魔女狩り(後編)──────────────────
◇ワンクッション◇
キャプション必読。
こちらはとある戦/争.屋実況者様のキャラをお借りした二次創作です。
ご本人様とは一切関係ございません。
・作品内に登場するすべては誹謗中傷/政治的プロパガンダの目的で作られたものではありません。
・公共機関では読まないようにご配慮下さい。
・あくまで一つの読み物としての世界観をお楽しみください。
・作品/注意書きを読んだ上での内容や解釈違いなどといった誹謗中傷は受け付けません。
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「ふ、……あ”…………?」
寝起きのような掠れた声が鼓膜に届く。
いや、実際寝起きではあるのだけれど。
ゆっくりと瞼を持ち上げていくと、視界の一面が白に染まって、ようやく身体が覚醒したのか、順に起きていくのを感じる。
白色の天井に、ツンとする消毒液の匂い、少し冷たい布団の感触、舌の上をざらつく血液の後味、キリキリと(眠る前と比べれば大分マシだが)痛む脇腹。
左側に少しした重みを感じ、のっそりのっそりと起き上がり見てみると、シャオさんが布団に突っ伏して眠っていた。
すぅ、すぅ、と穏やかな寝息を立て、胸が上下し、口からは涎を垂らしている。
あぁ、俺が起きる時に誰かおらんかったらアカンから、ここで待っててくれたんやな、と気付くまでそう時間はかからなかった。
俺は労りの念を込めシャオさんの頭を優しく撫でる。
先程の戦闘を思い返してみると、やはり俺はまだ荒く、未熟な部分が浮き出てくる。
『やったか……?』なんて死亡フラグも立ててしまったし、なにより、相手がもう気絶してると思い込み油断した。
今度からは相手が気絶してしまったとしても、トドメの二発目も入れようと思う。
そう自分で反省しつつ、更なる上を目指し修行しようとも考えた。
俺は、シャオさんが防御魔法を使って戦うのがカッコよくて、俺もいつかそんな風に戦いたいと志している。
だって、格好良いじゃないか。
味方の危機に、颯爽と現れた、最強防御魔法でキーン、と攻撃を防ぐ様は。
だから、俺もシャオさんのように特級防御魔法を使えるようにする。
俺はシャオさん程魔力は多くないので、今後は魔力を増やす修行もしたいな。
この世界では、魔力の総量に限りはなく、『自分の身体が限界だ!』と叫ぶくらいまで魔法をぶっぱなし、魔力の底を尽くことで、魔力の総量を増やすことができる。
なので、シャオさんのようになりたいのなら、魔力の総量を増やすことがポイントになる。
それに、俺はシャオさんの弟子なのだ、シャオさんのような”絶対防御の魔女”なんて呼ばれるような防御魔法に優れた魔女になりたい。
そしていつか、シャオさんが開発した現代最強の防御魔法で、シャオさん以外の魔女が分析、解明するまでに千年は掛かると言われている魔法を俺が受け継ぎ、シャオさんの隣に並んで、二人で”絶対防御の魔女”という異名を轟かせて、そんな想像を現実にしたいと。
「んっ……んぅ………………?」
そんな声で、俺の意識はこちら側へと戻ってくる。
シャオさんは虚ろな目をして、しばらくぼんやりと物思いに更けると、徐々に焦点のあった瞳へと戻っていき、シャオさんは俺と目をあわせ口を開いた。
「ショッピ君起きとーやん!」
「大丈夫?どっ、どこも痛ない?」
「全然大丈夫ですよ」
「強いて言えば、脇腹が少し痛いくらいっすかね」
「ほ、ほんま?」
「良かったぁ…………」
ほっ、とシャオさんは張り詰めた息を吐き、安堵の表情を見せた。
「一応、怪我は全部治しといたんやけど……」
「ちょっと肌がピン、って張る感じすかね」
「それくらいなら、よくある治癒魔法の後のやつやから数日経てば治るで!」
「いやー、すまんなぁ。来るん遅れてもうて」
「いえいえ、全然。シャオさんは俺をちゃんと助けてくれて、しかも、怪我まで治してくれて…」
「それに、俺は生きてるんですから、これ以上ない儲けになるでしょう?」
「ふふふ、せやね!」
「ショッピ君も言うようなったなぁ!」
「まぁアンタに育てて貰ってるんでね」
と言うと、彼はお腹を抱えてケラケラと笑い、目には涙まで浮かんでいる。
ひぃー、ひぃー、と笑いすぎて辛い、と言うように呼吸があれ、「腹筋割れそうww」と言って、さらに俺もつられて笑ってしまった。
そうして二人で笑っていたところにドッタンドッタンと忙しい二人分の足音が聞こえた。
恐らく、体格の良い二人組なのだろう。
音がズッシリとし、質量を蓄えていたから。
ガンガラララーン、と勢いよくドアを開けると、こちらへ向かってきた。
そのお陰で、ドアがひしゃげており、もう二度と閉まることはないだろう。
「よくやってくれたシャロン!!ショッピ!!」
「映像を俺たちは見ていたのだが、シャロンは言わずもがなだが、ショッピ!!お前本当に八歳か!!??!」
「八歳とは思えないほど高度な魔法を使い、逆境から逆転するその閃力に、作戦高いその頭脳!!ぜひウチの組織に入らないか!??嫌ならば俺の弟子でもいいゾ!!!」
「いや、さっきも言いましたが、アンタの弟子になるくらいなら死んだ方がマシですよ」
「この組織に入ってシャオさんのかっこええ姿を見られるんはええですけど」
「ショッピ君???」
「生憎俺はまだこの歳なんでね、入隊年齢に達してないんどすわ」
「ほんなんで諦めてください」
「あと映像ってなんの事ですか」
「フッフッフ……それは残念だ……」
「映像と言うのはだな、実は俺がショッピにこっそり透視魔法を掛け、キミが闘っているところを見ていたのだよ!!!」
「いやぁ……実によかった……」
「盗撮やないっすか」
「まあまあそんなことは些細なことだ……」
「些細ではない気が……」
「本当によくやってくれた!!」
「期待以上の土産だ!!!」
「報酬は弾んでおく!!今はゆるりと休んでいけ!!そして組織に加入しろ!!」
「ではな!!ハーッハッハッハ!!!」
突然来たと思ったら、直ぐに彼は帰っていった。
壊れたドアから。
そのままシャオさんと顔を見合わせ、「・・・」と空白を開けてから、プハッ、と笑い、「アイツ嵐かよww」と言い合った。
「はー、ショッピ君も大丈夫そうやし、俺はもうそろ帰ろかな」
「え?帰ってまうんですか?というか、俺も帰れるんかと思てました」
「一応念の為に、って言うてたわ」
「明日迎えに行くで待っといてや」
「あっはいわかりました」
「シャオさんなら大丈夫でしょうけど、気を付けてくださいね」
「おう、ほなまた明日ね」
シャオさんは大股で扉の方へ近づいていき、ヒラヒラ〜、と手を振って、部屋を後にした。
その際に、シャオさんはちゃっかりと扉を修復していた。
* * *
翌朝、俺はシャオさんのお迎えでシャオツネに乗り白城をあとにして、帰路へと着いた。
そこから三時間ほど馬に揺られ、やっと見慣れた森の景色が見えた。
俺たちの家は、白城と同じく森に囲まれており、その森の周りには、シャオさんが張った大結界がある。
シャオさんや俺以外の人物が立ち入ろうとした場合、容赦なく燃やされる式だ。
