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蓮 side
美味しそうに朝ごはんを頬張る翔太は、〝うっま〟と言って満面の笑顔を俺に向けたすごく可愛い。普段は朝ごはんは食べないようだけど、俺の作る朝ご飯は残さず食べた。仕事は午後からだけど終わるのはおそらく10時は過ぎるだろう。
蓮 🖤『今日遅くなるから夜ご飯は出前を自分で頼める?』
翔太💙『ふふっそれくらい自分で出来るよ。蓮のも頼もうか?』
今日は仕事終わりに舘さんから食事に誘われている。きっと翔太の事だろう。正直会いたくない。暫く放っておいて欲しいが、そうも言ってられない。〝先輩に食事に誘われていて食べて帰ってくるよ〟嘘は付いてない。翔太が少し不安そうな顔をしたのが俺には嬉しかった。〝そう…分かった〟食事を終えると翔太はキッチンに立って洗い物を始めた。
蓮 🖤『俺がするから置いといていいよ』
翔太💙『俺も何かしなきゃね…これ以上お荷物になりたくない…迷惑ばかりかけて申し訳ない』
一緒にキッチンに立って洗い物を手伝う〝迷惑だなんて思ってないよ〟翔太くんは表情が硬いままで洗い物を終えると部屋に閉じこもった。部屋をノックして中に入ると翔太の携帯が鳴り、アラーム音だと分かった・・・阿部ちゃんのソロ曲が流れ、翔太は明らかに動揺した。
翔太💙『これ…聞いた事ある…言葉にできない思いを…ノート?』
慌ててアラームを止めるとスマホを翔太から取り上げた。何でこんな音楽アラーム音にしてるんだよ。
翔太は1人で何やらぶつぶつ言ってる。ノートって阿部ちゃんの家の引き出して見つけたあのノートそう言えば表紙に翔太がさっき言ったような事が書かれていた気がする。
翔太💙『蓮!思い出しそう…なんか…もう一回聞かせて…れん?』
どうして俺じゃダメなんだろうか。
記憶の中に居ないはずの恋人に俺は怯えてる。それ程までに阿部ちゃんと翔太くんの絆が深いとでも?まだ付き合ってせいぜい2ヶ月足らずの恋だ。俺に足りなかったものって何だって言うんだ。
悲しみと怒りは同じ感情線だろうか?
嫉妬は人を狂わせ、悲しみは愛を求め、怒りは衝動的に人を突き動かす。
俺に襲いかかる悲しみと怒りは、翔太の温もりを求めてベットへ押し倒すと唇を貪り抵抗する両手をシーツに貼り付け、存在を確かめるように舌を這わす。
翔太は下唇を噛み、恐怖からか手が震えている。
翔太💙『蓮…怖いよどうしたの?』
〝ごめん…酷いことばかりしてる〟肩を震わせ泣く俺を恐る恐る伸ばしてきた白い腕は優しく包み込んだ。
昔から翔太は優しかった。
仕事で嫌な事があった時、失敗して落ち込んでいる時、誰よりも早く気付いて俺に駆け寄り励ました。
束縛に嫌気がさして冷たい態度をとっても全力で好きをぶつけてきた。
俺と別れてからも翔太は今まで通り優しく接してくれた。大きなドラマの主演が決まって悩んでいた時も、いの一番に気付き〝お前なら絶対大丈夫だ〟そう言って背中を押してくれた。俺の異変に気づくのはいつだって翔太が一番だ。
翔太は決して〝頑張れ〟を言わない。
その理由を前に聞いた時〝蓮が誰よりも頑張っているの知ってる〟そう答えたっけ。
いつまでもこの人の優しさに付け入ったら駄目だと分かっていても、俺は他の人を愛する事ができない・・・
翔太💙『疲れてるんだよきっと…大丈夫だよ俺が付いてるから。頼りなくてごめんね。もっと役に立てるように頑張るから』
俺には言わない頑張れを自分には言うなんて翔太ズルいよ・・・翔太なしじゃ生きられなくなる・・・
翔太💙『泣くなよ…どうしたの?』
蓮 🖤『俺から…離れて行かないで…俺をひとりぼっちにしないで』
翔太が困る言葉を知っている。
翔太が誰よりも優しい事も知っている。
ひとりぼっちの寂しさも翔太が一番分かっているんだ。俺から捨てられて酷く落ち込んでいたのを俺は知ってるんだから。
卑怯だと分かっていてもそれでも俺は翔太を離したくない。
翔太💙『いいよ…5年経って俺の愛の深さを思い知った?拾ってくれるの?5年前に捨てられた俺の愛を』
