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戦士のクレイグは、身体中に激痛を感じた。
……しかし、身体が動かない。
指先や太ももあたりは何とか動かせるものの、それ以外は動かせず、長い苦しみを味わっていた。
そして長い長い時間が過ぎたあと、ようやく、目から景色が入ってきた。
「――う……、ここは……?」
「あ、気が付きましたか?
ここは誰もいない山小屋なんですけど……あなた、近くで倒れていたんですよ」
「お……俺、が?」
クレイグが横になっている粗末なベッドの横で、アリアが看病をしていた。
クレイグは記憶を何とか探るが、いまいち思い出せない……。
頭にモヤが掛かったような。しかし身体の感覚が戻ってくるに従い、大切なことを思い出した。
「そうだ!! デボラは!? デボラはどうした!?」
その声と共に身体を起こす。
しかしその瞬間、激痛が全身に走る。
「――うぐぁっ!!?」
「あっ、まだ安静にしていないと。
効果の高い治癒薬は使いましたが、まだ動けないでしょう?」
「ぬ……、そうか。俺は怪我をしていたのか……。
そして、君が助けてくれたんだな。本当にありがとう……。
――それで、俺の娘がいたはずなんだが……見なかったか?」
「いえ。あたしが見つけたのは、あなただけでした。
全身を怪我していて、一時はどうなることかと思ったのですが」
「そうか……。……そうだ。俺と娘は山賊に襲われて……」
「ああ、この辺りにアジトがあるって噂ですからね」
アリアの言葉に、クレイグが反応する。
「……君は、その場所を知っているのか?
娘の……デボラを助けに行かなくては……!」
アリアがクレイグを見つけてから、丸一日が経過していた。
もう無事ではないかも――と思いはしたが、アリアはその言葉を飲み込んだ。
「大体の場所は察しが付いていますが……。
でもまずは、あなたの怪我を治してしまわないと。これでも、治癒薬を3本も使っているんですよ?」
「おお、そうだったのか……。俺は一体、どれほどの怪我をしていたんだ……」
「聞かない方がいいですよ~?」
「そ、そんなにか!? ……すまない、見苦しいものを見せたようだ」
「いえいえ、慣れっこですから」
「……しかし君は、神職者なんだろう? それなら、治癒魔法で治してもらうことは――」
「できません! あたし、治癒魔法がからっきしで」
「なんてこった」
「でも治癒薬なら、多めに準備していますよ!」
「……ッ!!」
クレイグは一瞬怯んだが、今はそれどころではない。
「俺は、デボラを助けに行かなくてはいけない。
代金は後で払う。俺を治癒してくれないか!?」
「はーい、かしこまりました!
それでは一気にいきますねぇ♪」
「いや、一気には――いや、いってくれ!!」
クレイグは急いでいた。早くデボラの元に駆けつけねば、と。
それなら今は、自分の痛みなどを気にしている場合ではない。
「ぐぁああああああ――っ!!!!
ぬぁああああああ――っ!!!?
ぐぉおおおおおお――っ!!!!」
「……ふぅ。少し前に数が足りなくなったので、良いものを多めに買い直しておいたんですが……。
やっぱり治癒魔法の方が、効果は高いですねぇ」
実際のところ、治癒薬を作ることは難しくない。そのため、それなりの量は流通している。
しかし激痛という副作用があるからこそ、怪我した場合には教会や医者を頼る風潮があるのだ。
「――……はぁっ、はぁっ。
傷はあらかた塞がったようだが……、身体の感覚が酷いな……」
それでも、クレイグはベッドから身体を起こした。
少しずつ身体に力を入れるように、静かに屈伸をしてから、どうにか立ち上がる。
そして身体のあちこちの筋肉を、関節を、順番に伸ばしていく。
「あたしからすれば、もう立ち上がってること自体がスゴイですけどねぇ……」
「今はそれどころではないからな。
早く、早く急がなければ――」
「まぁまぁ、急ぐ気持ちは分かりますけど。
準備もせずに行ったら、それこそ返り討ちに遭っちゃいますよ?
