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秋霧の乱

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秋霧の乱

10 - 第10話 (最終話) 冬のあとに

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2025年08月04日

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お待たせしました。これは、信じる政治を貫いた男の静かな幕引きです。

ドラマでもなく、劇的な転落でもない。

ただ、“次に託す”ことを受け入れた男の、

誇りと余韻に満ちた最終章――





📘《秋霧の乱》


第十話(最終話) 冬のあとに





春が来ていた。


気づけば、永田町の桜も咲き始めていた。

昨年、あの嵐のような政変劇をくぐり抜けてから、季節が一周していた。


誰ももう、“あの騒動”を口にしない。


テレビは構造改革の進捗を取り上げ、

新聞は泉のカリスマ性を讃え、

後援会の電話も、減った。





だが――私は、それでいいと思っていた。


「信じた政治」は、結果で測れるものではない。

“続けること”で意味を持つ。







◆ 国会・控室


一人、議員会館の自席で珈琲を飲んでいた。

書類の山も、報告の山もない。

私は今、党の中枢にはいない。


それでも、若い議員が一人、控えめにドアをノックした。


「加山先生…お話、少しだけ…」


彼は、30代前半の新人。

人事では冷遇されたらしい。


私は席を空け、向かい合った。





「先生…正直、政治って何を信じたらいいのか、わからなくなります。」




彼の目は、あのときの私と同じだった。

不器用で、真っすぐで、でも臆病な目。


「信じるのは、“政治そのもの”じゃなくて、自分の志だよ。」


私はそう答えた。


「人がどう言おうと、自分の心に嘘をつくな。

誰かが笑っても、何年もあとに、“あれが正しかった”って言われることもある。」







彼は深く頷き、立ち上がった。

帰り際、彼はこう言った。


「僕…先生みたいになりたいと思ってました。」




私は、少しだけ笑った。


「なら、私みたいになるな。君は君の“信じる政治”をやりなさい。」







◆ 風のあとに


桜が満開になった日、私は一人、憲政記念館を歩いた。


加山紘一――

昭和、平成、そして次の時代へ続いた橋の途中にいた男。


大きな改革も、目立つ実績も、

今は他の誰かが担っている。


だが――


自分を裏切らなかったことだけが、最後に残った。







私は、空を見上げた。

一羽の鳥が、風のない空をゆっくりと横切っていった。


「信じたことは、どこかで誰かが拾ってくれる。」


誰にともなく、呟いた。





もう語ることはない。

だが聞かれれば、こう答えよう。


「私は、敗れた政治家ではない。

“続けることを選んだ政治家”だ。」






🔚《秋霧の乱》完





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