入ってきた者がフロントリフェなら一発軽い電撃が落とされて終わりだが、へクセなら一発で死ぬよう、電撃の後に斬撃、炎撃というふうに魔法が発動するらしい。
へクセかわいそ。
シャオさんは一応五属性全て上級魔法レベルまで使えるらしいが、シャオさんの得意な属性は雷属性と炎属性らしい。
雷属性と炎属性には劣るが、風属性も一応得意ではある、とのこと。
雷属性と炎属性は特級レベルの魔法を使える。(なんなら開発している側である。)
風属性も特級魔法を使えるが、開発できるくらいのレベルではないらしい。
いや、全部上級魔法を使える時点で大分凄いけどな。
ちなみに俺もシャオさん指導により、五属性全ての魔法を扱えるよう扱かれたが、どうも土属性の魔法だけは苦手だ。
風属性とは相性が悪いからでもあろうが。
風属性が一番の得意であり、風属性の魔法なら一級レベルの魔法を扱える。
これはドヤ顔をしても良いだろう。
土属性の魔法だけは未だに三級だが。
家に着くと、すぐさまシャオさんはコートを脱ぎ、お茶を入れ、椅子に座った。
シャオさんこだわりのダークブラウンのアンティークな椅子である。
シャオさんはちょいちょい、と手招きをして、とんとん、と己の膝を叩くと、『あぁ、膝に座れということか』と意図を察し、そちらまで歩いた。
俺の脇の下に手を差し込んで、ひょい、と抱き上げると、俺を膝の上に乗せた。
シャオさんはこの世界の男にしてはまぁ少し小さいな、くらいの身長で、百七十前半ほどの身長しかない。
対し俺は、まだ子供なので、百三十五後半から、百四十前半ほどの身長だ。
なので、シャオさんの膝の上に乗るのに、ピッタリなサイズなのだ。
「今回さ、戦ってみてどうやった?」
そうシャオさんは口を開くと、角張った骨が浮かぶ手で、俺の頭を撫でた。
親鳥が雛鳥の巣立ちを見守るような目つきで、赤ん坊を撫でるような手つきで。
暖かい微笑を浮かべ、くせっ毛の短い髪を、褒めるように撫でた。
「……そうっすね」
「この前シャオさんが言ってたみたいな戦法を使ったのですが、格上の相手にはそれは通じにくな、と思いました」
「上の相手でも通じるとは思いますが、格上となると、一撃に耐えてくるので、ボロボロの身体では倒せないな、と」
「あと単純に油断もしてしまったので、そこは反省ですかね」
「……よし、そこまでわかっとんのやったら俺から言うことはなんもないな」
「引き続きショッピ君は魔法の習得ね」
「全部特級までいかんくてええから、一級魔法は全属性使えるようになっらんとな!」
「これからもっっっっとビシバシ厳しくハードに鍛えるから覚悟してな♡」
「えっ…………」
「さーてと、俺腹減ったしなんかショッピ君ご飯作って〜」
シャオさんはわざとらしくそう言ってから、俺を地面に下ろすと、今度は頭を揺らすように、わしゃわしゃとかきまぜるように頭をひとつ撫でた。
そのままシャオさんは風呂の方へ行き、「先に風呂入るんだな」と思い、俺はさっさと料理へと取り掛かる。
トントン、と刻む包丁の音が心地よかった。
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「ひぃ……!!!!た、助けてくれっ……!!」
「すんまへんなぁ、こっちも仕事でやってんねんそういう訳にはいかんなぁ」
「俺の名前はショッピ・アメジスト……、冥土の土産に覚えときや」
「お前っ……!あのシt」
そうなの知らない男がセリフを吐く前に、ザシュッ、といい音を鳴らし、彼は絶命した。
男の吐くセリフの続きが気になったのか、紫の男は、眉を顰め、首を傾げた。
(シ……その後に何続くんや?もうちょい待てば良かったなぁ……)
そんな紫の男のなはショッピ・アメジスト、本名⬛︎ョ⬛︎⬛︎ピ⬛︎⬛︎・⬛︎⬛︎リ⬛︎。
彼がかの絶対防御の魔女、シャオロン・シトリンこと”おしゃおさん”(これからは”シャオさん”と呼ばせてもらうが)に拾われてから約七年と半年。
彼は十六歳になった。
と言っても、魔女の平均寿命は二百年〜三百年、魔女としての年齢で言えば五歳から八歳ほどだ。
そんな五から八歳ほどの新米魔女が、史上最年少で特級魔女になったのだ。
なったのは一年前、上級魔女を難なく殺し、風属性の特級魔法を会得したのだ。
ちなみに、シャオさんからは『特級魔法を三、四個くらい使えんと俺は特級魔女とは認めんぞ!!』とのこと。(デジャブ……?)
俺が記録を塗り替えるまでは史上最年少年齢は魔女年齢で言うところの十歳らしい。(この記録を塗ったのはシャオさんとのウワサとある。)
ショッピ・アメジストは、フロントリフェの、フロントリフェの為の組織通称”我々だ”の幹部にまでのし上がった期待の新人。
皆、幹部には何かしらの異名が与えられる。
例えば、シャオさんなら”絶対防御の魔女”、と言うふうに。
彼には、”風の申し子”という異名が付いた。
幹部になる瞬間、その時に総統であるグルッペン・フューラーにより異名を授けられる。
この異名もグルッペン・フューラーから承ったものだ。
恐らく、俺の得意魔法が風属性だったからだろうな、そんな予想はつく。
そんな俺は今、シャオさんに拾われた家へと足を向けている。
恐らく、この時間帯ならば庭で育てている魔法ジャガイモ……の水やりをしている頃だろう。
彼は、歩きなれた土の道をしっかりと踏み込み、地を蹴る。
ジャリッ、ガリっ、と石が土を抉る音が軽快に鳴る。
その心地が良く、結界に覆われた森に入り、彼は特に何も考えず歩き進んで行くと、ようやく、見慣れた家が見えた。
家を囲む自身の半分ほどの石垣に付いた木でできた柵を開き、閉じる。
約七年と半年程で俺は、身長が百八十一センチメートルにまで伸び、すっかり今ではシャオさんを越してしまっている。
『あぁ!!!俺の可愛いショッピ君がァァァ!!!キャーーー!!!!』とシャオさんは叫んでいた。(シャオさんは約百七十センチメートル前後の身長である。)
そのまま道を進むと、庭が見えてきた。
見えてきた庭にはシャオさんはおらず、水やりが終わったのだろうか、と考えた。
銀色の鍵で扉に突き刺す。
ガチャリ、と鉄が鉄をぶつけ仕掛けが作動し、扉が開く音。
ドアノブを掴み、きぃぃ、と鳴らして古い扉はゆっくりと開いた。
「ただいま戻りました」
「あ、ショッピ君やん。おかえり」
「丁度ショッピ君を待ってたとこやってん」
「あ、そうなんすか」
「コーヒー、入れましょうか?」
「頼むわ」
彼は、俺を待っていたらしく、コーヒーはもう飲み干してしまったようだったので、コーヒーのおかわりをもうしでる。
やけに据わった目で彼は俺を捉えた。
俺は、普段シャオさんのヘラヘラとした何も考えていなさそうな(失礼やなと、脳内シャオさんは言っている。)優しい笑みを浮かべるシャオさんとは似つかわしくなく、俺は少し違和感を覚えた。
まるで、これから嵐を予兆する立ち込めた雲のように。
俺はコートを脱ぎ、お気に入りの紫色のライダージャケットだけの姿になり、キッチンへと赴く。
ジャリジャリ……とゆっくりコーヒー豆を惹き、お湯を沸かす。
ろ過器の中にコーヒー豆を入れて三十秒ほど待つと、カチッ、と音が鳴り蓋が開く。
カップを用意し、コーヒー豆をセットして、お湯を注ぎ込む。
一分程だろうか、それくらいの時間でコーヒー豆を蒸してから、もう一度お湯を注ぐと、立派なコーヒーが完成した。
