テラーノベル
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後編。
次に目を開けるとき、主人が外出する前は7を指していた短針が8を指していた。それに気づいたとき、私は自分が寝ていたということを理解した。1時間しか寝ていない?いや、きっと短針が一周するくらいは寝てしまった。
主人はもう帰宅しているかもしれない。部屋を見渡す。先ほどより大分暗くなっていた。歩けないほどではなかったが、朝と比べればかなり不都合だ。照明の様子をみるに、おそらく主人はまだ帰宅していない。その事実に私は胸を撫で下ろした。
実際部屋をまわれば、主人が家に帰った様子はなかった。洗面所のタオルも濡れていない。トイレのスリッパは動いていない。畳まれたままのジャージもそのまま。キッチンの空っぽのマグカップも、1mmとして変化していない。でも、あと10分も経てば多分主人は帰ってくる。それはすでに習慣化したことだった。
玄関の前に移動する。主人が帰ってきたら、すぐに出迎えられるようにするためだ。帰ってきた主人に頭を撫でてもらえるように。
横向きになったサムターンを見る。あれが縦になったら、主人が帰ってくる。あれは外の世界と私が生きるこの部屋が一時的に接続したときにしか動かない。主に、主人が出入りするときしか動かない。
★
黄金色の金属でできたそのつまみを見つめ続けてしばらく経った。そろそろ私が見つめ飽きたあたり、そこらへんで、「がちゃん」と音をたててサムターンが縦向きになる。壁に預けていた体を引き剥がし、玄関に顔を向ける。私が体勢を整え直し、立ち上がったあたりで扉は開いた。扉の影から、ひょこりと主人の頭がのぞく。私の姿を確認して、主人は即座ににっこりと笑った。
「また出迎えてくれたの?」そう言って靴を脱ぎ、玄関に座る。そのまま立っている私を軽々と抱き抱え、再び背中に腕を回した。背中の腕に力がこもる。私も主人の服を掴み、離さないようにする。主人はただいまと言った。私もそれに応える。主人の指は、外に行ってもいつもと同じように暖かかった。それに安心する。心地良くなる。
主人は靴の踵を揃え、立ち上がった私の頭を優しく撫でる。私の喉がなる。
「今日も遅くなってごめんね。奈々美のレポート手伝ってて・・・晩御飯にしよっか。」手に持っていたビニール袋をもちあげ、キッチンの台に乗せる。洗面所で手を洗い、乾いていたタオルを濡れた手で濡らす。手で器を作るようにして水を汲み、口に入れてうがいを3回。口を拭いたあと、再び主人はキッチンに立って袋から買ったものを取り出す。
中から出てきたのはいくつかの野菜とパックに詰められた肉、牛乳、そして手のひらサイズの銀色の缶がひとつ。缶を棚の上にしまい、主人はエプロンをつけた。そのまま独り言のように「よし」というと、おろしていた髪をヘアゴムで結んで、ぶかぶかだったパーカーの袖を綺麗に捲る。私は料理している主人をみるのが好きだ。
野菜を洗って、まな板の上で切って、フライパンに油を敷いて、火をつけて。そのまま炒めて、お肉も入れて。油が跳ねる音がする。主人が「あちち」と何ごともないように呟く音がする。私は静かに主人の背後に周り、フライパンの中身を確認する。主人は野菜に目をむけたまま静かに私を退ける。
「油はねる。危ないからあっち行ってて。」自分の安全を考えた上での判断だとわかっていながら、少し私は不機嫌になる。小さく主人が私に手を払うのも、多分それの原因だ。私は何も言わずにキッチンから離れて、布団の上に寝そべった。すでに布団は冷たくなっていた。主人の匂いが薄れている代わりに、今度は私の匂いが染み付いている。その事実に少し悲しくなる。
