テラーノベル
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女型捕獲地点───
エルヴィンの合図に従い、女型の巨人目掛け、
特殊な槍型ワイヤーが次々に撃ち込まれていた。
傷を塞ごうとする程、拘束がより強固になる。
ハンジ考案の “対特定目標拘束兵器” だ。
拘束した状態から、リヴァイ・レイ・ミケの3人が、一斉に女型のうなじに刃を振るう。
しかし、鎧の巨人と似た硬質化能力により、
兵団の持つブレードでは全く歯が立たない。
金属が砕ける乾いた音だけが、虚しく森に響く
(……また壊れた。これで何本目だろう。)
レイは刃の折れたブレードに視線を落とす。
そんな状況を見ていたエルヴィンから、
新たな命令が下る。
手を吹き飛ばす為、発破を準備せよとの指示だ
うなじの中身ごと吹き飛ばす可能性のある兵器だが、手首を切断する形での準備が進められた。
━━━
「……おい、いい加減に出てきてくれないか?」
女型の頭部に乗ったリヴァイが、
静かに口を開く。
「こっちはそんなに暇じゃないんだが」
その様子を、レイは少し離れた木の上から見守っていた。
途切れ途切れだが、リヴァイの声が聞こえる。
(……かなり苛立ってる)
無理もない。
仲間もとい部下が、次々に殺された。
潰された者。
ワイヤーごと投げ飛ばされた者。
握り潰された者。
数え切れない程の兵士が、命を落とした。
「1つ聞きたい事があった。お前の手足を切断しても大丈夫か?」
リヴァイの低い声が落ちる。
「また生えてくるんだろう?お前自身の本体の方だ。死なれたりしたら困るからな。」
静かな怒りの声。
女型を脅し、責め立てるように言葉を重ねる。
その瞬間───
女型の巨人が、雄叫びを上げた。
森全体を震わせる咆哮。
耳を塞いでも尚、脳天を貫くような声が響く。
同時に凄まじい突風が吹き荒れた。
悲鳴のような叫びは、周囲にいた作戦実行班だけでなく、森を囲む兵士・エレン達の耳にも届いた。
木々が激しく揺れ、葉が舞い上がる。
暫くすると、女型の叫びは収まった。
しかし──
「エルヴィン、匂うぞ。」
ミケが深刻な表情で、エルヴィンに告げる。
「方角は?」
「……全方位から多数。同時に。」
叫びが落ち着いたのも束の間。
森の木々が再び激しく揺れた。
地鳴りのような振動と共に、
全方位から巨人たちの足音が迫る。
レイは振動を感じ取ると、
即座にリヴァイの元へ駆け寄った。
一足先に東から巨人が現れ、
荷馬車護衛班が迎え撃つ。
しかし、巨人たちはそれを無視し、
女型の巨人の方へ一直線に向かう。
遠くから、リヴァイの名を呼ぶ声が聞こえる。
「おい、てめぇ」
リヴァイが女型の頭を踏みつける。
「さっき何かしやがったな」
舌打ちが響く。
「……兵長、来ます。」
「……仕方ねぇ、やるぞ」
「了解」
2人はブレードを構え、戦闘態勢に入る。
一瞬 目線が交わったかと思うと、次の瞬間には各々が立体機動に移り、空を切っていた。
レイが大きく刃を振りかざし、先頭の巨人を仕留める。
うなじが裂け、巨体が崩れ落ちる。
その横をリヴァイがすり抜け、脇から出てきた残りの2体を同時に倒した。
しかし、2人だけでは到底捌ききれない程の巨人が集結し、一斉に女型の巨人に飛びかかる。
(前方の兵士だけでなく、女型に1番近い私たちでさえも無視。これは一体……?)
今までの巨人たちからは考えられない動きに、レイを含め、その場の全員が困惑する。
その時、エルヴィンからの号令が響く。
「全員、戦闘開始!」
「女型の巨人を死守せよ!」
周りの兵士は一斉に戦闘態勢に入り、女型に襲いかかる巨人のうなじを切り落としていく。
リヴァイやレイも死力を尽くす。
だが、巨人たちの勢いは止まらず、遂に女型の首・四肢を全て引きちぎってしまった。
その様子を見たエルヴィンは目を閉じ、やるせない気持ちを抑え、指示を出した。
「総員、撤退!!」
「陣形を再展開、カラネス区へ帰還せよ!」
━━━
撤退命令から数分後。
女型は無垢の巨人たちによって、
骨の髄まで喰い尽くされた。
リヴァイやレイを含む、数多くの兵士たちは、
その様子をただ呆然と見つめるしかなかった。
そんな中──
エルヴィンだけが、微かに笑っていた。
「なんて面だ。てめぇ、それは……」
その表情を見たリヴァイは、
ほんの少し 動揺の色を見せる。
「敵には、全てを捨て去る覚悟があったという事だ。」
エルヴィンが続ける。
「自分ごと巨人に食わせ、情報を抹消するとは」
レイは2人の話を小耳に挟みながらも、
先の戦闘時に感じた違和感を思い出していた。
(……さっきの兵士、様子がおかしかった。)
女型死守の命令が下った後、多くの兵士が入り乱れながら巨人を討伐していた。
そんな中で、
兵士同士の衝突が起こる事は少なくない。
実際にレイ自身も、戦闘時には1人の兵士とぶつかってしまった。
本来なら、その場で体制を立て直し、
即座に別の個体の方へ向かう。
しかし、その兵士は大きくよろめき、戦場から距離を取るように、蒸気と共に姿を消した。
(……戦闘経験の少ない兵士は森周りで待機中だし、ただの衝突であんなに体制を崩すなんて)
(フードを被っていたし、蒸気で姿も見えなくなった。一瞬だったから顔も見ていない……)