シャオさんはコーヒーが好きらしく、家には本格的なコーヒー入れ機しかない。
なので、コーヒーを入れる時、よくシャオさんに指導されたものだ。
シャオさんは甘いものは好きではなく、砂糖をコーヒーに入れることは無い。
なぜコーヒーは立派なものを入れられるのに、料理はまともに出来ないんだろう……と常々思う。
コーヒーに関しては、俺は未だにシャオさんには敵わない、無論、師匠としても敵わないが。
一度、シャオさんの得意料理が気になって聞いたことがあったのだが(あまりにもシャオさんが料理が出来ないので)『ホットミルク』、『え?』、『ホットミルク』、『え…………?』という会話もした事がある。
アンタそんなにコーヒー好きなのになんで得意料理ホットミルクなの?あとそれは料理の内に入るのか?、と思ったな。
そして、ついでに俺の分もカップを用意しコーヒーを作ると、テーブルの上に置いた。
シャオさんは、コーヒーに一口、口を付けてから、覚悟を決めたように俺に話しかけた。
「……実はさ、ショッピ君ももう一人前の魔女になったし、もう知ってもらってもええかな、と思って」
「それに、いつかわかる事ではあるからさ」
あぁ、もうこんな時が来てしまったのか。
昔、シャオさんに拾ってもらった時のことを思い出す。
『俺の名前を知ったのがへクセだったら軽く死刑かな。フロントリフェだったら神の遣いだ!っていって崇拝されるんじゃない?』。
その言葉を。
恐らく、これから話すことはシャオさんに関する大事な事なのだと簡単にわかる。
「えっと……なにから話そうかな……」
「まず、ショッピ君にはこの本を読んでもらいたいかな」
スっ、とシャオさんは古く焼けた本を差し出した。
その本を手に取って見ると、ザラ、とした感触が手に着く。
そのままページの一枚目を捲り目に通す。
『──────⬛︎⬛︎⬛︎年。
シャオロン・シトリンにより第一次魔女世界大戦が切り開かれる。
その際、シャオロン・シトリンはへクセ、フロントリフェのほとんどを皆殺しにし、へクセ、フロントリフェ共に壊滅寸前にまで追い込まれた。
その事が引き起こされたせいか、シャオロン・シトリンの生家である、シトリン家に責任を取らそうとしたが、シトリン家はもう既になくなっていた。
シトリン家は何者かに襲撃されていた。
その襲撃時に辛うじて生き残ったシトリン家の生き残りと、シトリン家の分家に当たるアメジスト家は、お互いに別れこの世界のどこかで生き残っていると予測される。
──────⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎年。
第二時魔女世界大戦がへクセがフロントリフェの幹部の内一人に重症を負わせた事により、組織”我々だ”により引き起こされる。
組織”我々だ”による魔女の猛攻は凄まじく、へクセ側は壊滅状態にまで追い込まれるが、なんとかもち堪えた。
その際、前線に出た魔女、”シャオロン・シトリン”、”ゾム・ペリドット”、”コネシマ・ターコイズ”、”ヒトランラン・アクロアイト”、”トントン・ルベライト”、”ロボロ・ローズクォーツ”、”ウツ・タンザナイト”の主な活躍である。
以降、上記に上げた七人はフロントリフェ側に有利の功績を築き上げたことから、神の遣いだ、と言って崇拝される事になる。
そして、今もどこかで、この組織”我々だ”も生きており、彼らは全員歳を取らない、と言う噂が出来上がっていた。
真相の方は定かではないが。』
凄く詳細に書かれていたため、所々端折ったが、大体この様な事が書かれていた。
まず、一つ分かることがある。
恐らく、俺はその”シトリン家”の末裔で、そのせいでへクセに家族を殺されたのだと。
「……ごめんね。ショッピ君の家族は俺が殺したと言っても過言じゃない……。だって俺の名前は、その本にも書いてある、”シャオロン・シトリン”だから」
「…………は………………?」
「え、え、……それも、しょ、衝撃的なんですけど、シャ、シャオさんはいつから生きてはるんですか……?」
「というかなぜ魔女の限界寿命を超えて生きてられるんですか……?」
「この第一次魔女世界大戦は少なくとも今より千年前の話だし、第二時魔女世界大戦では今より六百年程まえの出来事のはず……。」
「それは、グルッペンの固有魔法の効果やねん。グルッペンの固有魔法は時間操作……、通称”時間を司る魔女”」
「自身の触れた物体、もしくは生き物の時間を操ることが出来る。その効果によって俺たちの体は老いないし、若くなることも無い」
「だから俺たちは千何百年と生きてられる」
「そ、それと……アメジスト……ってシャオさんが俺に付けたの名前やないですか……、それはどういう、事なんですか…?」
「……実はショッピ君はシトリン家の血と、シトリン家分家のアメジスト家の血が半分半分で流れてて……。」
「ほら、今の時代って結婚したら父方の方の苗字を取るでしょ?だから、ショッピ君のお母さんの方の性はアメジストで、お父さんの方はシトリンだった、だからショッピ君の名前は元々シトリンだった」
ショートピース・シトリン。
これが俺の元々の名前だ。
そして、シャオさんが付けてくれた名前はショッピ・アメジスト。
……これは、母さんの方の性から取ったものだったのか。
さり気なく、シャオさんは俺の家族の事をリスペクトしてくれていた。
が、それは皮肉にも、俺の家族が殺された原因を作ったのは、シャオさんだった。
俺の家族が殺された原因はこう。
シャオロン・シトリン、というへクセ側に最も脅威を与えた魔女として名を馳せていたシトリン家は、実はシャオロン・シトリンのみが強く、他は弱かった。
だから、シトリン家はひっそりと隠れて今も生きていた。
もちろん、アメジスト家も。
そのひっそりとした中で、俺の母さんに当たる人物と父さんに当たる人物がまさかの偶然で出会ってしまい、その間に俺が生まれた。
逢い引きとも言える瀬で、父さんがシトリン家、母さんがアメジスト家の者だと、近くを徘徊していたへクセに見つかってしまった。
へクセは、かのシトリン家の生き残りを見つけた事により、ソイツらを消そうとした。
が、シトリン家はあのへクセを壊滅一歩寸前まで追い詰めた家系。
慎重に消そうと練たへクセはその後も何年も監視を続けていた。
そこで気付いてしまう。
シトリン家は、”シャオロン・シトリン”という人物が強いだけで、その他のシトリン家の人物はそんなに強くないことに。
そこでやっとシトリン家壊滅作戦が実行され、俺の家族は殺された。
そう、全ての元凶は、シャオさんだったのだ。
気付くと、俺の頬からは冷たい水滴がホロホロと伝い、地へと落ちていった。
目からは、暖かい水が込み上げてきて、それと同時に呼吸も荒れる。
「……ははは、アンタ、もしかしてやけど、『自分のせいで家族を失ったから』そんな罪悪感だけで俺を拾ったんですか?」
「そうやとしたなら、ホンマに滑稽ですね。いや、滑稽なんは俺の方か……」
「っ……そんなことは……」
「シャオさんは黙っててください!!!!」
自分でもこんなに大きな声が出るんだと、初めて知った。
多分、人生でいちばんの大声だったと思う。
