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「優也くん、私、今日ご飯食べた?」
「ちゃんと食べたよ、涼音。」
「そうだっけ?良かった〜!」
「食後のお薬飲もうね。こっちおいで」
「うん!」
またこの薬。
今日も飲むふりをして袖の中へ入れた。
優也が渡してくる薬。
それは病院から処方されたものでもなく、薬局で売ってるものでもない、いわゆる” 違法薬物 “ 。
その薬を飲んだフリをして私は演技をする。
「見て〜!ちゃんとお薬飲めたよっ!」
空の錠剤の入れ物を見せる
「おっ!偉いじゃん、よくできたな〜」
優也が私のことを優しく撫でる。
その手が私は怖くて怖くて仕方なかった。
けれど優也に怪しまれないよう、満面の笑みを見せる。
その笑顔が好きみたいだ。
3ヶ月ほど前の事だった。
その頃はまだ付き合って1ヶ月だったため、サプライズでバッグをプレゼントしたいと思い、兄と買い物に来ていた。
「これがいいかな?どう?こっちの方が使いやすい?」
私が2つのバッグを見比べながら兄へ尋ねた。
「俺的にはこっちが使いやすいと思うけどちょっとデザインがな〜、、」
大人っぽい光沢のある深緑の布に少し花の刺繍がしてあったため、私は可愛いと思ったが兄的には人によって使いずらいかもしれないということだった。
とりあえず今日は見るだけにして、違う店で探すことにする。
昼頃に兄と別れ、電車で1時間ほどの自宅のアパートへ向かう。
お土産にクッキーを買って帰ったため、家に着いたのは夕方になってしまった。
「ただいま〜」
家に入ると、やけに静かだった。
少し違和感を感じながらもリビングへ向かい、そっと扉を開ける。
「優也、?」
薄暗い部屋で1人、呆然とソファに座りながら外を眺めている。
すると急に口を開いた。
「浮気?」
低い声で私のことを鋭い目つきで睨む。
背筋が凍った。
浮気などしていない。兄と優也のプレゼントを買いに行っただけ。
サプライズにしたかったからこのことは友達と出かけると伝えていた。
兄と優也は会ったことがなく、写真も見たことがないため勘違いしてしまったのだろう。
「優也、違うの。あれは私の、、、」
兄、と言おうと思った次の瞬間、頭に激痛が走った。
「痛いっ」
テレビのリモコンと買ってきたクッキーが床に転がる。
頭がとても痛かった。
そして彼は こう言った。
「俺の苦しみ、絶対味わせてあげるから。」
次の日、1日何も話すことなく自室で静かにしておいた。
玄関に2重で鍵を取り付けられたため外に逃げ出せなくなってしまった。
鍵は優也の上着のポケットへ常に入っているため勝手に開けれないのだ。
昨日の一言が頭から離れない。
初めて怖いと思った。
逃げたいとも思った。
けれど逃げられるはずもなく、今後について色々考えているうちに眠気に襲われ、そのまま意識を失った。
目が覚めるといつの間にか夜中の9時になっていた。
「起きた?」
全然気づかなかったが、ベッドの横に優也がいた。
「う、うん、」
「脅かしちゃったよね、ごめんね」
私の頭を優しく撫でた。
暖かくて大きくて安心する手。この手が大好きだ。
「今日は俺がご飯作るから、買い物だけ頼んでもいいかな。送り迎えは俺がするよ。」
自分からご飯を作るなんて珍しいと思いながらも、私は快く受け入れた。
あんなに怒っていたのに許して貰えた気がして胸を撫で下ろす。
「分かった、すぐ行く!」
私は簡単に支度をして、近くのコンビニに車で送ってもらった。
普段はスーパーに行って食材を買って手料理を振る舞うのだが、今日はもう夜遅いので冷凍で我慢することにした。
案外サクッと決まり、車に戻ろうとコンビニを出るとそこには車がなかった。
「優也、、、?帰っちゃったのかな、」
メッセージも来ていない。
不思議に思いながらも仕方なく歩いて帰ることにした。
街灯も家も少ない道。
今襲われても助けて貰えないのかなって思いながら歩いていると後ろから車の音が近づいてきた。
歩道に上がったが、少し様子がおかしい。
スピードを落とさない。
怖くなって後ろを振り向くと車のライトがすぐそこまで来ていた。
” 殺される “
そう思った瞬間、 『逃げろ』と頭に響く。
思い立ったと同時くらいの勢いで、私は車が向かってきている歩道とは反対側の歩道へ走り出した。
ドンッと鈍い音が響く。
幸い少し車と接触しただけで自転車で転んだくらいの衝撃だった。
頭と腕がとてつもなく痛い。
意識がもうろうとする中、薄目で自分の体の状態を確認する。
腕が変な方向に曲がっている。
血液っぽいものは見えないので頭は切れてない。大丈夫。
耐えろ、頑張れ。
必死に心を落ち着かせていると人影が近ずいてきて私の傍でしゃがみこみ、耳元で囁いた。
「お仕置だよ。」
次に目が覚めたのは5日後だった。
気づくと家のベッドで寝ていた。
腕には包帯が巻かれている。
優也の両親が医療系の仕事をしているので多分巻いてくれたのだろう。
少しすると優也が部屋に入ってきた。
「涼音、!」
目を見開き、驚いた様子様子で近ずいてくる。
「死んじゃったかと思ったよ、良かった、生きてて、、、」
涙目でそう伝えてくる。
優也じゃん、私をひいたのは。
私がこうなってしまったのは優也のせいじゃん。
なのになんで知らないふりをするの。
こんな人だとは思わなかった。
私は恐怖よりも内心怒りが勝っていた。
ここで私は決断した。
” 絶対にこんな人から逃げる “ と。