蓮 🖤『いいの?今阿部ちゃんと…』
翔太💙『思い出せない程辛かったのかな?それすら俺には分からない。でもきっと好きなんだね阿部ちゃんの事。それは分かる』
翔太は涙を流して笑ってる。涙の理由が本人でも分からずに〝あれ俺何で泣いてんのかな〟と言いながら胸の中心に手を当てた。
翔太💙『阿部ちゃんの事を考えると、心のココんとこが温かいんだ。きっと阿部ちゃんは色んな人に愛を与えられる人なんじゃないかな?俺が居なくても阿部ちゃんはきっと…でも蓮は俺じゃなきゃ駄目なんでしょう?』
蓮 🖤『翔太じゃなきゃ駄目だ』
〝しょうがないなぁ〟涙でぐしゃぐしゃになった翔太は両手を目一杯広げて〝おいで〟そう言って翔太は胸の中に俺を受け入れると自分だって泣いてるくせに〝よしよしもう泣かないの〟と頭を撫でた。
〝キスして翔太…エッチしたい〟翔太は一瞬困った顔を見せると〝いやエッチは…昨日したじゃん。それに蓮は今から仕事が…〟
蓮 🖤『無理…肌を重ねると不安が和らぐ。翔太もそうでしょ?嫌じゃないでしょ?』
翔太にたくさん俺を刻まなきゃ…。
不安なのは盗られそうだからじゃない。翔太の心が阿部ちゃんに向いているからだ。俺に抱かれたくないのは阿部ちゃんを裏切る事になるからだ。
〝5年越しの続きをしよう…翔太が俺を自分で選んだんだそうでしょう?〟卑怯な俺は翔太が拒まない事を知っている。
絶望的な顔をして涙を流す翔太は綺麗だった。
白磁の肌に、色付く赤い印を所有物を現すその印を一個ずつ丁寧に付けると、観念したように手からは力が抜けた〝そうだ…自分で選んだんだ〟自分自身に言い聞かせるように言うと最後に一粒の涙を流し翔太は静かに目を閉じて俺を感じた。
蓮 🖤『じゃあ仕事行ってくるね…』
翔太💙『ねぇ携帯だけ…返してくれない?新しいダンスの練習したいんだけど…』
蓮 🖤『分かったじゃあPC出しておくよ。その方が画面も大きいしダンス覚えやすいよ』
翔太💙『…分かった』
玄関まで見送る翔太にキスをすると〝行ってらっしゃい〟と言って手を振った。笑顔はなかった…
亮平 side
生放送終えたばかりの俺は、テレビ局の楽屋に戻りスマホを見ていた。涼太から今夜蓮と食事に行く旨の連絡が入っていた。昨日は時間が作れなくて会いに行けなかった。今日は午後から夜までたっぷりと時間がある。蓮のスケジュールを見ると、家に戻る時間は無さそうな程タイトなスケジュールだった。
今からだとお昼前には会いに行けそうだな…
何か翔太の好きなものを買って行こうかと考えたが、正直何を持っていけば喜ぶのか分からなくて買うのをやめた。2人で過ごした時間は短く、翔太の好みをあまり知らない事が悲しかった。
1日ぶりの翔太との再会は俺の胸を高鳴らせた。喜んでくれるかな…
合鍵を使って中に入ると、静まり返ったリビングのテーブルの上には洗濯物が綺麗に畳まれて置かれていた。その畳み方から翔太がしたのだと分かった。
意外と几帳面な性格の翔太は、時間をかけて丁寧に洗濯物を畳む。テーブルの横にちょこんと座って畳む姿が思い起こされる。
まだ寝てるのだろうか…時計の針を見るともう11時を回ったところだ。寝室の扉をそっと開けるとベットにも居なくて、脱衣場も除くけど居ない…
ベランダにも見当たらなくて〝どこ行ったんだろう〟もう一度寝室を覗くと、啜り泣くようなな声が聞こえてきて中へ入るとクローゼットの中からその声は聞こえてきた。扉を開けると、クローゼットの端の方で蹲った翔太が、ノートを手にしたまま泣いていた。
亮平💚『翔太…どうしたの?辛い事あった?』
翔太は顔を上げると驚いた顔をして俺を見ると、声を荒げて泣き出した。狭いクローゼットの中では抱きしめることはできず、落ち着くまで背中を摩り続けた。どのくらいの時間この中に居たのだろうか。シャツは汗ばみ、額から汗を流している。顔色も良くない…
亮平💚『お水取ってくるから待ってて』
コップに入れた水を飲ませると、グビグビと飲んでいる。〝ゆっくり飲みなさい身体がびっくりしちゃうよ〟少し落ち着いたのか何か物言いたげな顔をした翔太はクローゼットから這って出てきた。
