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さて、突入作戦はどのように展開するのか?
一人単独で敵陣に斬り込んで大暴れしてもいいのだが……。
しかし、このような楽しいことは分かち合ったほうが良くないか?
一緒に夜を明かし修羅場を潜ったときに感じる妙な連帯感。
うんうん、いいな。
でも、誘うとするならマクベさん一択なんだよなぁ。
ガンツは遠いし。シロは犬だし……。
問題はどうやって誘うかだ。
マクベさんならエナジー的には問題ないはずだ。俺も30歳位の頃はまだバリバリだったしな。
ここはやはり仕事の相談とか何とかカコつけて、後はアイコンタクトだよな。
――目で訴えるしかない!
そう心に決め、小雨の降る中を俺は家路に急ぐのであった。
俺は17歳ではあるが、わりと図々しいのだ。 中身はおっさんなので。
まずは素知らぬ顔をしてマクベさんの居場所を探っていくことにした。
う~ん、店には居ないようだ……。
外は雨が降っているし外出するとは考えにくい。
そうすると執務室か書斎あたりだろうか?
しかし、執務室にはカイアさんが一緒に居るんじゃないか?
作戦の漏洩は命取りになるからなぁ。
よし、ここはキッチンに移動だ。
キッチンでお茶を飲みながら隙を伺うのだ。
俺はシロを連れてそっとキッチンへ移動する。
しかし、そこに伏兵が現れた。
ミリーがキッチンでミルクを飲んでいたのだ。
「…………!?」
仕方がない、ここは欺瞞工作に一役かってもらうことにしよう。
俺とシロはキッチンにて一休みすることにした。
「あぁー、ゲンにぃとシロだー!」
フフッ、元気いっぱいだな。お口に白い髭がついているぞ。
紅茶を頂きながらミリーと取り留めのない話をすることしばし、カイアさんが登場した。
「あら~、ゲンちゃんは今日お休みなの~」
相変わらずのテンションである。
「はい、今日は雨が降っているのでお休みにしようかなと……」
俺はそう答えてから、あくまでもさりげなく、
「マクベさんはどちらに?」
右手にカップを持ったままついでのように聞いてみる。
「あの人なら執務室で書類の整理をしてるわね~」
「大変なんですね~」
とだけ答え、話しをすみやかに終わらせる。
暫くすると文字を教えるとかで、カイアさんはミリーを連れて自室に行ってしまった。
キター!! この時をまっていた。
チャンス到来である。
やるしかないんだ、やるしか……。
俺は瞬間移動でもしたかのように執務室の前に立っていた。
ドアをノックすると「どうぞ」とマクベさんの声が聞えてくる。
「ゲンです、失礼します。少しお話があるのですが宜しいですか?」
「おお、ゲンか。そこに座ってすこし待っててくれ」
急にきた俺に対してもマクベさんは優しく対応してくれた。
ソファーに腰掛け、シロをもふりながらしばらく待っていると、
「いやぁ待たせたかい?」
「いいえ、こちらこそ急にきてしまって」
「それで、どうかしたのかい?」
「いえいえ、そんなたいした用事ではないんですが、今日の夕食後に時間は空いてますか?」
「えっ、今日かい。特別なにもないが……」
「その、相談したいこともあるので、ちょっと出かけてみませんか。中央広場のあたりに」
マクベさんは顎に右手をあてしばらく考えていたが。
心得たとばかりに ”にぃっ” と笑ってきた。
俺もそれに呼応するように ”にぃっ” と笑って返す。
「…………」
「話を切り出すタイミングなどはこちらに任せてくれるかい?」
俺は否応なく頷いた。
きっと、言い訳やアリバイ作りに何か仕込むのだろう。
『では夕食で』と、あいさつをして執務室をあとにした。
その後は日課である剣の素振りなどを何くわぬ顔をしてこなしていった。
……そのつもりだったのだが、どこか気合が入ってしまっていたのだろう。
