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「……アレの色変わってるけど、何が起こってるの? なんかちょっと浮いてるし」
地下水路から出てきたネフテリアが、急いでミューゼの家へと戻っていた。パフィに撃墜される前に見た光景と違い、人型のメレンゲは宙に浮かび、球体のついた長い鞭のような物を振り回している……ように見える。
さっきよりも更によく分からない事が起こっていると思い、最短距離で向かう事にし、空中を走っているのだ。
(ん? なんか視線を感じるような?)
一瞬眉をひそめ、足を止めて下を見た。すると、沢山の人々と目が合った。
「薄い青か」
「あわわ」
「ははは、ボウズには刺激が強かったか」
「すばらしい青空だな」
「………………ひっ!?」
慌てて足を閉じてスカートの裾を押さえるも、真下からの視線は防げない。むしろ止まってしまったせいで、人が更に集まってくる。
「みっ見るなあああ!!」
恥ずかしさのあまり、思いっきり手に魔力を込め、真下に放つ。
「【閃炎花】!!」
ネフテリアの手から無数の熱線が放たれ、広範囲に渡って激しい爆炎を撒き散らした。
ちゅごどごひゅどどどどっ
「ぎゃああああああ!!」
「あづっあづう!」
「だあああ俺の部屋ああああ!」
熱量と破壊力はそれほど無く、直撃しても少しの衝撃と火傷を負う程度の、見た目だけ派手な火の魔法である。慌てて全力で放ったせいで、ちょっと火力が強くなっており、偶然窓から熱線が入ってしまった部屋が燃えてしまっているが。
メレンゲと町を少し焼いたネフテリアは、慌てて中を目視出来ない程の高度へと駆けあがっていくのだった。
地面にはパルミラとラッチが、目を回して倒れていた。叩きつけられた衝撃で気を失い、形も元の人型に戻っている。
その傍で、パフィとケインが立っていた。
「……え? 私無事なのよ?」
「うむ。危なかったな」
真上から球体のラッチを落とされたにも関わらず、痛みも衝撃も無い事に気付いたパフィは、自分の体を確認。そして周囲を確認しようとして顔を上げると、目の前にミニスカートに覆われた筋肉隆々の太腿があった。
「ひっ!?」
「はっはっは。そんな顔で怯えるなよ。ちょっと目が熱くなってきたんだが? いいのか大の大人が惨めに泣いても。どーなっても知らんぞー?」
ちょっと悲しくなったケインが、少しだけ目を潤ませながら、謎の脅しをかけている。
固まっていたパフィが何を言っているのかを理解して、目を点にしていた。
「まぁいい。今はあのデカブツをどうにかするのが先だ。泣くのは後で部屋の隅でやるとしよう」
(結局泣くのよ? 大丈夫なのよこの人?)
ケインが見上げる先には、先端が取れてただの大きな紐になった餅と蔓を持つヴェリーエッターが立っている。ゆっくりと下降していたが、先程ついに地に足をつけたのだった。
その頭部で、シャービットがピアーニャに怒られているが、アリエッタがシャービットを庇う為に、ピアーニャを叱り始めた。
「な、なんだ?」
「しゃーびっと、めっ、いいえ。N□いゎ×Dぁ~ぴあーにゃ、めっ。ヴェリーエッター、@&▽すきЭB◎!」
「……なんて? いやちがう。わちはシャービットをっ、こらやめろっ」
所々言語が入り乱れ、何を言っているのか分からない所があったが、とりあえず自分が怒られているのではと推測出来たピアーニャ。そのままアリエッタに捕まり、ぎゅーっと抱きしめられてしまった。
年齢は大人だが、体格と力は幼児そのものなので、自分より大きいアリエッタの拘束から逃れる事は難しいのだ。
「シャービット、たすけて……」
「羨ましいん! 総長さんなんか知らないん!」
「まって──」
「ぴあーにゃっ、めっ!」(悪い子にはお仕置きしちゃうぞ!)
つんつんぷにぷになでなで
「ひーっ」
アリエッタがプリプリ怒った顔をしながら、ピアーニャの額を突いて、頬を突いて、何故か頭を撫でる。本人達は真剣そのものだが、傍から見ればただ可愛いだけのやり取りである。
「……可愛いん。これは危険なん」
「アリエッ…タ、やめぷぃ…んにああぁ~」
ピアーニャは何故怒られているのか分からないまま、ひたすらプニプニされるしかないのだった。
「何やってるのよ? まぁ今のうちにミューゼ……え?」
パルミラとラッチがオスルェンシスに回収されているのを見て、改めて対策を立てるべくミューゼを見ると、魂が抜けたように凹んでいる。先程アリエッタに「いや」と言われたのが効き過ぎたのだろう。
「……ママ、ミューゼの回収」
「なの」
何があったのかは知らないミューゼを何とかするのは後回しにして、今は先にシャービットを落とす方が先。そう考えたパフィは、サンディにミューゼの事を任せ、ケインの横に立った。
「総長はなんかあそこで動けなさそうだし、アリエッタも捕まえなきゃいけないのよ」
「とりあえずあの子を捕まえる…でいいんだな?」(水着の時も思ったが、でかくね?)