身体が動くようになったなら、次はちゃんと、栄養を取りましょうね」
「飯なんて食っている場合では――」
「あたしの言うことをちゃんと聞いてくれれば、あたしも手伝いますので!」
「……君が?」
クレイグの思考は止まった。
確かに今の状態で山賊のところに行っても、簡単に返り討ちに遭うだろう。
それならひとりでも味方を増やしていった方が――
……とはいえ、目の前の少女は見るからに華奢だ。
しかも、治癒魔法も使えない神職者……。一緒に行く必要は、果たしてあるのだろうか。
「とりあえず、ちゃちゃっと食事の準備をしちゃいますから。
えーっと、そういえばお名前は?」
「ああ、俺はクレイグというんだ」
「あたしはアリアっていいます。はい、それじゃ食事の準備ができましたよー」
「……え?」
見れば、粗末なテーブルの上には、いつの間にか温かな料理が並んでいる。
炭水化物あり、タンパク質あり、果物あり。消化に良さそうなスープもある。
「あれ? いつの間に――」
「これも神のご加護というものです。
ささ、どうぞお食べください!」
「あ、ああ。ありがたく頂くことにするよ……」
――食事を取ると、栄養が身体中に満ちていくのが感じられた。
しかしそれでも、本調子まではほど遠い。ただ、これ以上ここにいるのは、クレイグにとっては限界だった。
「……アリア、ここまでありがとう。
まだまだ本調子ではないが……こんな俺を、恐らく君は止めるだろう?
だが俺は、今すぐに行かなければいけない。デボラを犠牲にするわけにはいかないんだ」
「んー。神職者の立場としては止めたいところですが、そんな肩書は置いておいて……。
でも、このままではまだ戦えませんよね? あたしが全部、守ってあげるのも難しいですし」
「まぁ、そりゃそうだが」
「クレイグさんは、娘さんを守るのが最優先ですよね。
それなら、あたしの祝福を受けていきますか? ……ちょっと、特別な祝福があるんですが」
「――君には何か、特別な力があるのか? 仮にそれを俺にくれた場合、俺は殺人に使うんだぞ?」
「ふふふ、あなたの力は、あなたのもの。だから、あたしは大丈夫ですよ
クレイグさんが守りの力を望むなら、きっとそれが手に入るはずです。でも、逆に――」
「大丈夫だ。俺はデボラを助けられれば、それでいい。山賊には思うところもあるが、何より娘が最優先なんだ!」
「――ならば祝福を与えよう。
汝は神に身を委ね、欲する力を祈るべし――」
クレイグは、額に優しく触れたアリアの指先を感じながら、目を閉じた。
まるでこうすることが当然のように、身体が勝手に動く。
「――神の祝福はここに在り。
望みと共に、その魂から発芽せよ――」
クレイグは額に一瞬の熱さを感じたあと、辺りの空気が変わったことに気が付いた。
とても静かな、とても澄み渡る、そんな感覚が――
「……おお、おおお?」
アリアが変な声を上げた。
クレイグはそんな彼女を見て、まずは不思議に思う。
「アリア……?
……何で滑るようにして、俺から離れていくんだ? 器用だな?」
「いやいや。これはクレイグさんが手に入れた力でして……」
「え? 俺の?」
「クレイグさんが手に入れたギフト――異能は、『絶対防御領域』ですね。
名前の通り、誰も近付けさせない、守りの異能です」
「ほう……? 俺に、異能が……?」
クレイグが少し動くと、その分だけアリアも同じ方向に押し出される。
「ちょっと、こっちに来ないでくださいよ! 押し出されちゃいます……!」
「……ははっ、これは良い。今の俺が最も望むものだ。
デボラを助けて、そのまま逃げることにしよう。……となると、今の身体の調子でも大丈夫そうだな」
「あたし的には、クレイグさんの体力も心配ですけど……。
でも、早く行かないとですね!」
クレイグとアリアは頷き合って、山小屋を後にした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
山賊たちは、山の中腹の洞窟をアジトにしていた。
洞窟の外には簡単な設備が作られており、内部も過ごしやすい工夫がされていた。
しかしそんな中を、クレイグはどんどん先に進んでいく。
「近付けねぇ!? うわーっ、押し出されるぅ!!」
「こここっ、こっちは潰されるゥ!? ぐぎゃー!!」
攻撃は最大の防御……とはいうものの。