気がついたら、いつもより100回も多く剣を振ってしまっていた。
………………
そして今、中央広場に向け俺とマクベさんは並んで歩いている。
もちろんシロも一緒だ。たとえ犬だろうと仲間外れはいけない。
雨もやんだ月明りのなか、俺たちは歓楽街に向かってまい進した。
「いや~、ゲンも男だねぇ。いつの間に情報を仕入れてきたんだい」
「いえいえ、それほどでも。タマタマですよ、タマタマ」
「ほぉー、それはオークのタマタマかい?」
二人でバカ笑しながら歩いていく。
俺も中身はおっさんなので、こういったおやじギャグも大歓迎だ。
そして、いよいよ中央広場のメインストリートにさしかかった。
「ゲン。そこで1杯引っ掛けてから行こう!」
とマクベさん。
なるほど、すこし酔ってから勢いをつけるのだな。
マクベさんはこっちこっちと先を歩いていき、メインストリート沿いのとある建物へ入っていく。
地下へ続く階段を下りていくと、そこにあったのは割と高級そうなbar (バー) であった。
流石にシロは店内に入れなかったので、入口のボーイに銀貨3枚を渡し肉の焼いたものと水を出すように頼んでおいた。
シロを入口に残し、マクベさんに続いてお店に入る。
薄暗い店内はランタンがちらちらと置いてあるだけのようだ。
案内されたテーブルにマクベさんと対面で腰かける。
すると俺が座っている椅子の後ろから、
「いらっしゃいませ~!」
若い女性の元気な声が聞こえてきた。
そして次の瞬間!
後頭部に何やらやわらかいものがプニっと触れてきた。
おおっ、なんだなんだ?
振り返ってみると、今度は顔が谷間に挟まれてしまった。
「…………!?」
なにコレ! ここはパフパフ天国なの!? 亀仙人のじっちゃん何処よ?
俺が気を取り直しつつテーブルへ向き直ると、マクベさんが腹をかかえてゲラゲラ笑っていた。
……これはマクベさんにやられちゃったみたいだ。
ごく普通のお店だと思って、完全に油断していたなぁ。
――いや、嬉しいんだけどね!
「わぁー、これはいきなりやられましたよ~」
後頭部に右手をあててニヤニヤしながら俺がそう訴えると、
うん! うん! と頷きながらもマクベさんは今だに笑っていた。
それから俺たちは、3軒の店をハシゴしてスッキリ爽やか家路についた。
一緒に付いてまわったシロも、各店で振舞われた肉をたらふく食べられてご満悦のようだった。
いや~、久しぶりに楽しい夜だった。
すこし酒もはいっていたが、いつものように魔力操作の訓練はしっかりとやって眠りについた。
てしてし! てしてし!
今日も今日とて俺はシロに起こされる。
酒を飲んだ次の日ぐらいゆっくりさせてほしいものだが、
『昨日の酒と今日の仕事は関係ない!』
昔、会社の上司から言われていた言葉をふいに思い出していた。
まあ、シロの場合は散歩に行きたい一心だろうけどね。
ベッドから下り空気を入れ替えるために木窓を開ける。
散歩の後は朝食を済ませて冒険者ギルドに向かった。
今日は購入したての革鎧を装着している。
これで少しは冒険者らしく見えるかな?
そう考えると、なんとなくだが嬉しい。
この装備を付けたまま剣の訓練に臨んでいったのだが、1刻後には毎度同じくぶっ倒れていた。
――今日も同じ天井だ。
そして今は、ギルドの依頼掲示板の前にいる。
この前Dランクに昇格したので、Cランクまでの依頼であれば受注可能になったのだ。
CランクからDランクの依頼を一通り確認したあと、俺はひとつの依頼をはぎ取った。
内容はDランクの依頼で『ゴブリン20匹の討伐』
南のヨーラン村付近で発見報告がなされている。
受付カウンターにギルドカードと依頼票を提出する。
そこで詳しい場所や出現時間、討伐部位などを確認したのち、俺とシロは冒険者ギルドを後にした。