……出したのは最初で最後だろうが。
「あ、ショッピ君!!!」
俺はなにも考えず走りだし、古い扉を勢いよく開ける。
ガタンッ、と言って扉の金具が一つ外れた。
シャオさんが俺を引き留めようと手を伸ばしているのところで光景が止まる。
家から随分離れたところで、俺は大きな木の下に座り込んだ。
突っ伏した腕の中で、涙がこぼれ落ち、止まらない。
ひくっ、と嗚咽が漏れ、ぐちゃぐちゃとした感情が渦巻く。
とても大切だった人は、自分のかつて宝物を失った原因だった。
俺は、憎めばいいのか、恨めばいいのか、それとも。
あぁ、考えがまとまらない。
シャオさんは俺に生きる目的を与えてくれた。
だが、そもそも俺が死にたいと思うほどの絶望を味わったのはシャオさんのせいだった。
どうすればいい。
どうすればいい。
俺は、辺りを一度見渡し、腕に顔をうずめる。
腕に涙を落とす時、夕焼けに照らされた草が、ゆらゆらと揺れていた。
* * *
あぁ。
あぁ。
やってしまった。
が、仕方ないか。
彼の両親は、俺のせい、と言っても過言ではないほど俺が原因だった。
こうなることはわかっていたけれど、やはり辛い。
こうなるとわかっていたのに、覚悟はしていたのに、辛いものだ。
確かに、ショッピ君の言っていた通り、俺は罪悪感からショッピ君を拾った。
俺は、椅子から立ち上がったまま、手を伸ばしたまま、手を引っ込め、椅子に座る。
髪をかき揚げ、はぁ、とため息ひとつ。
「はは……」
乾いた笑い。
ただ、天井を仰ぐ。
ごめん、ごめんな。
そう思いながら、シミ一つない暗く茶色い木の天井を見つめる。
ゆっくりとした動作で机に視線を向けようとした刹那、顔面に酷い衝撃。
バコーン、という大きな音が鳴って、俺は壊れた扉から外へと吹っ飛ばされた。
もう既に、この時が来てしまったな。
俺は収納していた木製の杖を取り出し、相手に向ける。
「お前、へクセやな」
「結界が全く感知せんかった、どうやったんや?お前」
「ふふふふ………」
「お初にお目にかかります。絶対防御の魔女。そして、さようなら」
「は?」
今度は腹にもう一度一発左ストレートが華麗に入る。
入る、どうして。
俺は防御魔法を貼った。
つまり、俺に対するいかなる攻撃も全く効かないということ。
なのに、聞いた。
しかも、その瞬間が見えなかった、が、その瞬間は瞳が赤く染まった。
つまり。
「……お前、固有魔法が瞬間移動系か」
「流石、現代最強の防御の魔女と呼ばれるお方。このくらいは簡単にわかってしまいますか」
「が、貴方と私の相性は悪い。悪すぎる。貴方の得意な防御魔法を向こうかされ、ただ私に蹂躙されるのみ。さあ、貴方の首を持って帰り、私は更なる出世を果たすのです……」
腹を蹴られる。
こいつの固有魔法は瞬間移動。(仮定とするが。)
俺が防御魔法を貼った瞬間、防御魔法の中に転送して殴るのだ。
防御魔法は、外部からの攻撃には完璧に防ぐが、内部からの攻撃は脆い。
文で説明してもわからないとは思うが、イメージ的には、部屋があるとして、その部屋の壁が防御魔法で、その中に俺がいる状態。(防御魔法展開時)
言わば、扉も窓もない密室の中に、この男は瞬間移動で転移し、部屋の中に入り俺を攻撃する。
そんな感じだ。
俺はまだ固有魔法がある。
このままでは殺られてしまう。
ので、固有魔法を俺は発動させた。
固有魔法を発動したのは何百年ぶりだったか。
少なくとも、三百年は使わなかったと思う。
固有魔法、未来視。
それが俺の固有魔法。
その名の通り、未来を見ることが出来る。
条件は魔力。
見たい人物の魔力を取り込む事により、未来を見ることが出来る。
取り込んだ魔力の量によって、見られる未来の時間は長くなったり、短くなったり、逆に正確さが下がったり、上がったり。
取り込んだ魔力の量が少なければ、数年先の未来までしか見られないし、正確さは下がる。
結局は未来が見られるのだ、みた未来が変わるということも全然ある。
取り込んだ魔力の量が多ければ、正確性が上がり、数十年先の未来を見ることが出来る。
そんな固有魔法だ。
自分に起こる数秒先の未来を俺は見る。
目の前にはあの男。
レイピア状の剣を持っている。
俺は切られている。
一歩、俺は後ろに下がると、案の定目の前に転移してきた男の剣を避けた。
スカッ、と空振り、後、ブォン、と言った風を切る音。
「ほぉう。今のを避けるとは」
男はそう呟いた。
こいつ戦う魔女か。
そう確信した。
戦う魔女は、その名の通り戦う魔女。
普通の魔女とは違い、杖を使わず、代わりに、魔力を司る水晶を装備した剣で戦う。
戦う魔女は、魔女に取って、天敵だった。
何故なら、ポレミスティスは接近戦が得意だから。
通常、魔女同士の戦いは魔法の撃ち合い、すなわち遠距離攻撃での戦いだ。
遠距離攻撃が得意な魔女たちは、接近戦に酷く弱い。
接近戦に強いポリミスティスは、魔女たちを簡単に仕留めることが出来る。
では、ポリミスティスは遠距離攻撃は弱いのか。
否、断じて否。
ポリミスティスは魔女でもあるのだ、遠距離攻撃に弱いはずがない。
ポリミスティスは、魔女を狩る事に特化した存在なのだ。
接近戦になれば魔法を使い剣で斬る。
遠距離攻撃になれば魔法を放つ。
ポリミスティス一人いれば戦況が変わるほどだ。
魔女を狩る魔女であるへクセは、魔女を狩ることに特化したポリミスティスを多く保有している。
逆に、フロントリフェは、あまりポリミスティスがいない。
フロントリフェの名称は清き魔女、つまり魔女を狩ることを目的としていない。
実際、へクセの上級魔女の半分はポリミスティスだ。
まぁ、特級のポリミスティスはいないが。
フロントリフェ側組織”我々だ”は特級魔女を十二人おり、そのうちの三人がポリミスティス。
その三人は、”ゾム・ペリドット”、”コネシマ・ターコイズ”、”ヒトランラン・アクロアイト”。
ゾムは内部に柄の先の部分ち水晶が着いており、コネシマは水色の大剣のガードとヒルトの真ん中の部分に付いている。
ひとらんらんは刀の鞘に入っていて、抜くと同時に魔法が発動する仕掛けだ。
今、俺と対峙するこの男は、恐らく特級のポリミスティス。
へクセに特級のポリミスティスがいると聞いたことはない。
つまり、この男はずっと存在を秘匿されていたか、なりたての特級魔女。
いつもならば、俺に分があっただろうが、今回は俺が負けそうだ。
まず一つ。
コイツと俺の得意魔法、固有魔法の相性が悪すぎる。
まず二つ。
魔女を狩ることに特化した魔女ポリミスティスとの戦闘は、俺にとって最悪。
戦闘の経験値としては俺の方が確実に上だろうが、それを入れても、俺の方が分が悪い。
「天下の魔女様も渡し相手では戦いづらいようですね?」
クスクスと笑いながら男はそう言った。
固有魔法を全力で酷使し、俺はなんとか攻撃を避けている。
タン、と後ろの下がる。
「おや?私の動きが見えているようですね。それなら……」
男は、転移を辞め、とんでもないスピードでやってくる。
未来が見えていても、これは避けきれない。
「こうするまでですよ」
ガコーン、と土を蹴ってこちらへ向かってくる。
土がえぐれる。
剣を構え、俺を斬った。
ブシュッ、と血が吹き出る。