無言で俺にノートを差し出すとベットの端に座った。翔太に続いて俺も隣に座ってノートを開いた。
昨日の日付で書かれていたところは、ボールペンで塗り潰され、今日書いたと思われるところには思いもよらない言葉が書かれていた。
🗒️亮平へもう会えません。大好きでしたさようならごめんなさい。
動揺して手が震えた。隣に座る翔太は、目に涙をたくさん浮かべて、握り拳を膝の上で作るとカタカタと震えている。床に跪き翔太の手を上から優しく包み込んだ。ピクリと反応した翔太の手は冷たかった。
亮平💚『何があったの?話せる?もう会えないってどう言うこと?』
翔太は何も答えてくれない。首筋に新しくキスマークが付けられている事以外2日前と変わらぬ姿がそこにはある。長い沈黙が続いた。
亮平💚『俺がここへ来てもうすぐ40分近く経つ。俺しか喋ってない…翔太の声聞かせて?体調は変わらない?』
翔太はコクリと頷くだけだ。蓮の香水の香りがする愛しい人の膝の上に自分の顔を乗せ、腰に腕を回して抱き付くとゆっくりと目を閉じた。
耐久戦だな…時間はたっぷりとある。暫くすると翔太は俺の頭を撫で髪を梳いた。朝3時起きの俺はいつの間にか翔太の膝に顔を乗せ床に座ったまま寝ていた。
着信を知らせる振動で目を覚ますと、翔太はウトウトと船を漕いでいた。〝ふふっ可愛い〟こんな状況でも翔太は可愛かった。先程まで頭を撫でていた手は、俺の手を握っていて、もう片方の手は俺の背中に回され時折トントンと子供あやすみたいに優しく叩いた。着信を無視して暫くの間2人だけの時間を楽しんでいた。もしかするとこれが最後になるのかもしれないと思ったらずっとこのまま翔太の膝の上から離れたくなかった。思い出したのだろうか…佐久間との事を思い出してもう嫌いになった?まだ言い訳もしてないのに…
翔太💙『阿部ちゃん…』
また眠りかけた頃、突然翔太が俺の名前を呼んだ。慌てて翔太を見ると〝重い〟と二言だけ。やっと喋ったと思ったのに〝あっごめん〟そう言って身体ごと起こすと、翔太は握っていた俺の手をいきなり引っ張って腰を屈めると唇にキスをした。
翔太💙『さよなら亮平…蓮とここで暮らすよ。俺じゃなきゃダメなんだ蓮は…ひとりぼっちに出来ない』
亮平💚『翔太の気持ちは?好きなの蓮の事?』
翔太💙『知らない…うう゛っ俺の気持ちなんてどうだっていいでしょ…お願いだからもう帰って』
なんか腹立ってきた。
毎日、俺も翔太もメソメソして翔太の気持ちも、俺の気持ちも蔑ろにして…お互い好きな筈なんだ。肝心なのは二人の気持ちだろう。蓮が寂しいかどうかなんて知った事じゃない。忘れてたって互いを好きなその気持ちだけはちゃんと心にある筈だ。バカみたいに毎日好きをぶつければ良かった。見苦しかろうが翔太に届くまで毎日何度でも・・・
それに翔太の優しさが俺に向いていないことにも腹が立った。俺が傷付けたんだ優しさを求める方が可笑しいのは重々承知しているつもりでも、翔太の優しさが俺を苦しめている事も事実だ。
亮平💚『俺がひとりぼっちになるのは平気なんだね。少しでも俺の事考えた?ごめん…今翔太に優しく出来ない…ノート返して』
翔太は泣きじゃくって、ヨロヨロと立ち上がるともう一冊のノートをクローゼットから取り出し2冊分を俺に寄越した。翔太が買ったもう1冊のノートは翔太に渡した〝続きを書きなさい蓮と始めるといい〟蓮のマンションを出て行く俺は不思議と悲しさはなかった。それよりも怒りの方が大きい。優しい翔太をいつまでも蓮の元に置いた自分に腹が立った。結局俺は翔太の何にもなれなかった。冷たく扉が閉まる音が廊下に響いた。俺は持っていたノートを破ると乱暴にリュックに詰め込んだ。〝さよなら〟なんて言いたくない。言ったらホントになっちゃう。翔太に言えなかった言葉を扉に向かって言うと涙が溢れた・・・
亮平💚『これが最後だから・・・泣き虫だなんて言わないで。ひとりぼっちは強いんだからね…翔太愛してる』
自分に言い聞かせるように吐いた言葉は、俺の背筋を伸ばした。
コメント
9件
そんなバカなって思うけど、苦しすぎる、、、涼太❤️先生、頼みます🙏