防御は最大の攻撃……ということもあるのだな、とアリアは思った。
クレイグが移動すると、その周りの生物も一緒に押し出されて動くのだ。
そのまま壁に押し付けて、さらにその方向に進めば……まぁ、ぐしゃっと、そういうわけだ。
「クレイグさん、急ぐのは分かりますが、距離感には注意してくださいね!!」
「おう!!」
……そうは言うが、クレイグの足取りは速い。
アリアは、何かのタイミングでデボラまで潰さないかと、どうしても心配になってしまう。
しかし――
「パパっ!!」
洞窟の奥に作られた粗末な牢屋に、ひとりの少女が捕らわれていた。
鉄格子を両手で握りしめて、クレイグに必死に呼び掛けている。
「デボラ、無事だったか!? 今、助けるぞ!!」
「うん、パパ――……って、あれ?」
クレイグが牢屋に近付くと、デボラは後ろに押し出されていった。
この距離は危ないかも――……とアリアは冷や汗をかいたが、ギリギリのところで大丈夫だった。
クレイグは鉄格子を力強く破壊すると、デボラに優しく呼び掛ける。
「さぁ、ここを出よう。……おい、デボラ?」
「あれ……。パパに近付けないよーっ?」
当然ながら、デボラも他の者と同じく、クレイグには近付けない。
「何だと……? アリア、この異能はどうやったら解けるんだ!?」
「えっと~……。これは、解除できないタイプの異能ですので……」
「なるほど。……ではこの後、この異能を消すことは?」
クレイグの言葉に、一瞬の沈黙が流れる。
「はい、できません。
……つまり、返品不可です★」
「何てこった」
アリアの返事に、クレイグは膝をついて崩れ落ちた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
山賊は無事に、全員を倒すことができた。
娘のデボラも無事に、救出することができた。
……しかし、クレイグは肩を落としながら歩いていた。
「ああ。これからは、デボラを抱きしめてやることが出来ないのか……」
そんなクレイグに、デボラはあっけらかんと返事をする。
「悲しいけど、仕方がないよ。おかげで助かったわけだし。
だからこれからは、その力を活かして暮らそうね!」
「……そうだな。例えば……、何があるかな?」
「街を守る仕事とか……。悪者を倒す仕事とか……?
ああ、いっそ冒険者になって、あちこちの迷宮とかを踏破してみたり!?」
「うーん、それは良いかもしれないな。何せ、怪我を一切しないわけだし」
「そうだね、ふふふっ!」
「はははっ!」
「……はぁ。まったく、ポジティブな親子だねぇ」
クレイグとデボラの会話に、アリアは少し呆れてしまった。
まぁまぁ、こういう終わり方もたまには良いものだ――
「――よくもアジトを壊滅させたな!!
せめて、ひとりだけでも……ッ!!!!」
突然、荒々しい男が木陰から飛び出してきた。
そして弓を構えて、その矢を射る――
……アリアとクレイグはその男に対して、距離を詰めて阻止しようとした。
しかし放たれた矢は、最悪なことに――
「デボラっ!!」
クレイグは進む方向を反転させて、デボラを助けに向かった。
アリアはそのまま男に向かい、弓の弦を切ってから、杖でみぞおちに一撃を叩き込む。
アリアがクレイグとデボラのいる方を見ると――
……肩に矢を受けたデボラが、山道の横……高い崖から、まさに落ちようとする瞬間だった。
クレイグは必死になって駆け寄り、デボラに手を伸ばした。
「――クレイグさん、距離ッ!!!!」
クレイグの手は、デボラには届かなかった。
いや、本来であれば、届く距離ではあった。
しかしクレイグが手に入れた異能によって、デボラの身体は空中へ弾き飛ばされ、そのまま放り出される形になってしまい――
「うわああああ――――っ!!!!?」
――崖の下で、項垂れるクレイグ。
彼の言葉は、もう娘には届かない。
「俺のこの力が……、娘を殺してしまった……。
……はははっ、死体なら……抱きしめてやれるのか……。
死体しか、俺は抱きしめられないのか……」
力が無いから失うもの。
力があるから失うもの。
……世界は上手くできていないようで、こんな結末もあるものだ。
「あなたはもう、誰にも傷つけられない。
だからこれからは……あなたの心を守る方法を、探していかないとね」
アリアは血溜まりの彼らに目をやってから、静かにそこを後にした。
#イナズマイレブンGO
#モロボシ・シン