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「うおおおおおおお!!」
シャービットが気合いの雄叫びを上げ、左側から迫る蔓に付いた網玉を迎え撃つ。
メレンゲの体を捻…ろうとしたが、操作が大雑把なのか、全身の向きを変えながら右ストレートを放った。
ぼふっ
「ぐへっ」
網玉がメレンゲの青白い腕にめり込み、パルミラの潰れたような声が聞こえた。
そのパルミラの体が一瞬遅くなり、蔓の先端ごと少し垂れ下がる。
パルミラの勢いが一瞬だけ衰えたその時、もう1つの網玉がヴェリーエッターの背後に迫る。
どふんっ
餅によって振り回されたラッチが、ピンク色のメレンゲ部分に突っ込んだ。
(なんかヌルッとする……)
一瞬呑気なことを考えたラッチだったが、パルミラと違い勢いは衰えず、そのまま胴体を突き抜けた。
同時に一瞬勢いが落ちたせいで蔓に釣られる形になったパルミラが、腕から引きずり出された。
「ああーーーっ!!」
シャービットの悲鳴が上がる。
網状になった2つの玉の中に、大量のメレンゲが入っている。外側にも少しこびりついている。勢いよく突っ込んだ網玉によって、メレンゲが掬い取られたのだ。
見ると、ヴェリーエッターの腕と胴体の大部分が無くなっていた。
「なんてヒドい事するん!」
「上手くいったようですね。あれで回収して料理していけば、例え諦めてくれなかったとしても、いずれ無力化できます」
時間はかかるが確実な対抗手段を確立した事に、少し安心感を覚えるオスルェンシス。
パルミラとラッチの2人は、そのままミューゼとパフィの所に引き戻されていった。
「ふぅ、上手くいったねパルミラ」
「そうなんですけど、重い……」
球状のまま話をし、網を開いて中のメレンゲを出している。形に変化はなくとも、青色で重くなったメレンゲの重さはしっかり感じるらしい。
パルミラとミューゼは重さをしっかり感じているが、落としているメレンゲを見ても重さがあるようには見えない。そこでもアリエッタの謎を感じるミューゼであった。
パフィとラッチの方も包み込んだメレンゲを出しながら話をしている。
「ふっ、我が本気を出せばこんなものだ」
「……まぁラッチの言う通りなのよ。良い感じなのよ」
球体が意気がり、パフィが呆れつつもしっかり褒める。作戦自体は上手くいってるので、わざわざテンションを下げる意味は無いのだ。
メレンゲを出している間に上を見ると、シャービットが慌てて青白いメレンゲを取り込み、元の形に戻そうとしている。
「先にあの周りのメレンゲをどうにかした方がいいのよ? でもどうするのよ」
「フェリスクベル様の魔法で固めて落とすのは?」
「固まったメレンゲが落ちてきて危ないのよ」
「じゃあしばらく振り回されればいいリムか?」
「うーん……」
ミューゼの家の広くなった土地の上空に浮かぶ、大量の青白いメレンゲ。それを一気にどうにかしないと、とにかく面倒くさい。そう判断したパフィは、焦っているシャービットを見た。
「あの子叩き落としてしまえばいいのよ」
「……妹さんじゃなかったっけ?」
身内に容赦ないパフィの発言に、球体がちょっと驚いている。
ふっふっふと含み笑いをしてから餅を操り、再び球体を空中に持ち上げた。
「よーし、ミューゼ。本体を叩くのよ!」
「えぇ……」
「家族ですよね?」
ミューゼとパルミラも同じく引いている。
こうして再び空のヴェリーエッターへと狙いを定めるのだった。
意気揚々と事を進めているが、この場で1人だけ、背後から冷たい視線をミューゼとパフィに送る人物がいた。
(みゅーぜもぱひーも酷い……しゃーびっとが頑張ってヴェリーエッターを作ってくれたのにっ!)