肩から胸にかけて、傷が出来ている。
黄色のオーバオール状の服が血に染まり、額から汗が滴る。
男は、俺が未来を見えていると気付き、転移をやめ、未来が見えていても避けられないスピードで動き、俺を斬ったのだ。
防御魔法を張れば転移で潰し、未来が見えれば、見えていても避けられないような早いスピードで俺を攻撃。
相性が悪すぎる。
とことん俺の得意な魔法を潰してきやがる。
男は俺の腹を蹴り、木の下まで吹き飛ばされる。
木に背がぶつかり、痛む。
杖が手から落ち、頭が重く目線が下に下がる。
「これで貴方はおしまいです」
「なにか遺言は?」
剣が俺の首に突きつけられ、首から血が一筋垂れる。
思い頭を持ち上げ、俺は男を見据えて、こう口を動かした。
「ばーか」
男は、剣を上へと持ち上げる。
振りかぶる。
剣が、下に下ろされる。
その瞬間、俺は走馬灯を見た。
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s h a 視点
俺の生まれた家は、酷く狭かった。
いや、家とか、敷地とかで言えば、とてつもなく広いのだが、居心地が悪く、狭い檻に閉じ込められた鳥のような感覚。
俺の先祖は、中々の実業家で、金はあった。
家の敷地には山が二つあり、森も、林も、川も、あった。
生家、シトリン家は宗家、分家とある。
分家のほうは苗字が違うのだが、同じ血は流れていた。
シャオロン・シトリン。
それが俺に与えられた名前。
この家は、代々固有魔法:未来視を受け継いで出来た家であり、固有魔法の未来視を受け継げられるのなら、政略結婚もお手の物だった。
曰く、固有魔法である未来視を使い未来を見ることで、株の安い時期がわかり、その時期に株を馬鹿みたいに買い、高くなる時期がいつかみると、その時期に株を売る。
そうやって繰り返し、金を稼いだ。
逆に、ポーカーやブラックジャック、バカラ、テキサスホールデムやらなにやらを、未来視で相手の手札を読み、荒稼ぎしたり。
それによりシトリン家は大富豪の仲間入りを果たしたのだ。
シトリン家は、こうやって金を稼いだが、未来視の魔法を受け継がない限り、シトリン家の未来はない。
シトリン家は、未来視の使える者を中心に子を孕み、未来視を紡がせてきた。
通常、固有魔法はその人個人に宿るものだが、その者に子が出来ると、その子の固有魔法は親と似た魔法が固有魔法になる事が多い。
例えば、炎が固有魔法なら、子は火が固有魔法だったり。
固有魔法は、皆個人に宿るが、固有魔法は誰一人として被ることはない。
なので、この世に固有魔法が未来視の者が二人いるなど、いないのだ。
未来視の固有魔法を残す際、寿命、もしくは死ぬ目処が立った際に性行為を行い子を孕ませる。
何人もの女に。
生まれた子供が未来視の宿り主だった場合、その子供の母親はシトリン家に仲間入りする。
固有魔法、未来視が宿った者が女なら、目を抉り男に移植し、また子を女に孕ませる。
何故、女が未来視を宿らせてはいけなかったのか。
女が子を孕んだとしても、固有魔法は確実に未来視になることはないからだ。
女が死ねば当然赤ん坊は死ぬ。
今ほど医療が発達していないから。
仮に女が死んで赤ん坊が生き残っても、固有魔法が未来視になる確率は低い。
確実に未来視を残す為には、男が沢山の女を孕ませ未来視を宿らせるしかなかった。
ここに、もうひとつの問いが生まれる。
目を抉りとることは何故か。
固有魔法はその人個人に宿る。
問題は、宿る部位だ。
例えだが、固有魔法が身体能力の強化ならば、身体全体に宿る。
固有魔法:未来視は目に宿る魔法。
つまり、未来視を使える者の目を他の者の目に移植すれば、移植された者は未来視を使う事が出来る。
だから目を移植するのだ。
しかし、シトリン家は物凄く弱かった。
そう、魔女とは思えないくらいに。
未来視を使える者は当然のように弱く、よく襲われる事があったのだ。未来の宿る瞳を狙って。
そこで出てくるのがシトリン家分家、アメジスト家だ。
アメジスト家はシトリン家とは違いたいそう強かった。
魔女界三大最強家系になるほどには。
アメジスト家は固有魔法が重力関連の者が多く、重力で潰殺してきた。
シトリン家の護衛としてアメジスト家は存在している。
シトリン家の一人一人にアメジスト家が一人つく。
未来視をもつ者には、アメジスト家で一番腕の立つ者が護衛につく。
当然、例にも漏れず俺にも護衛は付いていた。
俺は、シトリン家二十二代目次期当主として育てられていた。
固有魔法:未来視が俺に宿ったのだ。
しかも、俺は固有魔法:未来視に非常に適正があり、今までの固有魔法:未来視の者たちの中で一番の使い手だった。
今までの固有魔法:未来視は数年先の未来までしか見られなかったが、俺はその十倍である数十年先の未来も見れ、本気を出せば百年先の未来も見れた。
これまでは、どれだけ遠くても十数年先までの未来までしか見られなかったらしい。
その事実がわかり、皆、歓喜した。
それはそれは、本当に滑稽なほどに。
それ以来、俺は特別だからと言って家からも出して貰えず、ずっとずっと経済の勉強に、心理学、トランプや囲碁、チェスなどのゲームも勉強させられた。
俺はそれが、すごく、すごく、息が詰まった。
よく家を抜け出しては、魔法を研究していた。
当時、今ほど魔女はおらず、魔法も発達していなかったし、すべての魔法は自力で生み出す他なかった。
経済や金の勉強では無く、俺は魔法の研究をしたかった。
が、そんなこと、家は許してくれるはずもなく。
逃げては直ぐに捕まえられ、逃げては捕まえられ、勉強させられ、時には罰として敲刑(昔の罰で、竹で背中を叩く刑のこと。)にさせられたこともあった。
しかも、俺の瞳は今までの固有魔法:未来視の者たちとは違い、黄金の瞳だった。
固有魔法:未来視を司る者は何人も例外なく、瞳が赤色で、固有魔法を発動する時、赤い瞳がより赤い、深紅の瞳に染まるらしい。
俺の瞳は鑑賞としても価値があったのか、よく鑑賞された。瞳を。
世にも珍しく美しい黄金の瞳に、未来視を宿す目、これで欲しくない者などいなかった。
そのせいで、俺はよく誘拐に攫われ、人身売買場に売られ、散々な目にあった。
家は、俺という唯一無二の未来視を宿す道具を失いたくなかったせいで、家からは一歩も外に出られず、庭にすら出れず、勉強に勉強、誘拐に誘拐、それの繰り返し。
俺はもう、我慢の限界だった。
檻に閉じ込められ、綺麗な青空は拝めず、庭で遊ぶ同族たちを眺める日々。
魔法を勉強したくて、研究したくて、でも出来なくて。
俺は、自由な空を見てみたかった。
そして、その夜事件は起こった。
溜め込んでいた感情が爆発し、俺は同族たちをほとんど殺してしまっていた。
固有魔法:未来視が強く顕著に表れた俺は、無論魔女としての素質も高く、未来視を使えるようになってから十数年で未だ解析、理解されない最強防御魔法を開発した。
その防御魔法でアメジスト家からの攻撃をかき消し、得意だった雷属性と炎属性の魔法を混ぜ合体させた魔法フォティアケラヴノース、という魔法を使った。
もちろんすべて独学だ。
それにより、シトリン家の人間をほとんど殺し、アメジスト家の方が生き残った人数は多いが、ほとんどを抹殺した。
