テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
頭が真っ白になる、と言う表現が正しいのだろう。でも、何も考えられない分、聞きたくない情報も理解してしまう。
俺も最初は驚きだったよ、とか。失恋したばかりでそれ以上に愛してくれるのと言われたとか。お酒が入ってないのに身振り手振りと喜怒哀楽が激しい若井を穴が空くほど見つめていた。そのうち君の話にあー、そうだったんだ、良かったねという相槌が入ってきた。一瞬誰のものか分からなかったが、僕のだと気付く。うんうん、と頷く時に視界がぼやけなかったから、意外にも泣いていないとも気付かされる。そのままどこか他人軸で、画面越しに見ているような感覚で話を聞いていた。
一段落ついたのか、若井がプシュッという軽快な音を響かせる。ずっと喋っててごめんね、涼ちゃんも呑んでよとかなり昔に僕が好きだと言ったビールを差し出される。なんで覚えてるかなあ。もうこのビール飲めなくなっちゃうじゃないか。開けずに苦い顔で眺めていると、
「あれ、前これ好きって言ってなかった?ごめん勝手に選んじゃった」
とさらに追い打ちを掛けられる。
「あぁ…。そうだよ。ありがとね」
今僕、笑えてるかなあ。
プシュッ。
軽快な音とは裏腹に僕の心は暗く、どん底にいる様だった。
◻︎◻︎◻︎
暫く呑んだ後、集まるのが遅かった為大分夜が深けていた。泊まる?と聞かれたが食い気味でお断りする。流石に恋人ができたばかりの友人の家には止まれないよ、と乾いた笑いで誤魔化す。
「そう?元貴は気にしないと思うけど。まあ、ともかく夜遅いし気をつけてね」
自然に気遣う君の姿がぼろぼろの心に染み入る。これ以上ここに居たら本当に壊れてしまう。
「ありがと。元貴とお幸せにね」
うん、と少年のような顔で笑い、心臓が飛び跳ねる。この期に及んで尚、僕はまだ君が好きみたいだ。
夜風が涼しい。昼は段々日差しが強く暑くなっているが、この時間はそこまでで。暗闇にこのまま飲み込まれてしまいたかった。
思えば、こんなに人を好きになれたのは初めてだ。期待なんてしていなかったけど、こんな風になるってことはやっぱり少ししてたのかな。ふと、首元に違和感を覚える。
見てみると、それは三角形の飾りがついたネックレスだった。貰った日から普段は見えないよう服の中につけて肌身離さず持っていて、風呂の時はちゃんと外して大切にしていた。かちゃり、とそれを外す。飾りに触れると君との思い出がわっと溢れてきて、それと同時に涙が込み上げてきた。声を押し殺して、道のど真ん中でしゃがみこむ。ぼやけた視界でなんとなく感じる、少ないが通行人からの変なものを見るような視線すら気にならなかった。1つだけ、後悔と言うなら。
僕だけ、君に想いを伝える事が出来なかったな。
そっと、三角形の飾りを握りしめた。
◻︎◻︎◻︎
ここまでお付き合い頂きありがとうございました!
書こうと思った当時はこんなに重くするイメージは無かったのですが、片想いってひたすら辛いよなと思い返しこういった結末に至りました。実はあともう1話、番外編を載せようと思っています。その後はまた新しい12話程の連載を始める予定です。ぜひよろしくお願いします。
次も読んで頂けると嬉しいです。
コメント
2件
初コメント失礼します🙏 完結、ありがとうございました🍏 3人の想いが交差して、のめり込んで読ませて頂きました! 番外編と新しいお話も楽しみにしています💛