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#溺愛
桜咲かな
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桜咲かな
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#百合
第二十七話 思い出せない声
その夜は、なかなか眠れなかった。
彼は何度も寝返りを打った。
昨日から、頭の中に同じ声が浮かんでいる。
誰の声なのか分からない。
けれど、どこか懐かしい。
「またね」
その言葉だけが、何度も繰り返される。
朝になっても、その感覚は消えなかった。
学校にいる間も、ふとした瞬間に思い出す。
誰かと話している。
夕方の道を歩いている。
笑っている。
そこまでは分かる。
でも、顔だけが思い出せない。
そして、その人が最後に何かを言っている。
そこだけが、どうしても聞き取れない。
帰宅してから、彼は古い写真をもう一度並べた。
場所の写真。
二人分の影が写った写真。
裏に言葉が残された写真。
どれを見ても、記憶の奥に何かが引っかかっている。
けれど、手を伸ばした瞬間に消えてしまう。
その夜。
いつもの時間にサイトを開く。
『今日どうした?』
彼女からのメッセージだった。
『分かる?』
『なんとなく』
『すごいね』
『どれだけ話してると思ってるの(笑)』
彼は少し笑った。
それから、昨日までとは違う話をした。
『昔のこと、少し思い出した』
『本当に?』
『うん』
『どんなこと?』
『誰かと一緒にいた』
『写真の人?』
『たぶん』
『顔は?』
『見えない』
『声は?』
『それは少しだけ』
彼女は黙った。
『どんな声だった?』
彼はしばらく考えた。
『……優しかった』
『それだけ?』
『うん』
『何を話したかは?』
『分からない』
『そっか』
それ以上、彼女は聞かなかった。
けれど、少しして彼女から、
『私も最近、変な夢見る』
と届いた。
『夢?』
『うん』
『どんな?』
『誰かと話してる夢』
彼の指が止まった。
『どんな人?』
『分からない』
『顔は?』
『見えない』
二人とも、しばらく何も送らなかった。
偶然だ。
きっとそうだ。
そう思いたいのに、なぜか気になった。
『何話してた?』
彼が聞く。
『覚えてない』
『声は?』
『……分からない』
その返事を見た瞬間、
彼は胸の奥がざわつくのを感じた。
けれど、それ以上考えないことにした。
『変な話になったね』
『ほんと(笑)』
『じゃあ、違う話しよう』
『そうしよ』
二人は話題を変えた。
好きな映画の話。
最近食べたもの。
学校であったこと。
いつもの会話。
でも、その夜はいつもより早く終わった。
『おやすみ』
『おやすみ』
サイトを閉じる。
彼はしばらく画面を見つめた。
「誰かと話している夢」。
彼女がそう言ったとき、
なぜか自分の記憶と重なった。
同じような景色。
同じような時間。
そして――
同じように聞こえない声。
まだ、二人とも気づいていない。
忘れている記憶の中に、
二人をつなぐ何かがあることを。
コメント
1件
うわああ…第27話、めっちゃエモい…!!😭💕 「またね」っていう声だけが頭に浮かんで、顔も思い出せないもどかしさ、すごく伝わってきたよ…。それに彼女も同じような夢見てるって、もう運命感じちゃうじゃん!?!? 「まだ二人とも気づいていない」ってラストの一文、めっちゃ心臓ぎゅってなった…。この先どうなるの、気になりすぎて今夜眠れないかも…!!🌸