俺はその時初めて家を出た。
晴れた青空だった。
太陽がさんさんと照って、雲が太陽の周りを囲むように存在して、水っぽい、青っぽい無限に広がる青空を見て、思わず、俺は涙した。
なんて綺麗なんだ。
なんて広大なんだ。
なんて、
なんて、
自由なんだ。
そう思った。
あぁ、空よ、はじめまして。
そう空に、心の中で声を掛けた。
* * *
百年あまりをあの家で過ごし、十数年ほど、世界中を旅して放浪していた。
その中で、とある人物と出会った。
フロントリフェの組織”我々だ”創立者であるグルッペン・フューラーだった。
その時はまだフロントリフェの数は今よりかは多く、へクセとフロントリフェの数が同等ほどだった時、彼は言った。
『いつか、俺はフロントリフェの、フロントリフェの為の組織をつくってみせる』と。
俺はその言葉で未来を見た。
彼が黒のコートを着て、名を馳せる姿を。
その男は、俺に未来の話をする時、すごく楽しそうに話すのだ。
男に、『組織”我々だ”をつくったら、絶対俺をその組織の一員にしてな!』と言った。
『もちろんだ!』と男は言った。
そんな男の姿が、俺にとって光だった。
初めてできた大切なもの、初めて聞く面白い話、初めて経験した友達との遊び。
男といて俺は、すごく心の底から救われていた。
それからまた、十数年が経った。
男に会ってからもずっと俺は交流を続けていて、手合わせをしたり、酒を飲んだり、それなりに関係を築いていた。
とある日に、いつも通り待ち合わせに着くと、男がくるまで俺はずっと待っていた。
が、来なかった。
男は、今まで一度も約束をすっぽかしたことはなかったし、ましてや、遅れることなどなかった。
これは男の身になにかあったに違いないと、俺は男の行方を調べた。
調べるまでの道の乗りが長いので結論から言おう。
男は、誘拐されていた。
それも、俺の身代わりに。
当時、へクセとフロントリフェは少しでも波が立てば戦争というくらいには白羽が立っていた。
へクセは、グルッペンを使い、フロントリフェに戦争を仕掛けようとしていた。
その時は魔女の階級で特級魔女という階級はなく、一番上が上級魔女までだった。
へクセは、上級魔女であったグルッペンを攫うことにより、フロントリフェの戦力低下と、士気が下がり、隙が出来ることを狙い、攫ったのだ。
この時、本当は俺を攫う予定だったが、情報が上手く伝わらなかったせいで、誤情報が伝わり、グルッペンが攫われた。
『金色の瞳の男』という情報を誤り、『金髪の男』という風に伝わっていたからだ。
俺の固有魔法『未来視』でこれからのへクセの行く末と、フロントリフェの取る策略を知りたかったから、俺を攫いたかった。
誤情報によりグルッペンが攫われた。
しかし、攫ってくる男が違うと気付いていたが、グルッペンを攫っても戦力の低下には繋がり、士気を下げることも出来る、グルッペンの固有魔法『時間操作』を上手く使えばフロントリフェを殲滅できる、そう気付いてしまった。
その事実に、俺は心底へクセを軽蔑した。
だが、それだけでは悲劇は済まなかった。
フロントリフェに宣戦布告したへクセは、戦争をおっぱじめた。
フロントリフェはその宣戦布告にへクセと同じ戦略を取ったのだ。
へクセの上級魔女を誘拐し、へクセに更なる宣戦布告を捧げた。
へクセは、グルッペンを誘拐することで士気の低下を狙ったが、思惑通りにはいかず、逆にフロントリフェの士気を上げてしまった。
フロントリフェは、『グルッペンを連れ戻せば、戦力増加に、更に士気が上がる』そう思ってしまったから。
そのことにより、第一次魔女世界大戦を開幕。
俺もフロントリフェ側に参戦を強制されたが、いかなかった。
何故なら、俺はフロントリフェとへクセに嫌悪したから。
へクセはグルッペンを戦争を始めるための道具として、フロントリフェはグルッペンをただの戦力兵器としてしか、見ていなかった。
ずっと、グルッペンがフロントリフェとしていたから、フロントリフェの為の組織をつくろうとしていたから、俺はフロントリフェ側だった。
けれど今、もうどうでもいい。
自分の一番大切なグルッペンを傷つけるくらいなら、俺がすべてぶっ壊してやる。
赤色の水晶を司った木製の杖はさらに、血に近い赤色の水晶に変化し、水晶に映った首にある白色の紋様が、すぅ……、と消えていく。
通常、魔女の紋様は何があっても消える事は気ない。
魔女の紋様とはなにか。
魔女の紋様とは、魔女の所属陣営を示す証のようなもの。
魔女の紋様はへクセ、フロントリフェの所属陣営を黒、白によって証明することが出来る。
では、ここでひとつ疑問が生まれる。
へクセでも、フロントリフェでもない魔女の場合は?
答えは必然、フロントリフェでもへクセてもないのなら、首の紋様で表すことが出来ない。
つまりは、首の文様が消える。
表すことが不可能であるから。
紋様のない魔女、幻の第三陣営、” 魔女を狩る魔女”が誕生した。
彼ことシャオロンは、魔女を狩る魔女として、その名の通りフロントリフェ及びへクセの殲滅を目的とし、戦場に舞い降りた。
彼の得意な炎系雷系攻撃系統魔法上級魔法を使って。
フロントリフェ、へクセともに数百人という人数まで数を減らした。
これまでの出来事が、第一次魔女世界大戦、というなのシャオロン・シトリンによる魔女大量虐殺。
この第一次魔女世界大戦を別名、”魔女狩り”と呼んだ。
それから更に数十年を経て、彼はグルッペンと再会した。
何故グルッペン氏が生きているか。
グルッペン氏と幼馴染であるトントン氏により、グルッペン氏は救出されており、その事実はフロントリフェ、へクセともに気付いていなかった。
なにせ、シャオロンによる大量虐殺で数を減らしたへクセは、生き残る為にグルッペン氏を捕らえていた基地を捨てたのだから。
その隙にトントン氏がグルッペンを救出し、無事生き残ったのだ。
そのまま生き延びたグルッペン氏は、フロントリフェの、フロントリフェの為の組織”我々だ”を設立し、グルッペン氏と再会したその瞬間に彼はグルッペンの固有魔法により歳を取っていない。
そして、グルッペン氏に再会したことにより、彼は再び清き魔女へと舞い戻った。
その後の第二時魔女世界大戦では、へクセに大打撃を与えた存在として、汚名は回復しフロントリフェからは神の遣いとして祀られるようになる。(その後、へクセからは、悪魔や!、と言われ罵られることになる。)
更に千年程が経ち、今に至る。
──────────────────
s h a 視点
剣を振り下ろされる刹那、男が勝手に吹っ飛んだ。
え、と間抜けな声をひとつ零してから、男の吹っ飛んだ方向へ目線を向ける。
そこから、吹っ飛んでいった真逆の方向を見てみると、紫色の彼のすがたが見えた。
彼の顔を見てみると、目が腫れ、鼻からは鼻水をたらし、目元が赤くなっているのがわかり、先程まで泣いていたのだと推測できた。
「……シャオさん」
「ショッピ君……………?」
ショッピ君は、俺が教えた治癒魔法上位互換魔術”逆行回復”を俺に施した。
胸から肩にかけての大きな切り傷はある程度治った。
まあまだ傷は完璧には治っていないのだが、これでまだ俺は戦える。