ロボット大好きアリエッタである。
材料はメレンゲ、かろうじて人型と角ばったフォルムを形成している2色だけのロボットだが、魔法のような能力で作られた事もあって、結構気に入っていたのだ。
そしてそれを壊したミューゼ達に、ちょっと怒っていた。
「ど、どうしたアリエッタ? なにかあったのか?」
そんなアリエッタの好みと憤りを知らないピアーニャが、おろおろと様子を伺っている。まさかミューゼ達に怒りを向けているとは思っていない。
「ほらもうすぐミューゼたちが、シャービットをとめてくれるからな。おとなしくまつんだぞ」
「うー」(しゃーびっとを助けるべきか、今回ばかりはみゅーぜとぱひーを懲らしめないと」
どうやら喧嘩する気のようだ。
しかし自分には空中にいるシャービットを助ける事が出来ないと思い、方法を考える。
「!」
「む?」
どうやら何かを思いついたようだ。やる気に満ちた顔になって、ピアーニャを抱き締めた。
一方、空中のメレンゲを取り込んで復元したヴェリーエッターが、再び体を抉り取られていた。
「ちっ、シャービットを狙ったのに避けられたのよ」
「何してるんお姉ちゃん! 危ないん!」
「迷惑かけてるんだから、怪我くらい我慢するのよ!」
「嫌なん! それ痛いん!」
姉妹喧嘩がだんだんエスカレートしていく。
流石にミューゼはそこまでやる度胸は無いので、下半身を狙ってメレンゲを減らしている。
そしてピアーニャの横でアリエッタの怒りが膨らんでいく。
「お、おい……アリエッタ」
「ふんす!」
「これやるのか? ダイジョウブなのか?」
「ふんす!」
「うぅ……ホンキなのか」
アリエッタに手渡された紙を見て、ピアーニャが不安に駆られているが、挙動がおかしいアリエッタに逆らう気が起きないようだ。アリエッタもピアーニャを抱いたまま興奮していて、ピアーニャの顔色を伺おうとしない。
そんなアリエッタ達の動きに気づいていないミューゼ達は、せっせとヴェリーエッターからメレンゲを撤去し続けている。
実は攻撃手段を持たないシャービットは、頑張って避ける事しか出来ない。
「うわわっ、ちょっと腕もすり抜けてくるん! 怖いん!」
防御手段も無かったようだ。
「存在自体が弱点みたいなメレンゲゴーレムねぇ……」
「全部のメレンゲを没収されて落ちるか、直接ボコられて落ちるか選ぶのよ!」
「もうやめるん怖いん!」
さらに容赦なくヴェリーエッターのメレンゲを抉り取るべく、蔓と餅を伸ばしたその時、ピアーニャがアリエッタを連れて動き出した。
勢いよく『雲塊』で飛び出し、ヤケクソで吠えながら飛んでいく。
『うおおおおおおおおお!!』
野太い声が響き渡り、2つの影がそれぞれ蔓と餅の根本へとたどり着いた。
「うわなぃっ!? アリエッタ!?」
「むーっ! みゅーぜ、めっ! いやっ!」
「えっ……」
アリエッタがミューゼに強烈な精神攻撃を仕掛け、その間にピアーニャが蔓を切って、剣山状にした『雲塊』で刺し、ミューゼの支配から奪い取った。
そしてもう1つの影が向かった餅の根本には……
「ぎゃー! 筋肉なのよ! 変態なのよ! なんでなのよ!」
「はははは! キミか! その節は世話になった! ところで大きめの服をくれないか?」
「なんでなのよ!?」
なんと、エインデルブルグで破れた服から可愛いミニスカート姿に着替えたケインが、パフィの前に突然現れ、いきなりアピールをし始めていた。その際に、着替えたばかりの服の端がちょっぴり裂けてしまっている。
「アイツどこからとんできた?」
「ぴあーにゃっ、これ」
「お、おう」
ピアーニャがケインを気にするが、アリエッタが絵を使って急かしてくるのでそれどころではない。慌ててヴェリーエッターの腕へと飛んで行った。蔓は少し短めに切ったので、先端のパルミラは地面に落下する事は無かった。
