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俺は決断しなければならない。それは……この部屋に住んでいるモンスターチルドレンの中から俺の本妻を選ばないといけないからだ。
ちなみに俺は先ほどからあぐらをかいて座っている。
補足するなら両腕を胸《むね》の前で組みながら、目を閉じた状態で座っている。
そもそも、この『家族会議』はミノリ(吸血鬼)が俺に本妻を決めさせるために開いたものである。(前回の最後の方に明らかになった)
だが……どう考えても選べるわけがない。
それは俺が複数のモンスターチルドレンと契約できる理由が分からないし、みんな可愛いからだ。
俺が眉間《みけん》に皺《しわ》をよせて考えていると、ミノリ(吸血鬼)がこんなことを言った。
「あんたが決められないのなら、あたしたちであんたの本妻の座を賭(か)けて勝負するけど、それでいい?」
俺は目を開けると、こう言った。
「それはダメだ。俺は、そんなことのためにお前たちに争ってほしくない」
ミノリは少し俯《うつむ》くと、こう言った。
「そんなことのために……ですって?」
「……おい、ミノリ。どうしたんだ?」
俺はミノリの方に行こうとした。しかし……。
「あんたにとってはそんなことでも、あたしたちにとってはすっごく大事なことなのよ! 分かる!?」
「ち、違うんだ、ミノリ。俺はそんなつもりで言ったんじゃ……」
「別にいいわよ……。けど、あんたがいつまでも誰も選ばないなら、あたしがここにいるモンスターチルドレンを殺すなり何なりして、本妻になるわ」
今のミノリの目からは光が感じられなかった。
「ミノリ、少し落ち着けよ。な?」
俺はスッと立ち上がると、ミノリ(吸血鬼)のところに行った。
その後、俺は彼女の頭を優しく撫《な》で始めた。
「あんたはあたしたちが落ち込んでる時とか、心が折れそうな時に、いつもこういうことをしてくれるわよね」
「当たり前だろ? 家族なんだから。それに……」
「それに?」
「俺はもう、お前たちのいない日常を想像できない。だから、争ってほしくないんだよ」
「……ナオト」
「……だから、俺は選ばない。というか、選べない。この中から一人の本妻を決めたとしてどうなる? 絶対に『私の方が……』ってなるだろ? それに、こんな魅力的な子たちの中から一人しか選べないのなんて、もったいないだろ?」
ミノリは「……ふふふ」と笑った。
「やっぱりあんたは、あたしたちのマスターにふさわしい存在ね」
「ん? どういうことだ?」
「みんな思ってるわよ。あんたは一人の犠牲《ぎせい》も出したくない、出させはしないっていう気持ちでいっぱいだから、恋愛とか結婚とかに興味がないんだな……って」
「そ、そうなのか? みんな?」
俺が他の子たちの方を見ると、全員がタイミングよく首を縦に振った。(未《いま》だに眠《ねむ》っている『狐《きつね》の巫女《みこ》』を除いて)
「みんなこうなることは分かってたのよ。あんたは決して、あたしたちの誰かを特別扱いするつもりはないし、誰か一人と結婚する気もない。もしするならみんなと結婚するだろうって」
「そこまで分かってたのなら、どうしてこんな会議を開いたんだ?」
ミノリは俺の足にしがみつきながら、こう言った。
「ただの確認よ。か・く・に・ん♪」
「そ、そうか、なら、いいんだけど」
「うん」
「……でもなー、まだ尺《しゃく》が余ってるんだよなー」
「じゃあ、あたしたちとイチャイチャする?」
「そんなことしたら、俺が捕《つか》まるだろ……」
「誰に?」
「……憲兵さんとかに……」
「ここは『か〇これ』の世界じゃないから大丈夫よ。というか、やろうと思えばいつでもやれる状況なのに、どうしてあんたはそういう素振りも見せないの? あたしには、あんたのそういうところが理解できないわ」
「あと十年くらいしたら考えてもいいかな……なんて……」
その直後、ミノリは俺の足から離れた。
「……それって、あたしたちに魅力がないって言いたいの?」
「いや、別にそんなことは……」
「そうよね……ここにいるほとんどが幼女だから仕方ないわよね。やっぱり、小学生がやってくる! ヤァ! ヤァ! ヤァ! ……みたいなサブタイトルじゃないとみんな興味を持ってくれないわよね……」
「いや、それは……ないと思うぞ」
「だって、ここにいる九割が幼女なのよ? 幼女ばっかり出てくるお話と十代後半以上の女の子たちがたくさん出てくるお話の地名度を調べたら、どうなるのかくらい、あんたにだって分かるわよね?」
「それは、人それぞれだから……」
「あんたはどうなのよ」
「えっ?」
「あたしたちといて、楽しい?」
「いきなりどうしたんだ?」
「いいから答えて……」
ミノリは少し俯《うつむ》きながら、そう言った。
「……俺は楽しいよ。お前たちと一緒にごはんを食べたり、冒険したりするのは」
「本当に……そう思ってる?」
「俺が嘘《うそ》を言っているように聞こえたか?」
ミノリは首を横に振った。
「ううん、そんなことなかったわ」
「なら、それでいいじゃないか」
「……うん」
「それに、そんなしょげた顔してたら、せっかくの美人が台無しだぞ?」
「……うるさい」
ミノリは俺の方に再び歩み寄った。
俺も、そんなミノリの方に行くと両膝《りょうひざ》をついた。
その後、ミノリを静かに抱きしめると、片方の手で頭を優しく撫《な》で始めた。
「その……ごめんな。長時間、留守番させちまって。でも『狐《きつね》の巫女《みこ》』と『カリン』と高校時代の俺の同級生である名取《なとり》に出会っちまったから、それで……」
「もういいわよ、そんなの」
「じゃあ、お詫《わ》びと言ってはなんだが、一つだけお前の願いを叶《かな》えてやるよ。もちろん俺が出来る範囲でだが」
「……じゃあ【キス】して。そうしたら許してあげるわ」
その場にいるほとんどが凍りついた。(俺は凍りついていない)
なるほど、そう来たか。うん、確かに俺に出来ることだな。
だが、これはアレだな。辞書に載《の》っている言葉で恐らく一番短い説明文である【キス】というものをミノリにしてしまったら……。
俺は確実に【|幼女を崇拝する者たち《ロリータ・コンプレックス》】の仲間入りを果たしてしまうだろうな。
さて、ここで問題です。【キス】をして、ロリコン認定されるのと、【キス】をせずにミノリの心に一生残るキズを作るのと、どちらがいいでしょうか?