「なのよ。何か方法でもあるのよ?」(太腿が無駄に色っぽいのがムカつくのよ)
「登ればいいのではないのか?」(っていうか、髪の毛が3色とは変わってるな。ボリュームも凄いし)
「アレはメレンゲだから、触っても沈むのよ」
「そうなのか?」
「でもあの色が着いたら、いきなり弾かれたのよ」
「ふむ?」
ケインはとりあえず言われた内容を確認する為、直接ヴェリーエッターに突撃する事にした。拳を突き出して、沈み、弾かれ、そしてまた沈む。
数回それを繰り返した時、横から餅が迫ってきて、大きく回避。パフィの近くへと戻った。
「何するん。お姉ちゃん、変態と仲良いん? 大丈夫なん?」
「なんで心配してるのよ。別に仲が良いわけじゃないのよ。……ママも心配そうに見ないでほしいのよっ」
「おうパフィちゃん。あの橙色の部分だけが硬くて掴めるようだぞ」
「そ、そうなのよ?」
「パフィ、お母さんは心配なの」
「お姉ちゃん……」
「だから違うのよおおおお!!」
親し気に名前を呼ばれ、思いっきり誤解が深まってしまった。今度はパフィが泣きそうになっている。
「おのれシャービット許さないのよ……」
「わたしだけなん!?」
辛い気持ちを怒りに変え、シャービットに向けた。半分八つ当たりである。
しかし攻撃しようにも、餅はヴェリーエッターが掴んでいて、協力していたラッチも気絶中。しかしパフィにはまだ手段が残っているようだ。
顔を見てそれを察したケインは前に出て、先に攻撃を仕掛ける事にした。
「はっ!」
その脚力にものを言わせ、一気にヴェリーエッターの胸部まで跳び上がった。
シャービットが驚いて硬直する。
「ふえっ!?」
「おらっ!」
ドンッ
胸部を殴りつけると、その橙色になっている部分はビクともしないが、それ以外の部分が衝撃で飛び散る。そして慌てて近くのメレンゲを吸収して復元する。
(まずいん、空にあるメレンゲが取れないん。これじゃ減っていく一方なん)
「あわわ……むー!」(このヴェリーエッターって衝撃に弱いのか! あの女装男、許さん!)
アリエッタがケインを敵認定した。
(しかもあれって、前に海でやっつけた変態じゃないか! ぐぬぬ……)
「なんかあのお嬢ちゃんに睨まれてるんだが……俺様なんか悪い事したか?」
明確な怨恨まで湧き上がっていた。ポーチから筆を取り、ピアーニャを抱きしめながら地上を睨みつける。
「ぴあーにゃ、あれH△ηRぁΨ=w∀Gぃ、めっ」(あれは見てたら教育に悪い、見ちゃ駄目だよ)
「なんだ、なんなのだ……」
アリエッタが前世の言語と教わった言語を混ぜて、色々喋るようになっていた。意思が通じるかどうかは別だが、これも会話への大事な進歩である。
色々言った後、ピアーニャをしっかり掴んだ状態で、『雲塊』の端に立った。
「危ないのよアリエッタ!」
「まずはあのお嬢ちゃんを連れてきた方が良いな」
「……仕方ないのよ。私はデカい方をなんとかするのよ」
出来ればアリエッタの方は自分でなんとかしたかったパフィだが、手に持っているのはヴェリーエッターへの対抗策。しかもケインのような跳躍力は持っていない。
あまりアリエッタに触ってほしくなかったが、現状をどうにかする可能性は今の自分には無いので、ケインに任せるしかないのだった。
「シスさん、アリエッタが連れてこられたら、預かってほしいのよ」
「了解」
「やってやるのよ!」
この後の事をオスルェンシスに頼むと、パフィは手を液状の物で包み、ヴェリーエッターの足へと駆けて行った。
「っしゃあ行くぜ!」
続いてケインが地を蹴り、『雲塊』より高く跳び上がった。
「くぬー!」(ぴあーにゃにそんなモノ見せるなっ来るなっ!)
「うぷっ」
アリエッタは左腕でピアーニャを抱き寄せ、ケインを見せないようにしつつ、右手で筆を空中に滑らせる。
そして一瞬で書き上げた絵を斜め上に向かって発動した。
「ぅだっ! なんだ?」
アリエッタの【侵入禁止】である。
空中で見えない壁に阻まれたケインが驚愕し、空中で見えない壁に乗った。斜めで掴まれる所が無い為、少しずつ滑り落ちていく。
続いてアリエッタは黒色で円を描き、その中に三角形を書いた。そして【侵入禁止】を解除して、新たに描いた絵を発動する。
「えいっ」(くらえ変態!)
バラバラバラッ
「あだだだっ!? なんだこりゃ!」
(ちいさいコオリ? ……いや、ちがうな)
円の中から白い小さな粒が無数に発射された。弾かれた状態で追い打ちを食らったケインは、身を守りながら落ちていった。
ケインに当たって跳ね返った粒を見て、ピアーニャがその正体に気付く。
(かたいユキ? アラレか! そりゃジミにいたいな)
今回アリエッタが空中に描いたのは、【霰の天気記号】だった。それを【進入禁止】と同じく、魔法陣のように使用する事で、無数の霰を放出したのである。
「むふー!」
本来の魔法を使うイメージとは違うが、『魔法の様に放出する』という行為が成功した事で、アリエッタは嬉しそうにしている。ミューゼやネフテリアの魔法を見て、『撃つ』という現象がアリエッタの中で常識になりかけているという事も、放出を実現した要因となっていたりする。
(コイツ、もしかしてテンキもあやつれるんじゃないだろうな? まぁメガミだしなぁ……)
アリエッタの腕の中、その力の片鱗を見たピアーニャは、規模の大きな想像をしてしまう。そして、今のような暴走をちゃんと止められるように、早く言葉を沢山覚えてくれと思わずにはいられないのであった。