。ほこりっぽい。床がギシギシ言うてる。
元・フードコートの椅子が全部ひっくり返ってんのが怖すぎる。
その時——
「……うふふふふ……」
「出た出た出た出たっっっ!!」
「落ち着け! こういうときは目を合わせたらあかん!」
「お前は見えるやろがい!!」
振り向くと、女の霊が天井からぶら下がっていた。
笑ってる。めちゃくちゃ笑ってる。
そしてこっち来た。
「ギャーーー!!!」
「走れまろぉぉぉ!!」
「お前もやろぉぉぉ!!」
「俺浮いとるからなぁぁぁあ!!」
◆
なんとか出口まで逃げたぼく。
あにきはそのままフードコートで消えた。
……あ、もしかして成仏したんちゃう? って思ったけど。
帰宅後、風呂入ってたら——
「まろ〜、背中流したろかぁ〜」
「うわあああぁあぁあ帰ってきたああああ!!」
「いや、あれはヘビー級すぎて逆に俺が追い出されたわ」
「幽霊に負ける幽霊て何やねん!」
◆
翌日。学校。教室。
「なあまろ」
「なんや」
「実はやな、俺、今日から修行することにした」
「……修行?」
「そうや。より強い霊力を得て、お前のために使おうと思ってな……」
「いらんわ!! ていうかそれ以上強なったらマジで厄介や!!」
すると教室の隅にいたクラスメイトが、ぼそり。
「……いふってさ、最近ずっとひとりごと言ってね?」
……やばい、俺、とうとうバレてきた。
◆
夜。布団の中。
今日はもう、何もかも忘れて寝よう。
あにきが出てこなければ——
「……まろ〜、おるか〜?」
「寝かせてくれぇぇぇ!!」
「今日はなんもせぇへん。ただ話すだけや」
「……どしたん」
「ほんまはな、もうすぐ俺、消えるかもしれんねん」
「……え?」
「俺みたいな、未練の幽霊も、時間が経てば自然に消えてく。そん時は、もう誰にも見えへん」
「……」
「だからさ、もしほんまに見えへんようになっても、忘れんといてな。俺のこと」
……なんや、急にしんみりすなや……。
「……忘れるかいな、アホ」
「……ふふっ、さすがやなぁ。まろ」
「でもひとつだけ言わせて」
「ん?」
「トイレだけはついてくんな!!!!」
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