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「優也くん、私、今日ご飯食べた?」
「ちゃんと食べたよ、涼音。」
「そうだっけ?良かった〜!」
「食後のお薬飲もうね。こっちおいで」
「うん!」
涼音は俺の彼女だ。
大学で同じ部活になり、それから3ヶ月ほど連絡を取りあって無事付き合うことができた。
俺は大学3年生、涼音は大学2年生。
そろそろ付き合ってから1年が経つのだが、涼音はその事を覚えていないだろう。
それは、涼音が精神の病気を患ってしまったからだった。
それは認知症のようなもので、記憶や思考の能力が低下してしまうものだ。
これは3ヶ月ほど前に巻き込まれた車との接触事故が原因だった。
夜10時頃、車が外出中の涼音に突っ込み、幸い涼音が避けたことにより腕の骨折と頭を少し打っただけで命は取り留めた。
しかし、頭の打ちどころが悪かったようで、
精神の病気が発覚したのは事故から2週間ほど経ってからだった。
「優也くん、これ、何?」
涼音が指を指していたものは洗濯機だった。
「洗濯機、、、だけど、、、、、」
涼音は寂しい目で言った。
「使い方が、分からないの」
それからは食事の作り方、自分が住んでいるアパートの場所、俺の名前も忘れかけるなどの事があり、精神の病気だと言うことが俺でも見てて分かった。
それから事故から2ヶ月が過ぎた頃。
症状が少しマシになった。
家の場所が分かるようになったのだ。
些細なことでも、俺にとってはとても嬉しいことだった。
ある日、涼音はこう言った。
「1人で散歩に行ってみたいの。すぐそこの公園まででいいから、外を歩いてみたい。お願い、優也くん。」
さすがに1人で出歩くのは危険で心配だったのでここ2ヶ月はずっと俺の買い出しを付き添うだけだった。
家のドアの鍵は涼音が内側から開けられないように2重で鍵をしており、鍵は俺が管理していた。
さすがに1人で外に行かせてあげたいと思った。
そこで、俺はあるお守りを渡した。
「これを持っておきな。そしたら何かあったら俺がいつでも助けに行ってあげるから。」
「うん!優也くんが助けに来てくれるなら安心だねっ!行ってきます!」
そのお守りには、現在涼音がいる位置が分かるGPSが入っている。そのため、万が一道に迷ってもどこにいるかが分かる。
さらに無くすことの無いように鍵付きの紐で繋いであるため安心だ。
アパートから50メートル程の距離の、1番近い公園を目指して涼音は出発する。
久しぶりの外が嬉しいのかルンルンで外に出ていく涼音の背中を見ると、俺は成長している嬉しさと反対に少し寂しい気持ちにもなった。
障害のせいで俺なしでは日常生活が送れなかった涼音は俺を1番に頼ってくれた。
事故前も甘えてくれなかった訳では無いが、少し対応が冷たい気がしていた。
そんな時、涼音は浮気をした。
俺は今までにないくらい絶望した。
人生のどん底を味わっていた頃、涼音が事故にあったのだ。
色々なことが起こりすぎて頭が追いつかなかった。
けれど、今は違う。
俺がいないと彼女は生きれない、それだけで幸せだった。
そんなことを考えてるうちに涼音が帰って来た。
「ただいま、優也くん!ちゃんと行けたよ〜! 」
「おかえり!今度から1人でも出かけられそうだな!」
俺は涼音の頭を撫でてやった。
とても嬉しそうに微笑む笑顔は、惚れ直すほど可愛かった。
さらに3ヶ月がたち、涼音は1人でよく出かけられるようになった。
数十分の散歩は毎日の日課になっていた。
「優也くん、そろそろ夜ご飯?」
涼音は珍しく台所にやってきて、後ろから抱きついてきた。
「もうすぐだよ。危ないからあっちで待ってて〜」
優しく注意をすると、不服そうな顔をしながら
「え〜、料理してる優也くん、かっこいいからずっと見てたいのに〜、」
と、最後に強めにぎゅっとしてから残念そうにリビングへ向かった。
料理を出すと、涼音は嬉しそうに食べていた。
食べ終わった頃、ちょっとした提案をする。
「後で一緒に夜のお散歩に行こうか?」
すると今にも泣き出しそうな顔で
「今日はお散歩お休みにして優也くんとおうちでゆっくりしたいのにっ、、」
「そうだったのか〜!ごめんな、じゃあ今日は映画でも見ようか」
「うんっ!見たい!」
涼音はぱっと明るい笑顔を見せ、そそくさと食器を運んで行った。
そんな感じで映画も見終わり、ベッドへ入る。
おやすみ、と互いに言い合ってから同じベッドで寝る。
深夜1時頃だろうか。
玄関から “ ガチャリ ” という音が鳴った。
俺はとても驚き、玄関を見に行こうとするが、重大なことに気がついた。
「涼音がいない」
俺は焦ってとりあえず玄関を見に行ったが、そこには何もいなかった。
2重で鍵をかけていて、チェーンもつけているのにどうやって扉が空いたのだ?
鍵はポケットへ常備している、、、はずだった
「鍵がない」
何故だ?
どこにも出した記憶は無い。
外へ出たのか?
それとも何者かにさらわれた?
いや、たまたまトイレに行っているとか?
色々な有り得そうなことを考えた。
トイレも、お風呂場も、洗面所も、台所も、ベッドの下も。
どこを見ても涼音がいない。
俺は考える暇もなく、軽い部屋着に着替えて外へ飛び出した。
「涼音!涼音!どこへ行った!」
ただただ涼音が無事で帰ってきてくれることをひたすらに願いながら俺は夜の住宅地を走った。
よく行っている公園、スーパー、駐車場。
どこを探しても涼音がいない。
なぜ涼音だけが居なくなったのだ。
涼音はなぜさらわれたのか。
いや、自分で外に出たのか?
ではなぜ外に出たくなったのか?
そんなことを考えていると、1人の男が追いかけて来た。
「痛い」
俺は男に地面に抑えられ、身動きが取れなかった。
男は最後にこう言った。
「午前1時47分、容疑者逮捕。」