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病院行きのバスに揺られながら、窓を流れる景色を見つめていると、並木道の木はほとんど葉が落ちていた。

冬は嫌いじゃないけど、なんだか景色が殺風景になる気がして寂しくなる。


スマホがメールの通知音を鳴らした。

メールを開くと、通知がすごいことになっていた。友人や家族から心配のメッセージがたくさんきているけれど、なんとなく返せなくて、未読のままだ。今回も返せなくて、結局見ることもできなかった。


そしていつものように、植物人間について検索してしまう。もう癖みたいで、暇さえあれば検索し、怖い記事を読んでは不安になっている。

「植物人間は一年以内に死ぬ」「夫婦関係が悪かったことが原因」など、根拠の無いことばかりが出てきて、そのくせ、不安をあおる。

検索なんてするべきじゃないのに、どうしてもやめることができない。


検索履歴は颯介に関することばかりだ。そしてまた植物人間について検索すると、何十回も、何百回も見た記事が表示される。

「植物人間とは、遷延性意識障害と呼ばれるものの1つである。重度の昏睡状態。持続的意識障害、持続的植物状態ともいわれる。 」

目を瞑っても言えるんじゃないかと思うほど読みまくった文に気持ちがふさぐ。


まだ20代なのに。これからだったのに。たくさん旅行の予定も、食べたいものも、たくさんのきらきらしたことを2人で決めていたのに。


「次は、香央病院前です」

運転手の声にはっとした。またマイナス思考になっていた。駄目だ駄目だ、と言い聞かせる。

慌てて停車ボタンを押し、料金を払ってステップを降りた。


白い大きな豆腐のような建物が目の前に広がる。シンプルな外装だけど、中庭が綺麗で、病院内も清潔感がある。

自動ドアが開き、中に入ると看護師さんと目があった。兎和(とわ)という名札をつけている。

兎和芽衣(めい)さんという看護師さんで、同い年で明るくはつらつとしている。少し茶色がかった髪とそばかすが可愛い人だ。何度も来るうちに顔見知りになり、仲良くなった。


「桜田さん!こんにちは」

朗らかに微笑まれて、私も小さく微笑みを返す。兎和さんの笑顔には、返さなくてはと思える力強さと愛嬌がある。

「颯介さんのお見舞いですよね。今日はよく晴れていて気持ちが良いので、中庭をお散歩されてはいかがですか?」

「ありがとうございます。そうしようかな」

「あっ!それから、フリースペースの自動販売機の隣に、お菓子の自動販売機が設置されたんです!よかったら使ってくださいね」

コロコロと変わる表情で、兎和さんは明るい話をたくさんプレゼントしてくれる。

「お菓子の自動販売機、見つけたらちょっと嬉しくなりますよね。後で何か買ってみます」

そういうと、兎和さんはにっこり笑ってくれた。


兎和さんと別れて、颯介の病室へ向かっていると、だんだん心拍数が上がってくる。

いつものことだ。「桜田」のネームプレートが付けられたドアを開ける前、私はいつも一度深呼吸をする。

「颯介、来たよー」

声をあげてドアを開けた。中にはいつものように寝ている颯介がいて、安心すると同時に切なさも込み上げてくる。

どこも怪我していなくて綺麗なのに、目を瞑っているだけなのに、なんで目覚めないのだろうと私はパイプ椅子に座りながら思う。

窓の外を見ると、葉が落ちきった木が並んでいた。


「せめて景色が綺麗ならいいのにねー。そうだ、クッキー持ってきたんだよ」

私は呟いて、クッキー缶を取り出す。綺麗にたくさんの種類のクッキーが詰められている。颯介が好きだったお菓子やさんのものだ。

「アーモンドのやつ好きだったよね。ここ置いとくね。私はココアのやつが好き」

そう言いながら、私はココアのクッキーをかじる。ココアベースのクッキーにロングココナッツが入っている私のお気に入りだけど、味は感じられない。

「そうだ。兎和さんにもお裾分けしよっと」

私は颯介に笑顔を向けた。根拠はないけど、届いているはずだと、信じている。

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