「ど、どうするのだ?」
「あれ? アリエッタちゃん? どうしたん?」
ヴェリーエッターの頭部にいるシャービットがアリエッタ達に気付き、キョトンとしている。
アリエッタはニコリと微笑み、ポーチから紙と橙色の葉の束を取り出した。紙には絵が描かれていて、それをシャービットに見せた。
「えっと、その通りにすればいいん?」
「らしいぞ」
書かれていた絵は、ヴェリーエッターが蔓を持っている絵が描かれている。その通りにするには、メレンゲの手で蔓を持つ感じになるように、包み込むしかない。しかし物理的に持つ事は出来ないのだ。
しかしアリエッタの気が済むならばと、とりあえずその通りにしてみた。
(で、これを、ぽい)
アリエッタが橙色の葉を少し細かく千切り、メレンゲの手に放り込んだ。すると、青白い手がみるみるうちに橙色に染まっていく。蔓を包み込んだ部分も、橙色になった。
「すごいん。どういう事……え?」
「どうした?」
「蔓が外れないん。ちゃんと持ってるん!」
「なにいいいい!?」
形を持たないメレンゲである筈の手で、重い物を掴んでいる。そんな不可思議な現象が起こっていた。
「あれ? 形を変えられなくなったん。でもくっついたままなん。どういう事なん?」
「……あいかわらず、ワケがわからんな」
シャービットがメレンゲを支配したままだが、上手く操れないようだ。動かせるようだが変形が出来なくなっていた。
しかも、ヴェリーエッターの高度が徐々に下がっている。
「ぴあーにゃ、あっち」
「お、おう?」
(関節部分に入れないように、ぽいぽいっと)
空中を移動中に、アリエッタは所々に橙色の葉の欠片を放り込み、メレンゲの色を変えていった。
その頃、パフィの所に現れたケインは、パフィから話を聞いていた。
「ふむ、まとめると、キミは妹を止めるために、メレンゲを奪っていたと」
「そーゆー事なのよ」
「実際にみせてもらえるか?」
「……まぁいいのよ」(さっさと帰ってほしいのよ)
再び餅でヴェリーエッターを攻撃…する前に、チラリとミューゼを見ると、屋根の上で膝をついて凹んでいた。アリエッタに怒られたのが相当答えたようだ。
その瞬間を見ていないパフィは、首をかしげるも、今はメレンゲ没収中である。気を取り直して餅を構え、上を見た。
「……なんでアリエッタがいるのよ?」
そこでようやく、アリエッタとピアーニャがヴェリーエッターの近くにいる事に気付いた。一瞬攻撃を躊躇うが、そもそも餅は自由に操っているのと、ピアーニャなら自分の攻撃にそうそう当たる事は無いと信頼しているので、首を傾げながらも球体を上に飛ばした。
しかし、再度メレンゲを奪おうとしたその時になってようやく、ヴェリーエッターの色が変わっている事に気付く。そして橙色の部分に球体が接触した。
ごんっ
「いだっ!」
「ん?」
なんと、これまで問題無くメレンゲの体を通り抜けていたラッチが、硬い音と共に弾かれてしまった。
一体何が起こったのか、それを考える間もなく、ヴェリーエッターの腕が動き、伸びていた餅をつかみ取る。
「うえぇっ!? ちょっ……なんなのよ!」
突然の事で餅を手放してしまい、そのまま奪われてしまった。
ヴェリーエッターは両手に持った蔓と餅を、その勢いのまま振り上げた。
「うわっとと……取れちゃったん! 凄いん!」
「いいからそれをおろせ! あぶないから!」
(おお、なんかハンマー二刀流になった、ロマンだなぁ)
こちらも突然の事で慌てて、うっかり腕を上げて振り上げる形になってしまったが、ピアーニャの助言に従って腕を降ろした。
それが丁度、パフィに向かって2つの球体を振り下ろす状態になってしまったのだった。
「わ゛ーーーー!」
ドンッ