鋼の騎士と星霜の瞳

💧森の深淵と、最も不衛生な気遣い（続き）イリスとリヴァイは、地図が示す小さな岩場に到達した。月明かりは薄い雲に遮られ、森は湿った静寂に包まれている。

リヴァイ：「ここか。チッ、苔が多いな。滑りやすい」

水源は、苔むした大きな岩の根元から湧き出しており、小さな窪みに澄んだ水が溜まっていた。水面は鏡のように静かで、確かに夜の冷気でキンと冷えているのが感じられる。

イリスは興奮を抑えながら、岩場に膝をついた。

「兵長、これです！エルヴィン団長から借りた試験薬で測ります。硬度を…」

彼女が試験薬を水に浸す。すぐに水の色が淡いピンクに変わった。

「…完璧です！間違いありません！茶葉が求める、最高のミネラルバランスです！」

イリスは喜びのあまり、立ち上がりそうになったが、リヴァイが冷たい声で制した。

リヴァイ：「浮かれるな。水の汲み方が重要だ。水筒の口が、周囲の**『土壌汚染』**に触れないよう、細心の注意を払え」

彼はそう言いながら、イリスの隣に屈み込んだ。彼の影が、月明かりを遮る。

🌟予期せぬ密着と、一瞬の沈黙

水筒の口は小さく、窪みは岩の奥にあるため、水を汲むには少し身を乗り出す必要があった。

イリス：「失礼します…そっと…」

彼女は身体を前に傾け、片手を岩についてバランスを取る。その時、リヴァイが突然後ろから手を伸ばした。

リヴァイ：「おい、待て。水面から**『ホコリ』**が落ちるだろう。フードを、もっと前に」

彼が、イリスが羽織っていたマントのフードの縁を掴み、強引に前へ引き寄せた。

予期せぬリヴァイの動きに、イリスの体は前のめりになり、一瞬バランスを崩す。リヴァイの胸板と腕が、イリスの背中に強く押しつけられた。

肌と、分厚い調査兵団のジャケット越しに伝わる、彼の体温。そして、彼の口から漏れるかすかな息遣いが、イリスの耳元にかかる。

二人とも、ピタリと動きが止まった。

森の夜の音――木の葉のざわめき、遠くのフクロウの鳴き声――だけが、やけに大きく響く。

リヴァイは、一瞬にして自分の行動が、**『必要以上の接触』**であることに気づき、わずかに目を丸くした。

（近すぎる…！）

イリスの背中に触れる自分の体が、途端に**『不衛生な接触源』**のように感じられた。彼はすぐに離れようとするが、岩場という不安定な場所で動けば、イリスが本当に滑ってしまう。

一方、イリスも心臓が早鐘を打っている。彼女の頬は、夜の冷気とは関係なく、熱を帯びていくのを感じた。

（へ、兵長が…こんなに近く…！私の体調を**『資源』として気遣ってくれているのはわかるけど、これは…『資源』が『極度の緊張』**で燃費を悪くしています！）

沈黙は数秒。しかし、それは永遠にも感じられた。

リヴァイは喉の奥で小さく咳払いをした。顔は月明かりの下でも分かるほど、微かに紅潮している。

リヴァイ：「…チッ。さっさと水筒を差し込め。済んだらすぐに離れるぞ。全く、**『不必要な接触』で、無駄な『体液の蒸発』**を招くな」

イリスは慌てて水筒を差し込み、急いで水を汲んだ。リヴァイが背中から離れると、彼女はすぐに立ち上がり、その場から逃げるように数歩下がった。

リヴァイは顔を上げず、イリスが去った場所の岩の窪みを鋭い目で見つめ、**「汚染」**が残っていないかのように確認していた。しかし、彼の耳まで赤くなっているのを見逃す者は、この場にはいなかった。

「さあ、戻るぞ」

リヴァイは、いつもより一オクターブ低い声でそう言い放ち、再び音もなく森の闇へと入っていく。イリスは胸の奥の動揺を隠すように、硬く抱えた水筒を見つめながら、彼の後を追った。