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放課後、トオルはバイト前に自宅で軽く昼食をとりながら何気なくテレビをつける。ニュース番組が流れ、経済コーナーで「若手実業家の注目株」としてインタビューが放送されている。スーツ姿の男が映し出され、トオルは箸を落としそうになる。「篠原…マコト?」と呟く。画面には「篠原マコト(28歳)、篠原グループCEO」とテロップが流れ、大企業の次世代リーダーとして称賛されている。トオルは「帝王が…社長? 何だよこれ」と混乱しつつ、テレビに釘付けになる。
学校帰りのユウジと会ったトオルは、興奮気味に「篠原マコトって、大企業の社長らしいぞ!」と話す。ユウジは「マジかよ! あの黒豹がスーツ着てんの想像つかねえ」と笑うが、トオルは「走り屋やってる理由が分からねえ…金も車もなんでも持ってそうなのに」と首をかしげる。帝王の意外な一面に、トオルの中で篠原へのイメージが揺らぎ始める。
その夜、トオルは180SXでC1を流していると、前方から聞き慣れた低音が近づいてくる。漆黒のR34 GTRが現れ、トオルの車の前に滑り込む。篠原マコトだ。ハザードランプを点滅させ、トオルを最寄りのパーキングエリアへ誘導する。トオルは緊張しながら後を追い、パーキングに停車すると、篠原が車から降りてくる。夜風に揺れる黒髪と鋭い眼光が、テレビのスーツ姿とは別人のような威圧感を放つ。
篠原はトオルを見据え、「最近よく見る顔だな。お前、桜井トオルだろ?」と切り出す。トオルが「はい…」と答えると、篠原は「何で走ってんだ? 金もねえ高校生がフルノーマルの車でC1をうろつく理由が知りたい」と問う。トオルは少し迷いながらも、「俺…昔見た緑の180SXを超えたくて。それが夢なんです」と正直に打ち明ける。篠原の目が一瞬鋭くなり、「緑の180SX…高木ケンジの車か」と呟く。
篠原は静かに話し始める。「20年前、俺の父親はケンジと帝王の座を争ってた。あいつは速かった。俺より速かったかもしれない…。でも、ある夜のバトルで事故が起きた。俺の父親が追い詰めたコーナーで、ケンジの車がガードレールに突っ込んで…即死だった」。トオルは息を呑む。篠原は続ける。「車はほぼ無傷だったが、ケンジは助からなかった。あれ以来、俺の父親は帝王の称号を手に入れたが…何か空っぽなんだ」。その後暫くは帝王は親父が所持していたが、この様な惨事を犯さないように封印したんだ。そして今その封印を俺が破った。トオルは「じゃあ…封印を解いてまで走ってるのは?」と尋ねると、篠原は苦笑し、「あの夜を超える何かを見つけるためだ」と答える。
トオルは「俺も…あの緑の180SXを超えたい。それが俺の走る理由です」と篠原にぶつける。篠原はトオルの目をじっと見て、「なら、お前が俺を超えてみせろ。フルノーマルでもその情熱があれば、いつか届くかもしれない」と静かに言う。トオルは「絶対に超えます」と決意を込めて返す。篠原は小さく頷き、「楽しみにしとくよ」と言い残し、R34に乗り込んで去っていく。
翌日、トオルは自転車屋で後藤に昨夜の出来事を報告する。「篠原マコトの父親が…ケンジさんの事故の相手だったなんて」と衝撃を隠せない様子。後藤は黙って聞き、「あいつが帝王になったのはそういうことか…。だが、ケンジの車を超えるなら、俺も本気にならねえとな」と呟く。トオルが「後藤さん、一緒にやってくれますよね?」と問うと、後藤は「次はお前が金を貯めてこい。サスでも変えるか」と初めて前向きな姿勢を見せる。
ラストシーン。トオルは自宅のガレージで180SXを眺め、「篠原マコト…高木ケンジ…二人とも超える」と静かに誓う。テレビのニュースが再び篠原のインタビューを流し、スーツ姿と黒豹の姿がトオルの脳裏で交錯する。遠くで首都高の音が響き、次の戦いへの火蓋が切られる。