肩の傷も先程よりかはマシだが、血がダラダラと垂れている。
俺の負った傷が深すぎて、ショッピ君の魔力量では足りなかったのだろう。
なにせ、逆行回復は特級治癒魔法なので、魔力もそれなりに消費するのだ。
俺の傷を死なない程度まで治すと、ショッピ君はまた泣きそうな顔をしてから、すっ、と引き締めた顔になり、吹き飛ばされた男の方向を見つめた。
「色々話したいことはありますけど、今はあとですね。アイツを倒すんが先やわ」
「うん。せやね。ふふふ、師匠と弟子が共闘して敵を倒すの、憧れやってん……!」
「そんなこと言えるんやったら大丈夫ですね」
「で?なんでシャオさんはそんなボロボロなんですか。相性悪かったんですか?」
「せや。相性悪かってんな、それが」
「アイツの固有魔法は瞬間移動。ま、仮定やけどな。……そいで、俺の防御魔法の中に転移して俺を殴ってん。しかもアイツ、戦う魔女やねん」
「んで、俺の固有魔法、ショッピ君は知ってるやんな?」
「はい。確か、未来視でしたっけ。チートですよね」
「ショッピ君も大概やけどね。……んで、俺が未来を視ても、アイツは俺が動けへんスピードで攻撃してくる。やからここまでの深手を久々に味わったんよ」
「……なるほど」
「なら、俺の固有魔法ならいけますね」
その言葉に俺はキョトン、とした間抜けな顔をしてから、俺はクスクスと笑った。
ショッピ君は、閃いたように俺の耳に言葉を紡ぐと、俺は更に、声を上げて笑った。
ショッピ君となら、コイツを倒せる気がする。
「師弟タッグといきますか!」
杖を持ち直し、ショッピ君と俺は背中合わせに立つ。
ショッピ君は紫色の杖を持って、魔法を展開した。
「コソコソと……作戦会議とやらはもういいですよね?」
男が、凄まじいスピードでやってくる。
ショッピ君が、こちらへと近付いた瞬間に風属性特級魔法を放つ。
風属性の魔法は魔法の中で最も射撃速度と、射撃したあとのスピードが速い。
なので、アイツにも攻撃は当たるだろう。
──────という囮。
その攻撃は、俺たちは当然当たる、そうお敵さんは思うだろう。
がしかし、俺たちはそれくらい予測済みで、その攻撃はあと一歩及ばず男に当たらない。
俺の固有魔法で未来を見たからな。
そして、俺の目の前に来た瞬間、防御魔法を展開し、俺ごと閉じ込める。
男は反射的に俺を殴り、俺は吹き飛ばされる。
殴る瞬間は必ず隙が生じる。
その間にショッピ君が男に触れられれば、俺たちの勝ちだ。
男は攻撃が当たらないことに気付き、避ける素振りもせずにこちらへと突っ込んできて、俺は防御魔法を展開する。
「また性懲りも無く………」
男は、今度は魔力で作った斧をもち、俺に振りかぶる。
その瞬間に潜伏したショッピ君が触れようとした時に、男はショッピ君を蹴り飛ばした。
「ショッピ君!!!!」
「私の防御魔法は効かないと知っているはずなのに、貴方は防御魔法を展開した……」
「それにはなにか作戦があったからそうした。彼が私に触れるために。それはつまり、あの新米の魔法なら打開できたから」
「が、しかし。触れなければいけない魔法だった。なぜなら、手に宿る魔法だったから。さらにそこから推測すると、その魔法は、あの新米魔女の固有魔法、ということなのではないか、と」
気付かれた。
ショッピ君の固有魔法、重力操作。
まだショッピ君が固有魔法をきちんと制御出来なかった頃に、判明した魔法。
固有魔法は身体全体、それか身体の一部に宿る特別な魔法。
ショッピ君の固有魔法はどこに宿るのか、それを知っていないと固有魔法を操ることはおろか、制御することもままならない。
なので、固有魔法の宿る場所を調べた。
魔力と、とても希少な素材でつくった特殊な液体をショッピ君の体にぶっかける。
すると、固有魔法の宿る箇所が赤く光る。
俺は瞳が赤く光った。
ショッピ君は……。
「今度こそ、これでお終いです」
斧を振りかぶるが、俺はそこに魔法で風を起こし手から斧を落とす。
男の手にしゅっ、と一本の傷が入った。
その隙に俺は魔力の塊をぶつける。
魔力を男にぶつけると男は吹き飛び、俺の魔力を爆発させる。
バコーン、っと音が鳴り、木が、土が吹き飛び、風が起こり木の葉が飛んだ。
ショッピ君は男が爆散している間に俺のところへ戻ってきて、どうしようか、と聞いた。
「ショッピ君、アレ、使える?」
「えっ……アレ、ですか?」
「一応、使えんことはないですけど……」
「失敗するかもしれません」
「大丈夫、ショッピ君なら絶対成功する」
「俺が隙を作るから、ショッピ君はその隙にアイツを仕留めてね」
ショッピ君は戸惑いながら瞳をゆらゆらと揺らし、その後に決意を固めたように俺に視線を向けた。
俺は安心させるように笑い、俺は杖をしっかりと持ち、射撃性、弾速に最も優れている風属性の魔法をばかすか打ち込む。
男は、あれくらいでは当然死んではおらず、すぐに向かってきた。
ショッピ君は少し遠い場所に離れ、こちらの戦いを見つめている。
今度は片手剣を両手にもって攻撃してくる。
炎と氷を纏った剣で。
炎が飛んできては、氷も飛んでくる。
炎の剣に当たれば火傷で、氷の剣に当たれば身体が凍って動けなくなる。
特に当たってはいけないのは氷の剣だ。
剣に当たった瞬間に身体が凍って一切の動きを封じられる。
男が氷を投げ飛ばしてくるが、瞬間的に俺は防御魔法を展開し、すぐさま解除、また展開し、を繰り返す。
男は埒が明かないとでも思ったのだろう、固有魔法:瞬間移動で俺を撹乱。
気付いたら、目の前にいた。
剣が俺の肩を裂く。
血が吹き出て、身体が凍る。
下半身、上半身と凍り、腕までもが凍った。
それにより身動きが取れず、頬までもが凍っていき、息が白くなる。
「本当に……執拗いですねあなたは」
「やっと…今度の今度こそやっとあなたを殺すことが出来る」
「ふふ……それはどうかな」
俺は自分の身体を燃やす。
ぼっ、ぼっ、と燃え氷が溶けていく。
俺は男に抱きつき、自分ごともう一度凍らせる。
超強力な氷属性上級魔法で、この男の身体が凍る。
密度の高い氷が、足を凍らせ、胴体が凍る。
「っ…一体何を………」
「ショッピ君!!!」
ショッピ君の瞳が、白い布が赤い血で染まるように、紫色の瞳がどろりと赤く染まっていく。
抱きついている男の身体が冷たくなっていき、だんだんと重くなっていく。
密度が高く、この男の重さは鉄ほどあるかもしれない。
さらに鉄よりも重くなっていき、氷がピキ、とヒビが入り、バキン、と割れた。
ショッピ君はゆっくりと俺に向かって歩いてきた。
無論、瞳は赤いまま。
「ようやってくれた……」
「えらいでホンマ」
俺はショッピ君の頭を撫でる。
撫でていたが、出血をし過ぎたせいか、ふらりとふらつく。
倒れそうになった瞬間、ショッピ君は俺の腰を掴み支えてくれた。
あれ、いつの間にか腕ががっしりと筋肉がつき逞しくなっていたんだな、と気付く。
「シャオさん、大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫……血の出しすぎでふらついただけだと思う」
ショッピ君の固有魔法が宿る部位は、瞳と手。
手で物体に触れることでその物体の重力を操ることができる。
