テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#TS転生
高天原ヒロ
823
#魔法
東屋 朧
200
12
兎束作哉
5,492
『もっと心の声を聞いてみるといい』
観覧車の中で冴に言われた言葉が、玲の頭から離れなかった。
静まり返った自室。
机に頬杖をつきながら、玲は今日一日の出来事を思い返す。
烈の言葉に胸が高鳴ったこと。
律の笑顔を見て、嬉しいと感じたこと。
絢と雑貨を眺めていた時間が楽しかったこと。
豪の腕に抱きしめられた時、安心したこと。
どれも、自分の覚えのない感情だった。
「……俺は、一体――」
そこで玲の意識は、数か月前のある日の記憶へと遡る。
目を覚ました時、そこは真っ白な世界だった。
豪華なシャンデリアも、重厚な家具もない。
あるのは巨大なモニターと、一台のゲーム端末だけ。
「ここは……どこなんだ?」
恐る恐るゲームを起動すると、モニターには『恋するエグゼクティブ』の文字が浮かび上がった。
次々と映し出される見知った顔。
烈、律、絢、豪、冴――そして、自分。
訳も分からないまま見ていると、物語は始まった。
律とゲームで張り合い。
絢と買い物に出かけ。
豪と笑い合い。
烈と心を通わせていく。
画面の中の玲は、自分とは思えないほど表情豊かだった。
(っていうか、距離感近すぎだろ……!)
思わず顔を赤くする。
物語は進み体育祭が終わろうとした、その時――。
『▶システムエラー発生』
『▶修正プログラムを起動しますか?』
玲は迷わず「はい」を押した。
その瞬間――。
全身を焼くような電流が走り、視界が白く弾けた。
――そして。
気が付くと、真っ暗な山の中にいた。
目の前には祠――。その時だった。
「絢〜? いる〜?」
聞こえてきた声に振り返る。
そこにいたのは――。自分だった。
「……なんだ、あいつは。」
すると再び――。
『▶システムエラー発生』
『▶バグの消去を行ってください』
無機質な声が頭に響く。
『▶世界を維持するため、異物を排除してください』
「バグ……?」
目の前の自分を見つめる。
あいつを消せばいい。
そう思った瞬間――
「……っ」
体が勝手に動いた。
気が付いた時には、『自分の姿をした誰か』を突き落としていた。
だが、『バグ』は消えなかった。
そして文化祭の日。
偶然ぶつかって落とした端末に、『自分の姿をした誰か』が触れた瞬間、閃光が走り――『バグ』は消えた。
――そう思っていた。
玲は確信していた。
烈、律、絢、豪、冴――彼らに向けるこの感情は、『自分の姿をした誰か』のものだ。
そしてきっと、まだその『バグ』は残っている――
玲はゲーム端末に手を伸ばす。
今度こそ、『バグ』を完全に消し去るために――。
私は、ドリームランドでの出来事を思い返していた。
烈に赤面していた玲。
律に優しく微笑む玲。
絢と一緒に雑貨に見惚れていた玲。
お化け屋敷で固まり、豪に抱きしめられて安心していた玲。
「もしかして……私の感情とシンクロしてる?」
そう思った瞬間。
白い世界に光が差し込んだ。
現れた人物に、私は息を呑む。
「え……? 玲……?」
目の前の玲は、鋭い目で私を睨みつけた。
「やはり……お前はまだ消えてなかったんだな!」
「ちょ、ちょっと待って!」
「今度こそ終わらせる――」
近づいてくる玲に、私は思わず叫んだ。
「嫌だ……! 私、まだ消えたくない……!」
涙が溢れる。
その姿を見て、玲の足が止まった。
「……なぜ泣く?」
静かな声だった。
「お前は……一体誰なんだ?」
私は全てを話した。
元開発者だったこと。
ここが自分の作ったゲームの世界であること。
玲は黙って聞いていた。
「開発者、ゲームの世界――。とても信じられないが……。そして、みんなを幸せにしたい、と……。」
「うん。どうしてこういう状況になったか分からないけど……私はみんなに幸せになってほしい。」
そして。
「でも、私の存在が世界を壊すなら……消えた方がいいのかなって……」
そう言った私に、玲は深くため息をついた。
「お前は、一体何を見てたんだ?」
「え?」
「烈も、律も、絢も、豪も、冴先輩も……変わった。」
呆れたように玲が笑う。
「あいつらを変えたのは……お前だろ?」
私は息を呑んだ。
「お前がいなくなって、あいつらは幸せになれるのか?」
涙が止まらなかった。
「それじゃあ……私、消えなくていいの……?」
玲は優しく頷く。
「お前が感じたものは、もう俺の中にもある。」
「喜びも、悲しみも……全部。」
「今さら切り離せると思うか?」
そして、玲はそっと私を抱きしめた。
「辛い思いをさせて悪かった……一緒に帰ろう。みんなのところへ――」
眩い光が二人を包む。
「玲……私、みんなを幸せにしてみせるよ。もちろん、あなたのことも。」
玲は優しく微笑んだ。
「ああ、よろしく頼む……。」
二つの光は、ゆっくりと一つになっていく。
そして――白い世界から消えていった。
翌朝、生徒会室――。
いつものように仕事をする面々。
そこへ、パタパタと軽快な足音が近づいてくる。
バンッ!
勢いよく扉が開かれた。
全員の視線が、一斉に集まる。
一呼吸。私は、大きく息を吸った。
「みんな、遅れてごめん! ……ただいま!!」
一瞬の静寂。そして――。
「遅いぜ……会長?」
「馬鹿玲。」
「おかえりなさい。」
「……よかった!」
「おかえり。玲。」
「おかえりなさいっ、会長!」
「うん……ただいま。」
やっと帰ってこられた。私の帰る場所へ――。
コメント
1件
あーーもう、泣いたわ……!「お前がいなくなって、あいつらは幸せになれるのか?」って玲に言われたシーン、心臓掴まれた。二人の玲が一つになる流れ、綺麗すぎて鳥肌立った。ただいまの一言に全部詰まってて、読後感がじんわり温かい。今週の癒し、ありがとう。