ただ他の兵士とぶつかっただけ。
そう簡単に思ってしまえる程、些細な出来事。
しかし、妙な胸騒ぎがしていた。
死骸の蒸気で視界が悪くなる中、
エルヴィンは静かに、1つの可能性を考える。
そんな沈黙を破るように、
リヴァイが口を開く。
「俺の班を呼んでくる」
「行くぞ、レイ」
「はい」
2人が立体機動に移ろうとした、その時。
「……待て、リヴァイ。それにレイ」
エルヴィンが2人を止め、指示を出す。
「ガスと刃を補充していけ」
「時間が惜しい、充分足りると思うが?」
「命令だ、従え。」
エルヴィンの声には落ち着きがあり、
この先の未来をも見据えているようだった。
リヴァイは少し考えた後、答える。
「了解だ、エルヴィン。お前の判断を信じよう」
「では私は、補充用のガスと刃を持ってきます」
2人はエルヴィンの判断に従い、
急ぎ補充を進めた。
それから少しして、
青の煙弾が各場所で確認された。
撤退の合図。
森を囲っていた兵士もその合図に気付き、
一斉に撤退準備が進められる。
各方面から、馬の駆ける音が聞こえ始めた──
━━━
「時間がねぇ。急ぐぞ。」
「……」
補充を終えた2人は、
急ぎ残りの班員が待つ方角へ向かう。
その間、レイはずっと何かを考え続けていた。
そんな彼女を見たリヴァイが、声を掛ける。
「さっきから何を考えてやがる」
「……あ、すみません。
少し気になる事があって……」
レイは言葉の続きを言おうとするも、
言い淀んでしまう。
(なんの確証もない事を言うことは、合理性に欠ける……)
そして、この状況下で言うべきでないと判断。
言葉を飲み込み、口を噤んだ。
「……なんだ、言ってみろ」
「……え」
彼は予想外にも、この緊迫した状況の中で、
彼女の言葉に耳を傾けようとしていた。
レイは、驚いたようにリヴァイに視線を向ける
「遅せぇ、さっさと言え。」
「壁外では一分一秒を争うと知っているだろ」
レイは息を整え、話し始める。
「……あくまで私の想像ですが──」
彼女は、女型防衛戦時の出来事を話した。
不審な動きをする兵士──
必要以上に疲れた様子で、女型防衛の場所から距離を取り、蒸気に紛れて姿を消した。
フードを被っており素顔は不明。
レイはこの状況を元に、ある1つの可能性を見出した。
それは──
「女型の中身が立体機動で、あの場から脱出したかもしれない……と思いました。」
「っ……」
リヴァイは目を見開き、
心臓が ドクン── と嫌な音を立てる。
その時、森中に響き渡るほどの巨人の叫び……
いや、エレンの雄叫びが聞こえた。
「この声、まさか……」
リヴァイが小さく呟き、
2人は瞬時に軌道を変える。
枝葉を掻き分けながら声の方向へ向かう。
その間も、
エレンの叫び声はひっきりなしに聞こえ、
殴り合うかのような鈍い音が響き続けていた。
(なぜ、エレンが巨人に……。彼が巨人化しなければならない程の事態が起こったというの?)
移動中、レイは現場の状況を考えるが、
何度考え直しても、辿り着く結論は一つ。
“ 特別作戦班の全滅 “
最悪の事態を想像するしかなく、
彼女の顔は青ざめ、呼吸は浅くなる。
「……ペトラ」
消え入りそうな声で家族の名前を呟いたかと思うと、彼女は無意識に立体機動の速度を上げた
「……おい待て。先走るんじゃねぇ、レイ。」
ただならぬ様子の彼女を見たリヴァイは、
なだめるような口調で制止する。
そんなやり取りをしている内に、
突然木々の間隔が広くなり、視界が開けた。
その時だった──
「……っ」
レイは息を呑んだ。
彼女の目の前には、木にぶら下がる死体。
「……グン、タ」
状況を飲み込みきれないレイ。
次に目に入ってきたのは、体が2つに切断されたエルド。
そして、地面に強く叩きつけられたオルオ。
誰も、動かない。
目の前に広がる光景は、地獄だった。
既に3人の同期が命を落としている。
そして、その場には女型・エレンの姿はない。
この状況から考えられる
彼女にとっての “最悪” とは、即ち───
「……ペトラ」
木幹に叩きつけられたのか、辺りには血飛沫。
ペトラの瞳からは、光は失われていた。
レイは彼女に近寄り、その場に立ち尽くした。
呼吸は更に浅くなり、声が震える。
「……返事をしてよ、ペトラ」
「何があったの……
なんで皆、息をしていないの……?」
彼女はペトラの死体を横にし、
冷たくなった手を必死に握る。
少しずつ状況を飲み込み始めると、
同時に目頭が熱を持った。
その様子を見ていたリヴァイ。
感情こそ出さないが、だがその目には
怒りと悲しみが宿っていた。
そして一呼吸おき、レイに声を掛ける。
「後悔してる暇はねぇ」
「先を急ぐ、着いてこい」
その冷静な声は、
彼女の空っぽになった心に、静かに響いた。
「……はい」
込み上げてくるものをグッと抑え、
短く返事をし、立ち上がった。
立ち上がるその瞬間、レイはペトラの目に手をかざし、そっと瞼を閉じさせた。
「行ってくるね、ペトラ」
小さく呟き、何かを胸ポケットにしまう。
そして2人は再び飛び立った。
女型とエレンのいる方へ。
冷たい風が、レイの身体を打ちつけていた──
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