もしくは、自分の視界に入った物体の重力を操る。
手で物体に触れ重力を操る方は確実に成功するが、視界に捉え重力を操る方法は失敗しやすかった。
物体の重力を感知しにくいから。
触れることは、重力を感知しやすいので、操ることができるが、視界で捉えることは、物体の重力はどのくらいか、自分の想像で補わなくてはいけなくなる分、失敗しやすい。
「成功して良かったです」
ショッピ君はホッと息をつくと、俺に目線を向ける。
俺は先程から思っていた疑問をぶつけようとしたが、その言葉は空気にならなかった。
「まさかやられてしまうだなんて」
「なるほど、手ではなく瞳にも宿っていたのですね。重力で私の身体を重くし動けなくした……」
「お前にはぎょうさん聞きたいことあんねん」
「やからこのまま白城の拷問部屋に連れてくわ」
「そうですか。ですが、これでも私はへクセの特級魔女、情報をもちろん沢山持っている。つまり、ここで私の持っている情報が割れてしまえば、へクセは窮地に陥る……」
「情報は、ひとつも渡しやしませんよ!」
すると男は、炎属性と風属性の魔法を織り交ぜて作られた、自爆するときの魔法を展開した。
情報を渡すよりかは、このまま自爆して敵諸共吹き飛ばす算段か。
俺たちが死ななくとも、少しはダメージを入れることが出来る。
この男は、俺たちが組織”我々だ”の幹部であることを知っていたのだろう、幹部を殺せなくても、戦力ダウンは免れない。
だから自爆の道を選んだ。
「チッ……余計なことしやがって……!」
「ショッピ君、俺が防御魔法を展開する」
「やから、ショッピ君は消火をお願い!」
俺は、切り札のひとつである、特級防御魔法を展開する。
俺がよく使う魔法は、他の魔女があと千年かかっても構造を解析、理解できないほどの魔法だが、さらにその上がある。
俺の魔力を全開放し、魔力の密度を高めさらなる硬度を持った魔法。
いつもの使うその防御魔法に、魔力の全開放をした圧倒的質量と密度をもつ防御魔法で、向かい撃ってやる。
ショッピ君は水を放出し男にぶっかけ、爆発の威力を下げていた。
「ここで、私諸共吹き飛んでしまえ」
男は、そのまま爆発し、俺は防御魔法で、なんとか防いだ。
辺り一面焦土になっていて、風が物凄く吹いている。
きれいな形のきのこ雲が出て、先が見えないほどの焼かれた土が見える。
防御魔法を張った部分だけ、下に乾いた焼かれていない土が見えていて、そこだけ周りと比べてアンバランスだな、と思った。
爆風により目に砂でもかかったのか、目が霞む。
俺は目を擦り、ショッピ君に怪我がないか確認しようとした。
が、出来なかった。
ただでさえ肩から胸にかけ剣で斬られ、治癒魔法を施したとはいえ完全には治っておらず、先程の戦闘で傷が開いた。
しかも出血多量で、失血死寸前、そりゃあそうなるか。
俺はショッピ君のほうをチラリと見ては、ガク、と膝が折れ、意識が闇の方へと葬った。
ショッピ君は慌てたように俺へと走る。
意識がなくなる刹那、ふわりと柔らかいものに抱きとめられたような気がした。
俺と同じ柔軟剤の臭いが、鼻をすぅと駆けていった。
──────────────────
s h a 視点
「ん…………」
目を開くと、視界の一面が白で埋め尽くされた。
右側を見てみると、窓が開けてあり、冷たい風が病室内に吹き込んでいた。
左側を見ると、カーテンの内側に、ショッピ君がポロポロと泣いて俺の手を握っていることが目に彩る。
シャッ、とカーテンが開けば、布面に”神”とかかれたお面を着けた薄い水色髪が長く背の高い男が見える。
「あ、シャオちゃん起きた?」
そう問えば、俺はこくりと頷き、彼は紙とペンを持ってきて、問診に触診、検温、血圧測定をしてから、「うん。何も無いね」と言ってから、「あとはお二人さんでどうぞ〜」と言葉を吐き捨て、どこかへ行ってしまった。
再びショッピ君に視線を向けると、鼻をすすり、涙を手で拭っていた。
もう泣き止んではいたが、目元が赤く、瞼が腫れている。
(あーあー、せっかく綺麗な目してんのに、台無しやん)
と場違いにも程があるほど、そんな呑気な思考を巡らせていた。
「取り敢えず……無事でよかったです」
「ごめんなぁ。ちょい心配かけたやんね」
「”ちょい”どころやないです。”めっちゃ”心配しました」
「うん。ごめんね。それよりも、聞きたいことがあんねんけど……」
「ああ。なんでワイがあっこにおったんか、それと、なんでシャオさんのとこに駆けつけたんか、ですよね?」
ショッピ君は人差し指を立て、次に中指を立て、ピースの形を作った。
手を膝の上に乗せ、握り込み、やがて口を開いた。
「ほら、シャオさんの話を聞いてから、俺飛び出していったやないですか。家から」
「うん」
「その後に、まあお恥ずかしい話なんですけど、死ぬほど泣きまして………」
「落ち着いてふと、思ったんですよ」
「なにを?」
「シャオさんはなにも考えもなしにそういう行動を起こしたりはしない」
「シャオさんの事やで、なにかあって第一次魔女世界大戦を開いたのかな、って」
「今までシャオさんとは七年と半年ほどの時間を共にしておいて、こんな事にも気付かんのやな、とか思いましたわ。ホンマ恥ずかしい……」
「そんな大それた奴やないよ。俺は」
「そんなわけあらへんやろ。俺が今まで誰の近くで見てきたと思ってはるんですか?」
「絶対防御の魔女……アンタとずっとおったんやから、アンタがどれだけ凄かった人かわかっとる」
「んで、そう考えた後に、シャオさんに謝ろ思て家に帰ったんですよ。そしたら、知らん魔女の魔力の痕跡が残っとったから、なんかあったんかな、って」
「あ、そうやったんや………」
「大体はこんな感じです」
「やから、俺はシャオさんに怒ってないですよ。そもそも、魔女世界大戦を引き起こしたからってそれだけで俺がシャオさんに怒るのも筋違いですし。ま、ショックで泣きはしましたけど」
「親は殺されました。けど、ちゃんとシャオさんはその事に負い目を感じて、俺のことをきちんと育ててくれた。やから、正直うらみつらみとかよりも、シャオさんに対する感謝の方が多いんですよ。俺は」
じーん、と目頭が熱くなってくる気がする。
いつもいつも、ショッピ君には迷惑ばかりかけていたし、ショッピ君の幸福は、俺がすべて奪ってしまったものだと思っていたから。
ショッピ君がそんな風に考えていただなんて、微塵も思ってはいなかった。
予想外の言葉に、俺は言葉をひとつも返せることが出来なかった。
返せたのは、『こちらこそありがとう』という風な嗚咽だけ。
ショッピ君は俺が思っていたことに察したのか、全く動かない表情筋が、柔らかく頬を上げたような気がした。
そのまま、彼は丸椅子から立ち上がり、ググッ、と伸びをすると、病室の扉を開け、「お大事に」と言ってから、帰ってしまった。
秋の香りが微かに残る病室で、窓から差した陽が、優しく彼の頬を照らした。
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魔女狩り
『了』
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コメント
2件
え最高でした😇ありがとうございます😭