手入れされた中庭は、病院であっても歩いていると気持ちがいい。
冬だから葉や花はないものの、花壇や中庭から見える病院の外壁は綺麗だし、何より外の景色もよく見えるつくりなのが好きだ。
「気持ちいいね。寒いけど、冬は空気が澄んでるよね」
私は颯介に語りかけながら、ゆっくり車椅子をおす。周りにもこの病院で入院している人たちが居て、皆思い思いにくつろいでいる。
颯介のように昏睡状態でも、車椅子に乗って外を散歩できる人もいる。
周りはおじいさんおばあさんが多いけれど、時々同い年くらいの人も見かける。そのとき私はいつも心配と、少しの安心を抱いてしまう。
小さな段差に気がつかずに車椅子をおしてしまい、颯介の体がガクンッと揺れた。
「あっ」
一瞬颯介が動いたのかと思ってしまい、思わず体を前に乗り出したが、すぐに我に返る。
植物人間になって、その後意識が戻る場合もある。本当に本当に稀なケースだけど、私はどうしてもそれを信じてしまうのだ。医者に颯介にはそのケースはもうないと言われても。
植物人間になった人は、基本的に一年以内には亡くなる。颯介は一年以上生きているのだから良かったと思うべきなのか、いつ死んでしまうのか不安でいるべきなのか、分からない。
「ごめんね、動いたかと思っちゃった」
小さく笑ってそう言って、私が中庭のなかで一番綺麗だと思うところに車椅子を止めた。
寒くなって植物の気配が薄れた中庭で、クリスマスローズが綺麗に咲いているのだ。
「めっちゃ綺麗でしょ。冬にもお花が見れたら、なんか嬉しいよね」
クリスマスローズがふわりと揺れ、爽やかで柔らかな匂いが香った。
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