主人の歌が聞こえた。あまりリズムの取れない曲。多分自作。軽くて、朗らかな曲。のんびりしてて、能天気な曲。私はその歌に耳を立てる。
明日はいい日になるのかな ならなくてもまあいいや
お腹が減ったら食べればいいし 眠くなったら寝ればいいし
窓の外には雲がある 流れていけばそれでいい
あなたとの時間さえあればいい
「そーれだけあ~れば~ まあいいや~♬」主人がフライパンを振る。あとは間奏に入ったのか、鼻歌で同じメロディを歌っていた。それをしばらく繰り返した頃、主人は火を止めて炒めていたものを皿に盛り付けた。私も体を起こし、主人がレポート制作に使っていた机のそばに行く。主人も昨日炊いたお米と炒め物をのせた平皿、箸を机に置き、そのまま椅子に座る。そのまま手を合わせ、いただきますと言って箸を動かした。私は立ったまま主人を眺める。主人がそれに気づく。口に運んでいた箸を止め、ゆっくり立ち上がる。「あーごめん、忘れるところだった」そう言って私の頭を撫でる。私は上目遣いに主人を見る。主人はキッチンに戻り、棚の上から銀色の缶を取り出した。それのプルタブに指を掛け、ぺりっと音を立てて蓋を剥がす。いい香りが空気に溶ける。主人はそれを床に置く。そして座っていた椅子に再び腰を下ろした。
私はしゃがんで床に置かれた缶を見る。主人はもうすでにご飯を再び食べ始めていた。私もお腹が空いている。そのまま缶に口を近づけ、下で舐める。そのあと、私は缶の中の加工魚肉に歯を立て、口に入れた。そのまま咀嚼し、飲み込む。いつも通りの味。安心の味。私の頬が綻んだ。
☆
「よし、ちゃんと食べれてえらいねぇ」空になった缶の前で座る私に、主人が微笑む。そのまま缶を水で洗い、ゴミ箱の中に捨てた。主人は再び手を洗い、私を抱き上げる。首の付け根に鼻を近づけ、腰に手を回す。腰に回された手が、背中をなぞり、それに従い私の背中は弓形になる。喉がなった。主人の手の力が強くなる。ゆっくり、細い指先が私の背中と腰を伝う。唇が勝手に開いて、想像もしていなかったようなか細い声が口から漏れた。
「今日もしちゃう?」主人が耳元で呟く。私は頷く。主人はそのまま、寝室に私を運び、中から扉を閉めた。布団に寝転がらされた私を見て、主人は口角をあげる。
「いろいろ試してみたいことあったんだよね。ほら、これとか。」そう言って主人は箪笥の上から、初めて見る棒状のものを取り出した。
とある女学生の電話 | R08/06/07 08:48:56~
わたし:ねぇ、お願いだよ 奈々美~ ゼミの出席カード代わりに出してよぉ、
奈々美:えーやだよ。先週もやったじゃん
わたし:まあそうなんだけどさァ・・・ 仕方ないじゃん、起きたらこの時間だったんだよ?
奈々美:はぁ?またあの子と夜更かししてたの?
わたし:そうなんだよ~
奈々美:お前大好きすぎない?
わたし:・・・だって鳴き声可愛いじゃん
奈々美:それは知ってるけどさぁ
わたし:新しいおもちゃとか試してみたかったんだよ
奈々美:それで一夜明かす?
わたし:明かしちゃったんだよ! ねえ駄目? わたしも昨日奈々美のレポ手伝ったじゃん
奈々美:はぁ、OK。っていうかあんたおもちゃって何使ったの?この間うちがあげた猫じゃらしとか?
わたし:うん。そうだよ~。 ぴょんぴょん飛び跳ねてて可愛かった!
奈々美:ふーん・・・。あんたが猫好きなのは知ってたけど、ほどほどにしときなよ?
わたし:は~い じゃあ、カードよろしく!
奈々美:今度一食奢ってよ?
わたし:任せとけ!
_通信時間 02:22_
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