答えは簡単。するとしないの狭間《はざま》にあることをやればいいのです。
「分かった、するよ」
『えっ?』
先ほどまで凍りついていたはずの者《もの》たちが同時にそう言った。
俺は、その声を聞きながら、ミノリの目が俺に向くように両手で移動させた。
「お前がいいと思ったら目を閉じろ。ただし、キスは一回しかやらない。それに、できれば早めに終わらせたい。というか、お前以上に恥《は》ずかしいと思ってるから、さっさと済ませるぞ」
ミノリは頬を少し赤く染めながら、こう言った。
「えっと、その……優しくしてね?」
「それは分かってるけど、あまり期待はするなよ?」
「うん、分かった。でも、いいの? ロリコン認定されるわよ?」
「そんなことはどうでもいい。お前は俺に可能な範囲でしてほしいことを正直に言ってくれたから、俺はその気持ちを無駄にしたくないだけだ」
「……そう。じゃあ、お願い……」
ミノリは、いつのまにか目を閉じていた。
というか、口をほんの少し尖《とが》らせていた。
「人の話は最後まで聞けよ。まったく、仕方ないな」
俺は目を徐々に閉じながら、ミノリの方に顔を近づけていった。
他のメンバーがマジマジとこちらを見ているのは知っていたが、俺はミノリの方に顔を徐々に近づけていった。そして。
「……チュ」
部屋全体にその音が響《ひび》き渡《わた》った直後、ミノリは顔を真っ赤にしながら『|蜘蛛《くも》歩き』で数歩下がった。(他のメンバーは何が起こったのか理解している)
「あんた、今、どこにしたの?」
俺はキョトンとした顔で、こう言った。
「俺がいつミノリの唇《くちびる》にするって言ったんだ? お前が場所を指定しなかったってことは俺の親指でもいいってことだよな?」
「……それって、どういうこと?」
「コユリ、説明してやってくれ」
「はい、分かりました」
コユリ(本物の天使)はミノリの前に来ると正座をした。
「いいですか? 一度しか言いませんから、よーく聞いてください」
「分かったから、早く教えなさいよ!」
コユリは目の前まで近づいてきたミノリの頭をガシッと掴《つか》んだ。
「少し静かにしてください。でないと、このまま頭を握《にぎ》り潰《つぶ》しますよ?」
コユリは真顔でミノリの頭を潰《つぶ》そうとした。
「イタタタタタ! や、やめなさいよ! というか、あんたに頭を潰《つぶ》されるくらいなら『レ○ギガス』に、にぎりつぶされた方がマシよ!」
「次に生意気なことを言ったら殺《や》ります」
コユリの目は笑っていなかった。
ミノリはただただ苦笑しながら、こう言った。
「肝に銘《めい》じておくわ……」
「……では、マスターがアホ吸血鬼にしたことを不本意ながら、お教えします」
「できれば、手短にしてちょうだい」
「殺《や》ってもいいですか?」
「ごめんなさい! 調子に乗りました!」
「よろしい」
ミノリはコユリの説明を正座で聞くことにした。
「では、説明します。まず、あなたはキスをされてはいません」
「うん」
「次に、あなたはキスをされました」
「う、うん」
「最後に、あなたはキスというものを理解していません」
「えーっと、つまり、どういうこと? 話が見えないんだけど」
「要するに、見方によって意味は変わるということです」
「分かんないわよ! ちゃんと説明してよ!」
コユリは、ため息を吐《つ》いた後、説明を再開した。
「マスターから見ると、マスターはキスをしていますが、私たちから見るとキスをしていないように見えるということです」
「それで?」
「つまり、マスターがキスをしたのはマスターの親指だということです」
「えっ? じゃあ、さっきの音って」
「マスターが自分の親指にキスをした音です」
「そんなのって……」
「キスは口づけです。ここにしてほしいと指定しなければ、相手はどこにしようか大抵《たいてい》、困ってしまいます。今回、マスターはそれをうまく利用しました。キスをする直前に自分の親指にキスをすることで、あたかもあなたにキスをしたように仕向けたのですから」
「つまり、どういうこと?」
「あなたがキスをされているようにも、されていないように見えるということです」
「ねえ、ナオト。今のって、全部本当なの?」
その後、コユリは元の位置に戻った。
「ああ、そうだ。俺は端《はな》からお前に【キス】をする気なんてなかったよ」
「……じゃあ、もし、あたしが場所を指定してたら、あんたはあたしにキスしてくれたの?」
「……さぁな」
「誤魔化《ごまか》さないでよ!」
「……した……かもな」
「……そう。なら、いいわ」
「そうか」
「うん……」
その時、その場にいた全員の腹が鳴った。
「そういえば、昼ごはんがまだだったな。よし、みんなで食べるぞ!」
俺がそう言うとみんなはちゃぶ台の周囲に座った。
『この世の全ての食材に感謝を込めて……いただきます!』
こうして、なんとか『家族会議』は終了したのであった。